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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
少女と少年

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第156話 「心を強く持って!」

「どうしたんだよ光太!ねえ!しっかりしてよ!」


 アンのいる空間に突入してしばらく経った時だった。突然、光太がバタリと倒れた。

 呼吸はしているが、どれだけ身体を揺さぶっても目を覚まさなかった。


「アン!光太に何をした!」

「二人きりで直接話してみたかったから、意識だけさらに別の空間へ切り離したの。心配しなくても、あなた達相手に直接魔獣の力は使わないであげるわ。その代わり…」


 倒れていた身体がフワリと浮き、バッグがひとりでに腰から離れる。そしていつの間にか僕達の正面に立っていたアンの元へ飛んでいった。


「僕のバッグが!」


 アン・ドロシエルがバックを腰に巻いた。

 そしてアンは背中から4本の触手を生やし、バッグの中からその分だけ魔法の杖を抜いた。

 だけど腕は組んだままって、馬鹿にしやがって!


「これはどんな杖かしら…」

「初見で杖の効果が分かるはずない!皆!攻めろ!」


 声を掛けた瞬間、一斉に攻撃を仕掛けた。

 僕の杖は多種多様、僕が説明しない限り、どんな効果なのか分かるはずがない。


「解析魔獣テンペ・ランスの能力で杖の効果は即時理解できたわ。さらに幸運魔獣トール・ボールの力で4本揃って強力な杖なのよ」


 なんだって!魔獣の力でそんなことまで出来るのか!?


「そうそう、私の身体は魔獣で構築されているのよ。内蔵、骨、筋肉、あらゆる物がね。その魔獣の能力をエンチャントすることだって出来るのよ。こんな風に!」


 ドガァッ!!!


 反応した時には既に間に合わず、僕達は大ダメージを受けてしまった。


「ギャアアア!」


 トルネード・ワンドで放った竜巻は炎と合わさり火災旋風を巻き起こした。それに加えて、スプリット・ワンドで身体の左右から強い引力に襲われた。


「あら、サンダー・ワンドは上手く防いだみたいね」

「鉄製の鎖が燃えるってどんだけ強い電撃なの よ!」


 喰らうはずだった電撃は、ホッシーが咄嗟に召喚した金属製の鎖に吸われていた。

 しかしあまりの電気量に、避雷針となった鎖はパン!パン!と爆発を起こしている。


「ぐっあああああ!!!!」


 ウォルフナイトの姿に変身していた狼太郎は元の姿に戻り悲鳴をあげる。

 ショックウェーブ・ワンドの効果で身体が砕けるぐらいの振動を受けているんだ!


「それじゃあこれくらいにして、別の杖も使ってみましょうか?」


 アンは杖を取り替える。この時、攻撃する隙があったというのに誰1人動くことが出来なかった。


「流石に4本同時はつらかったかしら?なら一撃ずつ、タイミングをズラして振ってあげるわね」


 そして地獄が始まった。


「うわあああああああ!?」


 アン・ドロシエルは元々のレベルが高い魔法使いだ。だから僕以上に魔法の杖を上手く使いこなし、死なないギリギリまで攻撃しては自身の魔法で回復。それからまた別の杖で攻撃という繰り返しだった。

 身体が壊れそうだと思ったらすぐに治って、また別の現象で破壊される…最悪の気分だ。


 みんなは…まだ大丈夫だろうか。


 そう思って仲間に目を配ると、焼かれ、斬られ、毒を流し込まれ、そして全回復させられていた。

 このままだと心が壊れてしまう!


 僕のせいだ!何の考えもなしに魔法の杖を沢山作ってしまったから、この事態を招いてしまった!


「言っておくけど、私は魔法の杖がなくてもこれぐらいの事は出来るから、自分を責める必要はないわ」




 それから何時間経過しただろうか。元の世界で攻撃の準備をしている少女達は僕達を心配しているはず。

 負けられない戦いなのに…何の抵抗も出来ないなんて!悔しいッ!ここまで力の差があるなんて思わなかった!


「ナイン・パロルート。この程度なんて、あなたには少しがっかりしたわ。それよりも黒金光太、彼が秘めている力は凄まじいものよ」

「ここで僕達が負けたって、お兄ちゃん達がお前を倒す!お前みたいな悪人に未来はない!」

「それはどうかしら?魔獣の力は絶大よ。今頃魔獣発生装置と共に別空間に閉じ込めた二人のお兄さん達は食い殺されてるかもね?」

「お兄ちゃん達は負けない!今だってきっと魔獣と戦い続けてるさ!」


 するとアンはウエストバッグに注目するように指を向けて、1本だけ杖を抜いた。

 まさかあいつ、もう好きな杖を抜き取れるようになったのか!?しかもあの杖は…!


「ダークネス・ワンド。闇の力を行使できるなんて物騒な杖ね」

「それは失敗作だ!やめろ!使うな!」

「フムフム、まあ面白い!この杖、闇そのものだけでなく、闇の深い人物も操れるじゃない!それじゃあ、ほら!」


 ゾワゾワゾワ…


「な、何か身体に入ってくる…」

「気持ち悪ぃ…」


 闇の魔力のような、嫌な感覚が僕達の中に入り込む。それ以外にも何か邪悪な力が混じっている。


「今、あなた達の肉体を魔獣の闇が蝕んだわ。そしてこの杖を振って…そうね、手駒にする…のもつまらないわ。ここで殺し合いでもしてもらおうかしら」

「俺達がそんな杖で操れるわけ…くっ!」


 するとツカサが立ち上がりロッドを召喚する。それから近くにいる生徒会長の方へ歩き出した。

 闇の力で身体を操られているんだ!


