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第161話 「アン・ドロシエルをぶっ倒す!」

 ジャヌケの力を合わせたナイン・ワンドを投擲した後、光太は魔法で用意した料理を次々と平らげていた。

 その隣で僕は、とある1本の杖を眺めていた。


「…ふふん」

「なんだそれ?…アルバム?」

「回想魔法の杖アルバム・ワンド。見て、まだ僕が学生だったの頃の写真だよ」


 この杖はネフィスティア在学中に作成してから今まで、バッグの中で僕にとって大切な出来事を記録してくれていた。ただ、アンにバッグを奪われた時に中破させられたみたいで、一部の記録は壊れてしまっていた。


「これ何年前だ?」

「小等部のバッジが6つだから僕が12歳の時、4年前だね…」

「ツカサ金髪じゃねえか」

「中等部に入る少し前だったね。いわゆる中学デビューってやつだよ。確かツバキに嫌がられて泣く泣く戻してたっけ」


 懐かしいなぁ。いやまあ、基本いじめばっかりで嫌な場所ではあったけど、皆との思い出は楽しい物ばかりで、どれも一生級の宝物だ。


「世界は直ったかな」


 直っていてもらわないと困る。けどそれを確かめることはもう出来ない。お兄ちゃん達に助けてもらうとは言ったけど、それも実現されるかどうか分からない。

 光太が隣に座り、肩を合わせてきた。ここは独りでは寂しすぎる場所だ。彼には悪いけど一緒に来てもらえて良かった。 


「光太、ありがとう」

「礼を言われるような事はしてないけど…どういたしまして」


 アルバム・ワンドに思い出が増えることはもうないだろう。


「ナイン、悲しいのか?」

「え?」

「涙出てるぞ」


 あれ…本当だ。こんなこと初めてだ…


「大丈夫、ここにはお前だけじゃない。俺がいる」

「うん…」


 彼に泣くなって言っといて僕がこれじゃカッコ悪いな。


 サヤカ…ジン…ツバキ…ツカサ…頼むから無事でいてくれよ…そしてアンをやっつけてくれ!




「ナイン…」


 涙を拭っていると、懐かしい情景が浮かぶ。課題で分からないところをサヤカに教えてもらったなぁ。


「ナイン!」


 あぁ…ダメだ!幻聴が聴こえる!もうあの頃には戻れないのに!


「ナイン!戻って来て!」

「ごめんみんな!僕はッもう!そっちには帰れないんだ!」

「おいこら!」


 突然、光太が頭を叩いてきた!こっちはまた涙が溢れ出そうなのになんて心のないやつだ!


「サヤカの声が聞こえるぞ!」


 あれ?…幻聴じゃ…ない?


「お前以外に誰がサヤカの愚痴を聴くんだ!俺は嫌だからな!」

「守れなかった人がいるってなったら盾使いである私の経歴に傷が付くのよ!さっさと戻って来て後ろから魔法撃ってなさい!」

「まだ5人の中で誰が最強か決めてなかったよな!お前がいないと決められないんだわこれ!さっさと戻って来い!」


 サヤカだけじゃない!ジン…!ツバキ…!ツカサ…!


 これは声じゃない!想いだ!みんな向こう側で僕が帰って来るのを待ってくれてる!


 みんなまだ諦めてないのに…僕が諦めてどうするんだ!


「光太!こんな湿っぽい場所、さっさと脱出しちゃおう!」

「脱出って…無理だ。ジャヌケほど力のある杖はもうないんだろ。あれくらいなきゃこの絶望庭園から脱出なんて無理なんだ」

「力なら届いてる!」


 きっとナイン・ワンドが開けた通り道がまだ残っていたんだと思う。そのおかげで皆の想いがここまで伝わって来たんだ。

 僕を信じてくれてるこの(想い)、確かに受け取ったよ!


