第6話 「あああああああ!」
ギシ…ギシ…ギシ…ギシ…
四肢に付いた義肢全てから嫌な音が聴こえてくる。三日間泳ぎ続けてたんだ。海水にやられてしまったのだろう。
スンスン…
うぇっ!今まで気付かなかったけど、今の僕すっっっごく臭い!食事してる時に変な物を見る目で見られてたけど、もしかしてこの臭いが原因か…
鍛練に行く前に身なりをちゃんと整えていこう。
「いらっしゃいまっ……」
店に入った途端、店主が酷い顔をした。
僕が来たのは服と身体、両方を洗浄してくれるオールランドリーという施設だ。
「全洗浄と…このリュックの中身全部をよろしくお願いします。フレーバーは無しで」
「か、乾燥は…」
「お願いします」
アノレカディアの万国共通通貨ナロを支払い、鍵をもらって球体型洗濯機が並んだ部屋に移る。
本当は2機借りたかったが、今の僕にそこまでの余裕はなかった。
「ほいっほいっほいっ!」
リュックの中から洗濯が必要な物を取り出しては投げ入れる。最後に僕が着ていた衣類を押し込んで、なんとか全て詰め込む事が出来た。
「後は僕が入るだけ~」
「洗浄を開始します。怪我の危険がありますので、周りにいる人は機械から離れてください」
「あああああああ!」
そうして洗濯機は真っ裸の僕を入れずに動き出してしまった!きっと最後に押し込んだ分で容量の限界で、オートで作動しちゃったんだ!
やべえよ!もう1機借りに行くか?でも全裸で受付行くのもなぁ~…
「よし、隠れよう」
「おい」
僕の顔は今、どんな色をしているだろうか。恥ずかしさのあまり炎のように真っ赤になっているか、絶望のあまり氷のように真っ青になっているか。
少~し離れた方の洗濯機の前に、洗濯が終わるのを待っている別のお客さんがいた。
「服だけ回してしまったのか?」
「…うん」
「最近身体が成長してな。分解して素材にしようとしている服がある。いるか?」
「ください!」
ラッキー!親切な人で良かった~!
譲って貰った服は僕にピッタリだった。モコモコだけどとても動きやすい。分解するって言ってたし、きっと良い素材を使っているに違いない。
「君が着てるのと同じだね」
この人、銃を腰に付けてる…ってことはこれは戦闘服なのか。
「…お前、磯臭いぞ」
「ラミルダって国から三日間ずっと泳ぎ続けて今日着いたんだ」
「三日間…お前、何者だ?」
「僕は…」
迂闊に名前を教えるべきじゃないよな…こんなアサシンみたいな格好して、もしかしたらハザードドラゴンの封印を解こうとするやつの仲間かもしれないぞ。
「…双流。双剣の双に流星の流」
「その読みで漢字なのか。私はクー・デレフォン」
「クーデレ?」
「はぁ…」
すっごい嫌そうな顔で溜め息を吐かれた。この反応からして、クーデレって呼ばれるのは初めてじゃないっぽいな。
「お互い変な名前を貰ったよね」
「…だな」
洗濯が終わるまでの間、僕達は少しばかり話をした。
「双流はどうしてこの国に?」
「クエストを貰ったからここまで来たんだ」
「クエスト…ってことは双流は冒険者なのか?」
「うん、そんな感じ」
大嘘です!ごめんねクーさん!
「…クーさんは?」
「人を捜している。とても大切な人なんだ」
「へえ~…もしかして好きな人!?」
「…あぁ。とても素敵な方だ…急にいなくなってしまってな」
「特徴は?」
「優しくてカッコいい。優しくも悪に立ち向かう強さを持った偉大な方だ」
うわー!僕に依頼してきた第二王子よりもよっぽど王子様じゃん!いいなぁー!
「…したの?」
「は?」
「キス、したの?」
「ハ、破廉恥だぞ!」
「教えろおおおおお!」
「乾燥が完了しました」
チッ!悪いタイミングで彼女の洗濯機が止まってしまった。
クーさんが機械から取り出す衣服はどれも同じ黒色の戦闘服。しかしそこに混じって、ボロボロになった私服がいくつも混ざっていた。
「それじゃあ私はこれで…なんだソレは?」
「服のお礼。捜してる人、見つかるといいね」
そう言ってお金を押し付けた。迷惑だっただろうか。
「かたじけない。ありがたく使わせてもらう」
衣類を詰めたマジックバッグを肩に掛け、クーさんは部屋から出ていった。
ギシ…ギシ…ギシ…ギシ…
衣類を洗い終えたら次は義肢だ。新しく買うか修理してもらうか。どちらにせよ高い出費になりそうだ。