「ナイン!あの杖弱点とかないのか!?」

「闇に負けないように心を強く持って!」

「生徒会長さんよぉ!なんとか避けてくれ!」

「無理だ!身体が少しも動かせない!」


 ツカサはロッドを乱暴に振り下ろし、スイカ割りをするように会長の頭部を殴った。


「か、身体が止まらねえ!」


 再び両腕を振り上げたその時、ジンのブレードが脚を切り裂いてツカサを転倒させた。


「ウアァッ!?おい!もっとマシな止め方があるだろうか!」

「すまん!棒を弾こうとしただけなんだ!」


 アンの方を向いたホッシーが鎖を放つ。しかし鎖は正面ではなく真後ろへ射出され、立ち上がろうとしていた狼太郎に命中してしまった。


「ご、ごめんなさい!」

「痛いよ!」


 そう、最初は身体を操られるだけだった。しかし仲間に対して連発する誤射はやがて、同士討ちへと変わっていった。


「サヤカ!」

「ツバキ!」


 グローブサイズのシールドを構えたツバキと、魔法で拳を強化したサヤカが殴り合いを始めた。おそらく二人とも、「相手は操られてるから倒さなきゃいけない」「殺られる前に殺る」とかそんな風に思考してるはずだ。


「お前!また会長を殴ったなああああ!ガアアアア!」


 狼太郎の叫びは空間の中で轟き、最初の頃のウォルフナイトへと変身してツカサ達を襲う。


「みんな落ち着け!ウァッ!?」


 会長の鞭が首に巻き付いた!なんで僕を狙うんだよ!?


「最後に生き残った一人は…そうね。魔獣人にでもしてアノレカディアで暴れさせてあげる」

「うぅ…汚いぞお前!自分で戦え!」

「あら?私になりに手加減してあげてるのよ」


 このままじゃマジで同士討ちして終わっちゃう…!


「しっかりしてよ!みんな!」




 その時、意識を切り離されているはずの光太の身体が立ち上がった。


「あら?」


 そして彼は、不思議そうにしているアンへ向かって走り出した。


「危ない!」


 光太の方にサヤカ達の攻撃が放たれる。

 それなのに彼、後ろから飛んできた鎖や盾を一度も目視しないで避けている!一体どうなってるんだ!?


「そういうことね…」

「そういうことだ!」


 杖を握ったアンの触手が大きく動く。しかし光太は前進を止めずに迎撃を潜り抜け、死角から放たれる魔法すらも回避した。

 そしてドォン!と大きく聞こえる程、力強く二人の拳が激突した!


「あなた、魔獣を取り込んだわね」

「意識だけになった俺は、空間そのものが魔獣であることに気付いた。いや、お前が用意したあらゆる物が魔獣なんだろう。ナイン達に送り込んだ闇でさえ…」


 辺りを見渡すと皆は既に争うのをやめて、サヤカが回復に専念していた。

 それにさっきまで感じていた嫌な感覚が身体から抜けている…


「だから俺が操ってやった。皆の身体から闇の魔獣を追い出して、俺の身体の中へ。そして──」

「意識のある空間から体内に入れた魔獣の遠隔操作。自分の身体をラジコン操作しているってわけね」


 アンの拳を弾くと、高速の手刀で全ての触手を切り裂いた。魔獣を取り込んでいる影響か、光太自身のパワーが上がっているんだ。


「これが魔獣の力か…悪くないな!」

「そうでしょ?」

「気を付けろ光太!まだダークネス・ワンドを持ってるぞ!」


 さらに生やした触手が杖を握っている。今の光太にあれを振られるのはまずい。


 トメロッ!


 彼がクイッとアンを指すと突然、周囲に無数の魔獣が出現した。そしてその魔獣達は一斉にアンへ攻撃を仕掛けた!


「壊して構わないよな!?」

「うん!やってくれ!」


 そしてダークネス・ワンドが折れるのを最後に、二人の姿は爆発に飲み込まれていった。




 爆発の煙の中から、僕のウエストバッグが飛んできた。


「腕じゃん!?」


 しかも右腕のおまけ付き…ってこれ光太のだろ!?爆発の中で何があったんだ!?


「光太!無事なの!?」


 彼の安否が確認できない今、超人モードは期待できない。僕は攻撃に使える杖を1本抜いてから、バッグを腰に巻いた。


「やるじゃないの」

「俺にすら苦戦してるんじゃ、ナインには勝てないな…お前、案外大したやつじゃないのかもな…」

「苦戦?笑わせないでよ。遊んであげてるのよ」


 光太の左拳(さけん)がアンの顔先で制止していた。そして敵の左拳は彼の胴体を貫いていた。


「仕切り直しね」


 アンは左拳を抜くと、僕達の方に光太を投げつけた。


「精神を戻してあげたわ。さあ、もっと楽しみましょう」


 光太はバッグから外した右腕と、身体の切断面を重ねる。そんな事をしても腕は繋がらないと思っていた直後、不思議なことが起こった。


「ナメやがって…生かしたことを後悔させてやる」


 腕が治り、胸の穴が塞がった。原理が全く分からず、僕には何の説明も出来ない。しかし1つ言えるのは、これが魔獣の力による修復だということだ。


「少しヒヤッとしたわよ。同じ能力ってだけでここまで食らいつくなんてね」

「少しヒヤッとね…こっちはこの空間に入ってからずっとガクブルだよ」


 光太とバッグが戻ってきたのは良かったけど、あいつを倒す方法は見つからないままだ。


 さぁて…ここからどう巻き返せばいいのかな。

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