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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
ここから始めるナイン・パロルート
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第1話 ナイン・パロルートについて

 白く長い髪と右の額から生える一本角が特徴的な少女ナイン・パロルート。彼女は異世界アノレカディアからやって来たサキュバスという魔族である。


 ある時、彼女の滞在する世界を破壊しようと邪悪な魔女アン・ドロシエルが現れた。

 しかしナインは黒金光太をはじめとする頼もしい仲間と共にアンと彼女の仲間達に立ち向かい、世界を守った。


 これは次の冒険が始まるまでの日常の話である。




 崩壊したまま人が住み着かず、廃墟となっている単端(たんたん)市に朝日が差す。


 そんな廃墟の街に建つボロアパートには住人がいた。

 201号室の扉が開き、白い髪を結んだ少女が出てきた。

 彼女の名はナイン・パロルート。一見するとただの女の子にしか見えないが、その正体はサキュバスと呼ばれる魔族である。彼女は異世界アノレカディアからやってきた。


「って擬態する必要なかったんだ」


 そう呟くと、グニュッと額の右側から上向きに反れる角が生えた。


 ジャージ姿のナインは市販の素材で補強された階段を降りて駐車場に立つと、腰に巻いていたバッグに手を入れた。

 このウエストバッグはただのバッグではない。なんと大量に物を詰め込むことが出来る魔法のバッグなのである。


「あった!メタル・ワンド!」


 そうして取り出したのは周囲の景色をクッキリと映す程まで研磨された金属の棒だった。バッグが魔法のアイテムなら、出てくる物も普通ではない。


「えいっ」


 靴に向かって杖を振る。すると靴は瞬く間に硬質化し、金属製で重たい物となった。


 このメタル・ワンドをはじめ、バッグの中には魔法の杖と呼ばれる物が数え切れないほど収納されている。実際、沢山作りすぎて製作者であるナイン本人もどんな杖があるのか把握していない。

 ナイン製の魔法の杖は大抵の物が振るか握るかすれば能力を簡単に発揮出来るようになっている。というのもナインは魔法という術を得意としておらず、こうすることでようやく魔法が使えるようになるのだ。しかし簡単に使えるということは時としてデメリットにもなり、かつての戦いで敵に杖を利用されて地獄のような苦しみを味わうことがあった。


「安全装置とか付けた方がいいよな…」



 靴と両腕に巻いていたバンドを金属に変えると、ナインはその場でメタル・ワンドの素振りを始めた。


 ブンッ!ブンッ!ブンッ!


 静かな町には空を切る音だけが響く。歩行者の足音や自動車の排気音は全くなかった。


 しばらくすると素振りを終えた。そして目を閉じて、これまで戦ってきた強敵を思い起こし、それを相手に戦い始めた。


(この街がこんな風になったのは僕に力が足りなかったからだ…もっと強くならないと!)


 敵は形を変えて様々な攻撃を打ち込んでくる。それを避けるように現実の身体を素早く動かし、反撃の突きを放った。


「掴まれた!」


 しかしワンドは敵に届くことなく握られてしまい、そのまま自分の部屋がある方向に投げ飛ばされてしまった。


「うわあああああ!」


 ドゴオオオオオン!


「いって~…おいナイン!毎度毎度イメトレでぶっ飛んでくんのやめろ!」


 崩れた天井の瓦礫から少年が出てきた。この少年黒金(くろがね)光太(こうた)はナインの同居人であり、この世界で初めて出会った人間だ。


「やめろ!光太には手を出すな!」

「え?なに?何が見えてんのお前」


 ナインがイメージしている敵は今、そばに倒れていた光太に手を出そうとしていた。優勢な今、人質を取る必要はない。敵は光太を殺すつもりなのだ。


「光太…分かった、君の覚悟は無駄にしないよ」

「おいなんでブラスト・ワンドに持ち替えるんだよ。人質いますよ~もしも~し?」

「ブラスト・ワンド!」


 ドゴオオオオオン!


 そして敵は光太もろとも強力な衝撃波を受け、壁を突き破って吹っ飛んでいった。


「ふぅ、なんとか勝った…ってえええええ!?どうしてこんなことになってるの!?大丈夫!?」

「お前回復魔法使えないんだからさぁ…少しは加減しろよな」



 アパートを直す杖はあるが、傷や病を治す杖はない。なので光太の折れた腕には添木が巻かれることになった。


「今度アノレカディアのお医者さんに診てもらおうね」

「いや今から連れてってくれよ。アノレカディアがどうなのか知らないけどな、骨折とかこの世界なら普通に病院行くレベルの重症だからな」

「うん、馬鹿に付ける薬はない」

「馬鹿はどっちだ!?それになんで今そのセリフが出てくるんだよ!大体イメトレで被ダメまでイメージしなくていいんだよ!」


 ナイン・パロルートという少女はこういう柄の魔族である。真面目かと思いきやふざけたい時にはふざける、適当な女の子なのだ。

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