第2話 「せめて国の方角だけでも…」
シュラゼアへ行くと決めたけど、その国がどの方角でどれだけ離れた位置にあるのか分からない。
しかしアノレカディアには頼んだ場所まで飛ばしてくれる転送屋がある。距離によってはお金が掛かるけど、早く到着出来ることに越したことはない。
僕は最寄りの町の転送屋へ来た。以前はシステムにトラブルが発生していて使用できなかったけど、今日は平常通りに稼働していた。
「しかも今日に限って他の客が少ない!ラッキー!」
建物に入ると、カウンターに立つお兄さんが笑顔で挨拶してくれた。光太には悪いが彼よりもカッコいい。
「いらっしゃいませ、一名様ですか?」
「はい!シュラゼアという国まで飛ばしていただけませんか?」
僕は渡された書類に記入をする。その間に受付のお兄さんはコンピューターで作業していた。
「書けました………あの、店員さん?」
書類を渡そうとした時、お兄さんが困ったような顔をしていた。
「誠に申し訳ありませんお客様。シュラゼア国ですがつい先日、国王妃直筆で転送を一時的に中止させるよう申請書が商会に届いたそうで…誠に申し訳ありませんが…」
転送拒否…つまりシュラゼアには飛ばしてもらえないってこと!?
「一時的って…」
「はい…いつから再開なのかはまだ決まっていなくて…」
ハクバって人から手紙を貰ったこのタイミングで…何か妙だ。因果関係が無いとは考えられない。
「そ、それじゃあシュラゼアに一番近い場所に飛ばして貰う事は出来ませんか?」
「それもちょっと…法律に触れてしまうので…」
なんてこった!頼りにしていた転送屋が使えないだなんて!今の僕には魔法の杖が1本もないんだぞ!
「せめて国の方角だけでも…」
店員さんにシュラゼアについて色々尋ねたが、結局どの質問も違法に成りかねないという理由で情報を得る事は出来なかった。
「う~ん…」
花壇に腰を降ろし、送られて来た手紙を再度確かめる。もしかしたら、何かヒントがあるかもしれない。
「…縦読みじゃなさそうだし…クンクン」
化学薬品とかの臭いはない。文字が隠されている可能性も無さそうだ。
そうだ!こういう時には占い師に頼んでこれから何をすればシュラゼアに辿り着けるのか見てもらおう!
僕はすれ違う通行人に尋ねて、町一番の占い師がいるテントの前までやって来た。中から甘い香りが漂ってくる。正直に言って苦手な匂いだ。
早速テントの中に入ると、顔を隠した占い師が水晶玉が置いてあるテーブルの前に座って客を待っていた。
「おや…お客さんかい?今日はもう来ないと出ていたんだけどね…占い1回、500ナロだよ」
「僕、行かなきゃいけない場所があるんです。どうやったらそこまで行けるか占ってくれませんか?」
そう尋ねながら料金をトレーに乗せる。占いなんて久しぶりだ。学生の頃、一時期熱中してたツバキに占ってもらって以来だ。
占い師は水晶玉に手を近付ける。それに触れないように手を動かしながら、何かブツブツと唱え始めた。
「ギラヒリョ~エングラ~ゴゴナオヤ~ダイダ~」
水晶玉の中で魔力が乱回転している。
水晶とは未来を見る装置ではなく、あくまでも集中力を高める為の道具に過ぎない。なのでシュラゼアに辿り着くにはこの占い師さんの実力に掛かっている。
「カッ!………目的地はシュラゼアだな?」
「は、はい!どうして分かったんですか?」
「シュラゼアに危機が迫っている。しかしお客さんだけじゃどうにもならないよ。道中、仲間を増やした方が良いかもね」
「それで、シュラゼアにはどうすれば行けるんですか!」
「波が導いてくれる。それ以上は分からない」
それだけ!?500ナロも払わせといて難解なヒントしかくれないの!?
「占ってくれてありがとうございます」
一応、接客してくれた事には礼は言っておくけど…もう二度と占いなんて頼らんぞ!この水晶玉野郎!どうせアレだ!頭を隠してるのもこの水晶玉みたいなハゲ頭を隠したいからだろ!
それにしても波が導いてくれるどういう意味だ…とりあえず関係ありそうな港町へ行ってみるか。