第158話 「俺は…どうしようかな」
サヤカ達が合体したフォーメーションソード。それを高速で振るったバリュフが最後に放った電撃にアンは飲み込まれた。
最後に見た時にはバラバラになっていたが、今はもう塵一つ残っていない。俺自身も魔獣と繋がっている感覚を失い、あいつがどうなっているのか何も分からなかった。
これは…倒せたということで良いのだろうか?
しばらく浮遊していたバリュフ達が地上へ戻って来た。それから音を立てないよう、静かに鞘へ刃を戻した途端、4人は元の姿に戻った。
「よ、酔った…」
「オメェ強く握り過ぎなんだよ!潰れるかと思ったぞ!」
膝を付き、今にも吐き出しそうなジンをツバキが摩る。そしてやりきったという満足げな表情のサヤカとバリュフは握手を交わしていた。
「一件落着…って殺しちゃダメじゃん!魔獣発生させる装置を止められるのあいつしかいなかったのに!」
「しまった!…こうなったらオルアで──」
「バカバカバカ、こんなことに使おうとすんな。とりあえず世界を元に戻すぞ。ナイン、ジャヌケ・ワンドっていうのは残ってるな?」
ナインの杖はいくつかアンに折られていたが、ノートが尋ねたジャヌケ・ワンドは無事だった。忘れてるかもしれないが、この杖に使われている魔法石は俺が手に入れた物なのだ。だから実質、俺のおかげでこの世界は崩壊を免れたと言っても過言じゃない。
「光太、ニヤニヤして気持ち悪いよ。危ないからあっち行ってね」
「うわっこの世界の救世主たる我になんたる侮辱!失礼極まりなく感じる故、誠に遺憾でアリエッティ」
「どういうキャラだよ…」
ジンとノートがグラウンドの地面を削り、巨大な魔法陣を描き始めた。ナインはサヤカと共に杖のチェックを始めてしまい、居場所のない俺は静か~に、魔法陣を刻む邪魔をしないように離れた。
「あっ黒金君」
げっ…
何も考えずに向かった先に灯沢がいた。俺ってこいつと仲良いのか悪いのかよく分かんないんだよなぁ。
「私、役に立たなかったなぁ」
「え?」
「みんな攻撃か支援してたのに、私は何の役にも立たなかったんだよ…それが悔しくて」
「バカお前、役に立ってないなんてことないだろ。だってほら、俺以外の全員が操られてた時さ、オロラムで皆の防御力を上げてたじゃんか」
ナイン達が操られていたあの時、俺は魔獣を通してその光景を見た。その中でダークネス・ワンドの力に抗おうとしていた灯沢は、全員の防御力を上げていた。
魔法を掛ける対象が多かった分、消費する魔力も膨大だったはず。それでも頑張ってくれたおかげで、サヤカがすぐに治療に回れたし、傷の浅い仲間がすぐに回復することが出来たんだ。
「俺より後から戦い始めたのにあんなことまで出来るなんて…魔術師の素質があるんじゃないか?」
「そうかな?へへへ…」
無意識で振り替えると、崩壊した街の景色が広がっていた。
「転点高校なくなっちまったな」
「私もう高校生やめるんだ。別の高校に転入したりしないで、水城さんのお母さんに魔法を習うことにしたの。それで強くなって、沢山の人を守るんだ」
「へぇ~凄いなぁ…俺は…どうしようかな」
このまま元の日常に戻ったところで、校舎を失った転点高校が再開することはない。俺やハンターズのやつらは、別の高校に通うことになるだろう
「元はと言えば…俺が悪いんだ。俺が車田をいじめて、その結果大勢の人が殺された」
「もう昔のことだし仕方ないことだよ…だから自分を責めないで」
「憎むべきはアンだ。健也もお前の知人も、あいつに利用されていたんだ」
バリュフが紙コップの乗ったプレートを持ってやってきた。
紙コップの中には…凄い色の液体が入ってるぞ。
「魔力回復ドリンクだ。飲め」
「え…いらないよ」
「魔力欠乏症を起こすぞ。飲め」
凄い眼力に負けた俺達はドリンクを飲むことに。周りを見ると他のやつらも嫌な顔をして飲んでいた。
「ゴクッゴクッ…」
お、美味しくない…!酷い味だ。灯沢も今までに見せたことのない変顔をしている。
「僕がフェン・ラルクに殺された後、こっちで何かあったか?」
「あの後…無惨な状態だったお前の身体が見つかってニュースになった。犯人は未だに逃走中ってことになってる…あのさ──」
「僕は恨んでないし、お前が恨む必要もない。狼太郎とフェン・ラルクは魔獣人を倒したんだ。共に立派な功労者だ」
その言葉に含みなどは感じられなかった。自分が殺された事を素直に認め、それでもあいつらを憎んでいないらしい。
じゃあ俺はどうなんだ?お前が庇った黒金光太は車田をいじめてた加害者なんだぞ?
