第5話 国に迫る危機
「王子が戻られたぞ!全員整列!」
巨大な機銃が取り付けられた正門を潜ると、城外を警備していた兵士達が白いタイルの道に沿って並んだ。
(堅苦しいな…)
戦争を彷彿とさせる光景に、ナインはあまり良い感想を抱かなかった。防衛のために必要な事ではあるがと自分に言い聞かせているが…
ドドドドドド!
訓練をしているのか銃声が聴こえた。そしてナインは、これだけはハッキリしておこうと口を開いた。
「ハクバ、一ついいかな」
「どうした?」
「この国に迫ってる危機って戦争の事じゃないよね」
「…だとしたら?」
「僕は未熟者だけどパロルートだ。人を助けるためなら全力で頑張る。だけど戦争なら僕は一切関与しない!」
ナインが怒鳴ると周りの兵士達は驚いて姿勢を崩したり、王子に歯向かうのかと銃を構える者もいた。
「分かっている。ハンドレッド・レジェンズ…特にパロルートはそういう事を嫌うからな。危機は他国からではなく過去から迫っているのだ」
戦争ではないのは分かった。しかし過去からという言葉がよく分からず、その意味を考えながら城の中を案内された。
国王レイジ・アイビスカスと王妃アルマ・アイビスカスは外交のため不在。第一王子アヤト・アイビスカスは亡くなっており、現状この城の主は第二王子であるハクバとなっている。
そのため堅苦しい挨拶などは省略となった。
「あの、僕はここに来たことあるの?」
「ないな。俺とお前はネフィスティアでの交流しかない」
(なんか…ドライな人だな。手紙だと凄い丁寧な印象だったのに)
時計が12時を過ぎ、ナインは豪華な装飾が施された食堂に案内された。そして二人は大きなテーブルを挟んで向かい合った。
「食べながら話そう。コック、料理を運んで来い」
「やったー!三日間ロクに食べてなかったからもうお腹ペコペコだよー!」
従者達が料理が並べ、ナインは次々と皿を取って食べ始める。最初はフルコースを出す予定だったが、彼女の食欲に圧倒され、最終的には満足するまで料理を出す形になった。
「毒味もさせないで無警戒だな」
「モグモグ…毒が入ってるなら…モグモグ…尚更食べさせられないよ…ムシャムシャ…別に僕は重要人物でもないんだしさ」
「…確かにそうだな」
まるで胃の中に流し込むように食べる彼女に対して、ハクバは一皿ずつ毒味させ、味わうように食べていた。
「食べながらでいいから聴いてくれ。このシュラゼアには竜が封印されている。その名は厄災竜ハザードドラゴン。天と地の力を操り大災害を起こし、200年前にこの国を滅ぼそうとした。当時の王、シーザー・アイビスカスはそれを封印したが…今この国にその封印を解こうとする者達がいる」
途中からナインは手を止めて、ハクバの話にしっかり耳を傾けていた。
「ハザードドラゴンは今どこに封印されているの?」
「それは言えない」
(つまり犯人は身内ってことか…)
封印の場所は協力者である自分にも教えてもらえない。それなのに封印を解こうとする犯人は、必然的に封印されている場所を知っている身内に限られるとナインは考察。
「一体何が目的でそんな悪いことをしようとするんだろう?」
そこでナインはすっとぼけた。この部屋には自分達の他に従者達が何人もいる。ここで犯人が絞れた事を伝えてしまうと、犯人が動きを変えたり、最悪の場合誰かの身に危険が及ぶと判断した。
「それも分からない。本当、急でな…分からない事だらけなんだ」
これではどう犯人対策するか策も練られない。ナインは台風をイメージさせる渦巻き模様の料理とにらめっこしながら悩んだ。
(それにしてもハザードドラゴンか。聞いたことない魔物だ。滅多に出会えないレアモンスターなのかな?)
「僕は犯人捜しよりもハザードドラゴン対策をするべきだと思う」
「ほう、なぜだ?」
「足跡一つ見せない相手を止められるとは思えない。だったらそのハザードドラゴンが復活した時、被害を最小限に抑えられるよう備えるべきだよ」
「例えば?」
「強い戦士を集める。それと国民を一時的にでも他国に避難させるんだ」
「その策があったか…」
最後の料理を食べるとナインは席を立ち、口に付いたソースを舐め取って扉へ向かった。
「どこへ行く?護衛を付けよう」
「鍛練しに行くんだから護衛なんていらないよ」
200年封印されているハザードドラゴンがどれほどの強さか分からない。封印を守る事は諦め、少しでも強くなることを彼女は選んだ。
「…ところでハザードドラゴンってどんくらいのレベルなの?」
「封印された時点で千は超えていたそうだ」
(レベル1000オーバー!?…逃げようかな)
戦略的逃走を選択しに入れ、弱気になりながら城を出たナイン。しかし今すぐには逃げ出そうとせず、シュラゼアシティの武器屋を探し始めた。