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最終話 「つらい日々だったけど…」

「うおおおおおおおおおおお!」


 アン・ドロシエルの魔獣を召喚する装置は無事に停止した。

 それをナインのお兄さんであるキョウヤ・パロルートが超人モードとなって完全に破壊したことで、ようやく一件落着となった。


 しかし次の日、壊滅状態の単端市を巡り改めて、失ったものはもう戻ってくることはないと実感した。特に大勢の人が命を奪われたことに関しては、俺が元凶と言っても過言ではない。

 本当に取り返しのつかない事をしてしまった。




「無事で良かったな」

「うん、早く顔見せて安心させてあげないと」


 灯沢は市外へ避難していた家族に挨拶をしてから修行のため、水城の母親がいる北海道へ渡るそうだ。保護者にどんな言い訳するつもりなんだろう。


 離れたところで、ナイン達はハンターズのやつらに挨拶をしていた。どうやらあいつら全員で月面都市メトロポリスに移り住むそうだ。

 中止になった月内部の都市開発と魔獣フェン・ラルクが封印されていた装置の解析に着手するらしい。


「修行頑張れよ。水城も体調気を付けてな」

「ええ、たまに遊びに来るからね。光太君も元気でね」


 アン・ドロシエルを倒したからといって魔獣が出てこないということはない。そのため水城は世界を渡り歩いて、魔獣に備えながら単独での修行に励むそうだ。


 挨拶を済ませた後、ナインは魔法の杖でそれぞれの目的地に彼女達を飛ばした。ただ水城は修行のためだと言って大きなリュックを背負い、歩いてこの地から去っていった。


「寂しくなるね」


 そうだな。街が壊滅した今、ここに残るのは俺とナインだけだ。崩壊したこの街に帰って来ようとする人もいないだろう。




 元の世界に帰るため、サヤカ達はアノレカディア・ワンドがある俺達の部屋に上がった。

 俺達の住むボロアパートにもあと数日すれば、水城財閥の力で電気と水、それとガスが戻ってくる。つらい生活もあと少しの辛抱だ。


「あれ?キョウヤさんは?」

「この宇宙を調べてからアノレカディアに帰るって飛んで行っちゃった」


 そうか、挨拶しておきたかったんだけどな…


 アノレカディア・ワンドが起動し、もう一つのワンドが設置されている滝壺の景色が現れた。


「それじゃあ光太、ナインのことよろしくね」

「あぁ、勉強頑張れよ」


 …ところで俺はこれからどうなるんだろう。市外の高校に転入させてもらえたりするのか?


「じゃあな!風邪引くなよ!」

「たまには手紙とか寄越しなさいよね。ちゃんと返事書くから!」


 ツカサとツバキがワンドを通り、向こうの世界へ渡った。


「何かあったら呼べよ。授業抜けてでも助けに行くからな」

「それってあなたがサボりたいだけでしょ…でもまあ、ヤバくなったら呼んでよね。皆で助けに行くから」

「うん。その時が来たらまたよろしく…少しの間だったけど一緒に戦ってくれてありがとう!」


 サヤカはナインと強く握手したあと、ジンと共にアノレカディアへ渡った。その後にワンドを停止させようとした時、ノートとバリュフが土足で部屋に上がってきた。


「待ってー!待ってー!待って待って待ってー!」

「君達まだ帰ってなかったの!?」


 いや泥塗れの靴で上がってくるなよ。足跡出来てるじゃねえか。


「ノートさんが世界を移動する装置の設定を変えてしまった。お前達のソレを使わせてもらうぞ」

「あぁ、文句あんのか?」

「文句ならありますよ。どうしてマニュアルを紛失してしまったのか。お互い機械に強くないからちゃんとこのねずみ色のファイルに挟みましょうねって約束したじゃないですか?見てくださいよこのファイルの中身。僕が買った物の分しかないじゃないですか」

「………まあ、あれだな。挟めって言わないお前にも責任があるし、お互い文句の言いっこナシで」


 そう言われた時のバリュフの不満そうな顔は特に印象的だった。こいつもこんな顔するんだな。


「ほらほら喧嘩しないで。バリュフ、ヨウエイのことよろしくね」


 バリュフにはかつて魔獣人だったヨウエイを封印してあるシール・ワンドを渡してある。

 アンによって転生させられた人間の寿命は短い。ナインはそれを解決する方法を探してもらい、彼を救ってもらうように頼んだ。


 ヨウエイはアンに利用されていただけであり、命は助けたいとナインと元同級生達はバリュフにワンドを託したのだ。


「ナイン、黒金、僕からも頼みがある」

「な、なんだ急に」

「もうこの世界には白田幸成も車田健也もいない。それでもあいつとの思い出が残っている大切な世界なんだ。だから頼む。再び発生する魔獣やいずれ来るであろう新たな敵がどれだけ強大だろうと、そいつからこの世界を守ってくれ」


 新たな敵…来る可能性がなくはないのか。


「うん、任せてよ!」

「ファーストスペルについて教えてもらった恩があるしな」


 その言葉を聞いて安心したのか、バリュフは微笑んでアノレカディアに渡った。

 …あいつが笑ってるところなんて初めて見た気がする。


「そんじゃああたしも行くからな。この世界は任せたぞ。ナイン・パロルートと、そのバディ黒金光太」


 ここまで軽い口調だったノートは、襟を正して直立し、俺達に一礼。それからアノレカディアに渡って行った

 それにしてもバディか…良い響きだ。


 こうして皆、新しい日常に向かってこの地から去っていった。


「あっという間だったね…大体2000文字しか綴られてないのにお別れ終わっちゃったよ」

「つらい日々だったけど…良い経験が出来た」


 アン・ドロシエル達との戦いで、俺は過去に犯した罪に向き合うことになった。車田に対して謝罪は出来なかった。したところで許されるはずもないだろうが。

 自分の弱さを痛感させられ、それからどうするかを考える機会をもらった。まあ、勢い任せに戦っただけ何も変わってないけど。


 …経験はしたけどそこまで成長してないな。いや、短所を見つけられたから良かったと考えるべきか。


「せっかく市外に出られるようになったんだし、何か美味しい物食べに行こうよ」

「だな」


 すぐに支度をして家を出る。空には大地ではなく、俺達で取り戻した青空が広がっていた。


「そうだナイン、アンと戦う前に何か言いかけてたよな。この戦いが終わったら…って」

「戦いが終わったら、どこか遠くに行こうよって話したよね。どこか行きたい場所はあるのかなって」

「まだ決まってないんだよな~」


 日常を脅かした敵との戦いはこうして幕を閉じた。


 俺とナイン、二人の生活が戻ってきた。

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