「光太…君が来てくれたことは全く無駄じゃなかった!マジでありがとう!」

「脱出出来るのか?」

「今までの僕の何を見てきたのさ!?信じてよ!」


 瞳を閉じて見えてくるのは懐かしい情景などではなく、今も勇敢に戦い続ける仲間達の姿だった。


「「「「戻って来い!ナイン!」」」」

「あぁ!」


 絶望庭園から元の世界へ戻る。ただそれで終わりじゃない。この力で皆と一緒に…!


「アン・ドロシエルをぶっ倒す!」


 その時、変身が始まった。こうなるという確信はなかったけど、皆の力が集まってこれが出来るような気がした。


「どうしたんだナイン!?身体が光ってるぞ!」


 ミラクル・ワンドによる奇跡なし。これから誕生するのはこれまでにない新しい超人モード!

 カテゴライズするなら、超人モード(ツー)だ!


 これまでと違い、右側の角に変化が現れない代わりに額の側から黒色の角が生える。

 服装が光太から借りていた動きやすい物から、学生であるサヤカ達が着ている制服に似た物へと変化する。しかしヤンキー自前の変形学生服みたいになってしまった。


「だっっっ──」

「うるさいよ!ネフィスティアの学生服は戦闘服でもあるから、これで良いの!」


 フォーメーションソードと全く同じ剣の付いたベルトが巻かれる。そして頭上に出現した学生帽を被ったことで、ようやく新しい姿が完成した。


「信じる想いは剣となり、一筋の道を切り開く!超人モード2!トラスターソードマン!」


 凄い!みんなの力が僕の中に!ミラクル・ワンドが必要ないのもそうだけど、烈火と堅氷との違いで重要なのはそこじゃない!


 今度の僕は仲間の力でパワーアップ出来たってことだ!待ってろよみんな…すぐ行くからな!


