第4話 「誰かあああ!助けてえええ!」
ビザを出発して丸三日。シュラゼアに向かっていると思われる紙の双胴船を追って、僕は休むことなく泳ぎ続けている。
命懸けの戦いに比べたらマシだけど、流石に休みたい気持ちが強まって…つらい!
「停まって!待って!」
しかし僕が何を言っても船は止まってくれない。目的地まで泳ぎ続けるしかないんだ。
しばらくすると島が見えてきた。ここまでこの船は島を避けて進んでいたが、今回は真っ直ぐに進み続けていた。
あれがシュラゼアなのか?
柔らかい砂に足を着けて歩けるようになると、役目を果たしたのか双胴船は一瞬でふやけてしまった。
少し休憩したらこの島を回ってみるとしよう。
「へっくしょん!…しょっぺ」
リュックの中にある物は全て水を吸って使える状態ではなかった。今食べている食糧も塩の味しかしない。
それにしてもこの島、強力な魔力を持ったやつらが沢山いる。この野性的な感じは恐らく魔物だ。野生の個体が強力なのは厄介だぞ…
「…行くか」
ハクバという人は僕を待っている。そう思うとそれ以上休んでいられず、目の前で待ち構える山岳地帯に足を踏み入れた。
踏み入れたのはよかったのだが…
「あれ…ここどこだ?」
早速遭難してしまった。
登山中に遭難したら正しいルートに戻る方が良いと言われている。しかしそもそも、目的地を決めずひたすら進んだ場合はどうなるのだろうか。
大きな岩を避けてなるべく上がり下がりの少ない道を選ぶが、ネズミ色のゴツゴツとした景色から全く変わらない。
…何か大きな魔力が近付いて来る。角で魔力を捉えた僕は、大岩の陰に身を潜めた。
ヒタヒタヒタ…ゴロン
六本足の巨大な魔物が岩を蹴る。あれはデカメレオンだ。しかも山岳の景色に擬態している…気付かずに進んでいたら大きくて長い舌に捕まっていた。
デカメレオンはその場で固まってしまった。
困ったな…このままじゃ動けない。魔法の杖は無いし、光太がいないから超人モードにもなれない…
いや待てよ!あるぞ!光太がいなくても変身出来る超人モード2が!
超人モードとは僕が変身した姿の名称だ。
相手の能力をコピーして完成する超人モード1と、仲間達の力が集まって完成する超人モード2の二種類ある。
モード1は光太にミラクル・ワンドを使ってもらわないと変身不可能だけど、モード2はそれ無しで変身出来る!
よぉし!能力のテストも兼ねてあいつを倒す!
…ところで超人モード2ってどうやって変身すればいいんだ?初めて変身した時は次元を超えて仲間達の想いが届いて変身出来たんだよな。あれ以来変身してないけど上手くいくかな?
サヤカ…ジン…ツバキ…ツカサ…
「皆の力!貸してくれえ!超人モォオオオオド!」
「…あれまぁ」
変身始まらねえ!
しかも叫んだからデカメレオンにバレた!最悪だ!早く逃げないと!
「誰かあああ!助けてえええ!」
そして叫ぶ!辺りに強い冒険者がいたらきっと助けてくれる!そう信じて逃げながら叫んだ!
「助けてえええ!助けてえええ!誰かあああ!」
ドンドンドンって足音が近付いている!
シュルッ!
妙な音で察した僕は横へ跳ねた。すると太い舌が背後から伸びてきてた。
「ハクバアアア!僕だ!ナインが来たぞおおお!食べられる前に助けてくれえええ!」
ズドッ!
妙な音がすると足音が止んだ。恐る恐る振り変えると、デカメレオンの大きな首が切り落とされている。そのそばには高そうな服を着た少年が立っていた。
それにしても鍔が派手な剣だ…
「その額から生える角…サキュバスのナイン・パロルートか?」
「…もしかして君がハクバ・アイビスカス?」
「そうだ、俺はハクバだ。遅かったから迎えに来てやったぞ…どうした?」
「…えっと、ごめんねハクバ。どういうわけか昔の君との記憶がなくって…」
「そうだったな。ネフィスティアを退学する際に俺に関する記憶は全部抜き取っておいたんだ」
…記憶を抜き取った!?
「君は一体…何者なんだ?」
「このシュラゼアの第二王子ハクバ・アイビスカス。近い将来この国の王になる男だ」
やっぱり!この人がハクバ・アイビスカス!僕に手紙を送ってきた人物!
「…一応自己紹介するよ。僕はナイン・パロルート。君に呼ばれてこの国にやって来た。この国に迫っている危機について詳しく教えて欲しい」
「あぁ、とりあえず場所を移そう。こんな場所では落ち着いて話も出来ないからな」
いつの間にか凶暴な魔物達に取り囲まれていた。いくら彼が強くても、これだけの数を相手にするのは厳しいぞ…
「転移」
ハクバが呟くと僕達の身体が光り、一瞬にして大きな城の前に移動した。
今のは転移魔法だ。しかも道具や詠唱を必要としない高レベルな魔法だ。
「ここがシュラゼアの首都シュラゼアシティだ」
目的のハクバと出会い、シュラゼアシティに到着した。しかし本題はここからだ。
シュラゼアに迫る危機…それは一体なにか。それを聴いて、今後の動きについて考えなければ。