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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
白刃の王子と忘却の絆
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第1話 「僕知らないよこんな人」

 強敵アン・ドロシエルとの戦いを乗り越えた僕達は僅かな間だけど何もない平和な日常を過ごしていた。

 しかし日常に終わりが近付く。今、新たな冒険が始まろうとしていた。




 ボロアパートの和室には、僕の世界アノレカディアと、この世界を往来出来る転移魔法の杖アノレカディア・ワンドというゲート型の装置が設置してある。

 ある朝、その装置の前に謎の封筒が落ちていた…


「どうだ?何か分かりそうか?」


 この部屋の主であり親友の光太には、念のため封筒に触れないように言っておいた。もしかしたら開いた時に危険な魔法が発動するブービートラップかもしれないので、開けるのは僕がやる。


「15秒間だけ、夜中に向こう側のワンドが起動したデータが残ってる…あそこにゲートがあるって知ってるのは限られた人だけなのに」

「誰かが手紙を送って来たってことは?」

「封蝋にわざとらしく魔力が付いているんだ。僕の知らない、きっとこの手紙の送り主のね」


 僕達が眠っている夜中にアノレカディア・ワンドは起動した。それ以外の事は何一つ分からなかった。

 なので、次にやることはこの封筒を開くことだ。


「開けた瞬間に少しでもヤバイって感じたらワープ・ワンドで遠くまで飛ぼう…開けるよ?」

「お、おう…」


 頼むから何も起こらないでくれ。そう祈りながら、恐る恐る封筒を開披(かいひ)した。


「な、何も起こらないや…中には折り畳まれた紙が1枚だけ…」


 罠は仕掛けられていない、普通の手紙だ。

 それにしても誰が送ってきたんだろう?


「読んでみようぜ?」

「うん、そうだね」


 とりあえず書かれている事を確かめてみよう…




 忘れ去られし友人より、親愛なるナインへこの手紙を送る。


 僕はハクバ・アイビスカス。今はシュラゼアという国の王子をやっている。覚えてないだろうけど、昔はネフィスティア学園の生徒で君やジン達落ちこぼれ組の仲間だったんだよ。


「妙に馴れ馴れしい文章だな。お前の知り合いか?」

「いや…ハクバなんて…僕知らないよこんな人。だけどジン達の事を知ってる…僕が落ちこぼれなのは有名だけど、他の皆を知ってるってことは本当に…」


 今、シュラゼアに危機が迫っている。情報が漏れる恐れもあるので詳しくは書けないが、何の罪もない国民達の身が危ない。

 戦闘部隊パロルートをはじめハンドレッド・レジェンズに救援を要請したけれど、残念ながらパロルートは別件でこちらに来れず、他に至っては若い王子の戯言だと相手にしてもらえないか、返答すらなかった。


 これはパロルートに対してではなく、親友として信じられる君への頼みだ。どうかシュラゼアへ来て欲しい。そして共に危機に立ち向かって欲しい。僕には仲間が必要なんだ。


 必ず来てくれると信じている。だから僕はこの名に相応しい宝刀と共に君を待とう。




「親友って言われても君のこと知らないんだけど…」

「行かなくていいぞナイン。これはきっと罠だ」


 確かに光太の言う通りかもしれない…それが何もしない理由にはならないけど。


「罠かもしれない。だけどこれが本当だったとしたら…そう考えたら放っておけないよ」


 僕の親友を偽る人物かもしれない。だとしても助けを求めていることが事実なら、僕は行かなきゃならない。


「僕、シュラゼアに行くよ」

「俺も同行する」

「ダメだ。君がいなくなったら誰が魔獣からこの世界を守るんだ。ホッシーだけじゃ手が回らないし、ユッキーだってまだ修行中なんだよ」

「そう言い返されると思った…尚更一番強いお前がいなくなったらダメだろうが!」

「じゃあもしも僕が死んじゃったらどうするの?諦めて何もしないわけ?」


 セコい質問をしてしまったかもしれない…けど本来、この世界は君達で守るべきなんだ。それに干渉して役目を奪ってしまった僕にも責任はあるけど…


「それじゃあ準備するね」


 光太を黙らせた僕は支度を始めた。とても申し訳なくて、なるべく音を立てないよう静かに…




「お前が死んだら俺も死んでやる」


 支度を終えてゲートの前に立った時、ようやく光太の口から物騒な言葉が出てきた。

 その言葉を聞いて彼らしい回答だと、不思議と安心してしまった僕がいる。


「大好きな俺が死んだら嫌だろ?だからナイン、必ず生きて帰って来い!」

「大好きな俺って自分に自信ありすぎでしょ………うん、約束する。僕は死なない!死んだとしても蘇ってやるから君は死ぬな!」


 光太が戦えるように、魔法の杖が入ったウエストバッグは置いていくことにした。すると光太はある物を僕に渡してきた。


「ミラクル・ワンド…」

「お前がいなきゃ持ってても仕方ないからな。まあお守り代わりに持って行ってくれ」


 持って行ってくれって…もうリュックの中パンパンなんだけど。

 まあ、今まで幾度となく奇跡を起こしてきたこれがあるのは心強いかな。


「それじゃあ行ってくる!」

「あぁ、絶対帰って来いよ」


 力強いタッチを交わして、僕はアノレカディアに渡った。世界を繋ぐ穴が閉じる直前、振り返ると彼は笑顔で手を振っていた。

 そして穴が塞がり、もう1つのアノレカディア・ワンドを設置してある滝の裏の洞窟から飛び出した。


「久しぶりの冒険だ!ワクワクするなー!」


 目指すはシュラゼア。ハクバ・アイビスカスという人物を助けるための冒険が始まった。

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