「ウォリャアアアアア!!」


 剣を抜いて闇を切り裂いた。そして絶望庭園に相応しくない、まるで希望のような光が手を差し伸べるように僕達を照らした。


「さあ、みんなの元に帰ろう!」

「…おう!」


 光太は慌てて杖を戻してバッグを巻いた。さっきまでの弱気はどこへいったのか、今では凄く頼もしい表情を見せている。

 僕は武者震いしている彼の手を握り、そして光の中に飛び込んだ。




 絶望庭園を抜け出した直後に見えたのは、夕日が沈む光景だった。夕空に裂け目はない。

 どうやら先に放ったナイン・ワンドは無事に世界を直したみたいだ。


「どうして!?お前達は絶望庭園にいるはず!あそこからは誰も出られないんだぞ!何をした!?」


 アンは魔獣の魔力に溢れている。驚き憤ってはいるけど、まだまだ敵の方が優勢だ。


「ナイン!おかえりって凄い格好!?不良みたいだよ!」

「うるさい!イカしてるって言えよ!カッコいいだろ!」


 僕達が戻るまでに随分とやられたな。立っているのはサヤカ達だけじゃないか…


「もう一度尋ねるわ…どうやって私のユニークスキルから脱出したァ!?」

「え…アンだよねあれ?口調荒くない?」

「あれがブス魔女の本性ってことだろ。品性の欠片もないな」

「うるさいぞ黒金!魔獣を操るしか取り柄のないお前にとやかく言われる筋合いはない!」

「おぉ~言いたきゃ言えよ。これから負けるやつに何言われても気になんねえから。負け犬らしく吠えとけやこのブス!」


 うわ~光太め、元の世界に戻れたからって調子に乗ってるなー…あれ?少し震えてるぞ。


 強気に振る舞う彼の背中をチョンと鞘で触れると、ビクンと震えて跳び跳ねた。


「キャッ!?…ナインッ!」

「無理に強がんなくても大丈夫だよ。僕もパワーアップしたけど内心勝てるか不安だし…」


 確かに相手が宿す魔獣の数は減っているけど、それでも膨大な魔力を感じる。厳しい戦いになることに変わりはない。

 しかし光太は固い表情に戻り、サヤカ達に右手を差し出した。


「フォーメーションソードだ。俺の身体を使ってくれ」

「良いけど…本気で動かしたら壊れるかもよ?」

「そんなこと言ったらこいつなんて四肢ないぞ…壊れたって後で治してもらえばいいしな」

「…だってさ。みんな、準備はいい?」

「オッケー」

「もちろん!」

「やってやろうぜ」

「「「「フォーメーションソード・コンバイン!」」」」


 そしてサヤカ達は並んでいた順に柄、鍔、刃、鞘に変身し合体。光太はそれを掴むと抜刀した。




 日が沈んで夜になった。インフラが死んでいるこの場所は、新月も相まって凄く暗かった。


「シャイニング!」


 光太の剣が発光した。それを真似して僕も「シャイニング!」と唱えると、僕の剣も同じように光りを放った。

 この姿だとサヤカみたいに魔法が使えるようだ。


「あら?場所が丸分かりよ?」


 対して指摘するアンの姿は見えない。魔獣の力で暗闇に溶け込んでいるのか。しかも魔力すら感じられない。徹底的に隠れている。


「それじゃあ俺達から行くぞ!」


 そう告げた光太が右斜め前へ走り出した。


「そこだ!」


 刃が衝突し、腕が硬化したアンが姿を現した。そして左手に握る鞘の口を向け次の瞬間、ドカン!と爆発が起こった。


「くっ!?どうして分かった!?」

「魔獣と繋がれば必然的に宿主のお前とも繋がるからな…今度は左脚で蹴りだ。しかも即死の毒付き」


 光太の言った通り、アンは左脚で蹴りを繰り出した。身体を反らして回避した彼は、軸となっていた右脚を根元から切り落とした。


「今だ!」


 そして姿勢を崩した敵に連続突きを放つ。最後に斜めに切り裂くと、アンの身体が大きく開いた。

 開いた身体から魔獣が飛び出して光太を襲うが、彼はそれを回避。

 背後から走る僕はそいつを切り捨てて、目標に迫った。


 しかし次の瞬間、アンが5人に増えた。あれは分身だ。


「跳べ!」


 言われた通りに僕は跳躍。すると光太はその場で回転し、分身を全員真っ二つにした。

 僕と同じように空中にいた本体は、今まさに光太を狙って攻撃を放つ寸前だった。


「させるかよ!」


 クイッと鞘の口をアンに向ける。そこから銀魔法で造った鎖付きの銛を射出し、狙っていた胴体に命中させた。


「ウオオオオ!」


 鎖が縮んでいき、僕の身体は銛の先端に引き寄せられる。そこから剣を振り下ろし、今度は上半身を左右真っ二つに斬り分けた。


「なめやがって!」

「ウワッ!れ

「ナイン!」


 それでも当たり前のように左腕が動き、叩き落とされた先で光太にキャッチされた。


「あいつは多分、強力な魔獣を残してないんだ。バリュフがスレイヤーで攻撃した時、一度の攻撃で魔獣を大量に殺してただろ?」

「そっか!あの時点でアンは凄く弱体化してたんだ!」


 光太の言葉を聞いて少しばかり勝機が見えてきた。


「このガキャアアアアアア!!!」


 あいつの身体にどんな魔獣がいたのか分からない。けど上手く使えば僕達を瞬殺だって出来たはずだ。

 つまり今は序盤の時とは違って、まともに戦えるレベルまで差が縮まっている!