「俺が憎くないのか?」
「健也は最後に、お前を憎むよりも僕との再会を喜んでくれた。人を殺したことを後悔していた。なら、僕は何もしない。ただ、あいつからお前を殺せと頼まれていたなら真っ先に殺していたぞ………冗談だ。僕の力は誰かを助けるためにあるんだ。誓ってそんなことはしない」
な、なんちゅー目力と殺気!ここで本当に殺されるんじゃないかって思ったぞ!
「冗談には聞こえないぜ…」
「あの時お前を庇ったことに後悔はない。しかし黒金、それでも思うことがあるのならその命、人を助けるために使え」
そうしてバリュフはドリンクを配る作業に戻った。あれをここにいる全員に飲ませるつもりだ。
しばらくして世界を元に戻す準備が完了し、ナインはその場にいた全員を招集した。
「それでまず、この世界とアノレカディアを切り離す。そのためにも皆の魔力を僕にくれ。最大出力を遥かに超えたジゾルゴ・メガント・アロアを撃つ。心配せずとも、すぐにこの世界が消滅することはない。」
「切り離したら、この足元の魔法陣で強化されるジャヌケ・ワンドの力で修繕する。それで世界は元通りだ」
ようやく戦いが終わるんだな…長かった。
バリュフはナインの杖を借りて、全員から必要なだけの魔力を吸収した。
「これだけあれば…ノートさん、お願いします!」
「あらよっと!」
ノートはスーツを天高くへ投げる。スーツは空中で変形し、魔法の威力を高めるゲートとなった。
「ジゾルゴ・メガント・アロア!」
魔法によって発生した風圧で身体が飛びそうになったところをナインに掴まれた。危うく戦いとは無関係なところで事故死するところだったぜ。
「大丈夫?気を付けなよ」
「助かった…」
発射された魔法の矢は天上に広がるアノレカディアに直撃した。
しばらくすると風が止み、懐かしい夕空が広がっていた。しかしその夕空には、大きな裂け目が開いていた。
「まるで画面割れしてるみたいだな…」
「あれを直して一件落着だ!」
ナインは杖を握り締め、魔法陣の中心へ歩き出した。
「…おい!」
その時ようやく異変に気付いた。俺はそれを見た途端、咄嗟に走り出していた。
「ナイン!足元に!」
「えっ!?」
こちらに伸びる影の中で何かが蠢いていた。
「この時を待っていたわよ」
突如、影の中から飛び出したアンがナインを背後から取り押さえる。
まだ魔獣が残っていたんだ!まさか影の中に逃げ込んでいたなんて!
「あなた達を散々苦しめたユニークスキルってあるじゃない?あれね、私も持ってるのよ──」
「やめろ!」
「光太!これを!」
まだアンの中には魔獣が残っている。俺はその内の1体と繋がり、そしてあいつが隠し持っていた恐ろしいユニークスキルの正体を知った。
「絶望庭園ッ!」
「ちくしょおおおおおお!」
こいつのユニークスキルをナインが喰らっちゃいけない!なんとしても阻止しなければならない!
そうして身体を引っ張ろうと、彼女が渡そうとしていた杖ではなくその腕を掴んだ。
グワァ~~~ン!
空に広がる裂け目とは違い、別の空間に通じる次元の穴が開く。俺達は全身で折れ曲がるような苦しい痛みを味わいながら、その穴の中に吸い込まれていった。