「斬り殺す!」


 アンは取り回しの良いカットラスを召喚して二人に分身。そして僕達に襲い掛かった。


「この攻撃は防がず避けろ!その剣は斬った相手を絶命させる能力を持った魔獣だ!」


 光太は身体を操るサヤカに言い聞かせる。彼は高速の刃を滑らかに避けると、鞘を正面に向けて魔力を解き放った。

 一方、こちらのフォーメーションソードはただの剣だ。相手の攻撃を全て弾き返し、隙を逃さずに剣を握っている腕を切り落とした。


「なにッ!?」

「そしてその剣を撃ち壊す!」


 ベルトから鞘を取り外して魔獣を向く。そこから放たれた魔力の弾が、離れた腕もろとも剣を消し飛ばした。


「力を統合しなければ!」


 腕を切り落としたアンと、胴体に大穴の開いたもう一人が融合して元に戻る。僕を警戒して睨んでいる彼女を、光太は背後から斬りかかった。


「くっ!うぉっ!?」


 光太に意識が向いたところで僕も加勢。僕達は間に挟んだアンにひたすら剣を振るい、破片どころか塵にするつもりで切り刻んだ。


「「ウォォォオオオ!」」

「やっめろおおお!」


 彼女を中心に衝撃波が起こり連続挟撃(ラッシュ)が中断させられた。

 それを受けて僕の身体が浮き上がった。アンは追い討ちを掛けようと、翼を生やして飛翔する。


「待ちやがれ!」


 光太が飛び立ったばかりの脚に掴まるもアンは止まらない。蹴り落とそうとしてくる反対の脚を避けた彼は背中に移り、そこに剣を突き下ろした。


「くぅっ!?」


 アンはバレルロールで光太を振り落とし、とうとう僕の元までやって来た。

 腕を刃に変形させて放たれる一撃。僕はそのを剣で受け止めた。


「うっ!」 


 重い一撃だった。このままではまずいと鞘に手を伸ばすが、新たに生えた触手が手首を掴んでそれを許さない。


「魔法が使えなきゃどうってこと──」

「今だ光太!」


 凄い勢いで上がって来た光太が胴を蹴り、アンが姿勢をくの字に曲げる。鞘からは推進力となる魔法が噴射されており、そのまま二人は高いところまで上がっていった。


「くたばれ化け物め!」

「雑魚の蹴りなんかで死ぬわけがないだろ!ナメるな!」


 蹴りを喰らったアンだったが魔獣の力でブレーキを掛けた。

 次に光太は右手に持っている武器を向けた。アンはそれに気付くと、すぐさま反撃して得物を打ち上げた。


「ってあれは!?」


 そう、打ち上げたのは剣ではなく鞘だった。左手を見るが、フォーメーションソードは握られていない。彼は鞘しか持っていなかったのだ。


「誰かお探しで?…バインド!」


 鞘の口から拘束魔法の弾が発射され、それを喰らったアンは光太と共に光の網で縛られた。

 そして身体が合わさる瞬間、光太の強烈な頭突きが炸裂した。


「やっちまえ!ナイン!」

「お前まで斬られるぞ!?」

「あいつらがそんなヘマするかよ」


 光太がファーストスペルを叫び僕は跳び上がる。そしてクルクルと落ちてくる本物のフォーメーションソードを掴み、技を構えた。


「「「「ダブルエッジタイフゥゥゥゥウン!」」」」


 僕はプロペラのように高速で回転し、アン達に突撃。光太を斬らないように正確に位置を合わせ、敵を斬り刻んだ。


「うおおおおお!?」


 魔法が切れると同時に光太はそのまま落下。そばまで来た鞘を掴んで、地面に着地した。

 それを確認した僕達はピタリと回転を止めて、両方の剣を頭上に持ち上げた。

 これでトドメだ!


「「「「フォーメーションソード!デュアルジャッジストライク!」」」」


 ドォォォォオオオオン!


 エネルギーを溜めた剣を振り下ろす。空間が歪んだ次の瞬間、光の柱が発生してアンを飲み込んだ。


「…うぉ!?」


 戦いが終わったからか、変身は解けてしまいそのまま地面に落下していく。光太はワンドのように鞘を振って、クッションのように弾力のある魔力の塊を用意した。


「おっと!」


 吸い込まれるように僕達は着地。そして差し伸べられた手を握って立ち上がった。


「やったな…」

「あぁ!」


 光太に本物のフォーメーションソードを返却。カタンッという納刀の音はまるで、戦いの終わりを告げる合図のようだった。

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