表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/313

第153話 「君達の世界だろ!」

 天音を殺して調子を取り戻したニックル。

 それを相手にした光太達は手も足も出ず一方的に叩きのめされた。




「お前達は楽には死なさんぞ」

「この野郎…!」


 ニックルがそう告げたのは、やはり光太だった。

 助けに行きたいけど、僕はもう動けそうにない…


 他の仲間も返り討ちにされてしまって、唯一の勝機だった天音はやられてしまった。

 ここから勝つヴィジョンが思い浮かばなかった。


「ガウゥ!」


 倒れていた狼太郎からフェン・ラルクが飛び出してニックルに飛び掛かった。

 ニックルは光太の頭を踏みにじりながら、フェンを裏拳一発で打ちのめしてしまった。


「ふぅ…お前達を始末したら俺はアノレカディアに移るとしよう。せっかく進化したのに、アンの計画に巻き込まれてこの世界ごと消されるのはごめんだからな」

「…へっ」

「何がおかしい?」

「救済とかほざいておきながら、自分が死ぬのは怖いんだな…」

「当然だ。人間誰しも、死ぬのは怖いものだろう」

「あれ…お前、さっきは神って自称してなかったか…人になったり神になったり…ずいぶんと都合のいいやつだな」

「負け犬が何を言ったところで遠吠えにしか聞こえんぞ。もっと俺を苛立たせるような言葉を選べないのか?うん?」

「お前…誇りがないんだなぁ」

「は?」

「普通、侮辱されたらイラってくるだろ…俺なんてプライド高いから、ちょっと小馬鹿にされただけでそいつを殺したくなるんだ…」

「フフフ…だろうな。プライドが高いだけで人生負け続きの弱者は大勢いる。お前はその一人、ここにいる連中の中で最弱の人間だ。そんなやつが俺に敵うわけがないだろ」

「そんな風に言うなよ…誇りって大切だぜ?負けて悔しいから次は勝とうって努力出来る…そして成長するんだ」

「その言い分はまるでアレだ。現状の幸福に満足出来ないない社会人が少しでも幸せを感じようとするための常套句じゃないか」

「それなのに…ユニークスキル…ククク…誇りもないお前が成長?進化?笑わせんなよ…形が変わるだけの薄汚い粘土野郎が」

「不思議だな。さっきまでの俺がそれを言われたら、お前の頭を踏み潰していただろう。しかし今は落ち着いている。これは心が成長しているということじゃないだろうか?」

「不老不死の能力と同じだ…お前は進化の果てに…プライドまで失くしたんだな…」


 ドコォ!


 背後から近付いていた狼太郎が蹴り跳ばされ、魔法を放とうとしていたホッシーに激突した。


「ごめん…」

「飛ぶ方向考えてちょうだい…」

「よくもォォォォ!」


 頭部から血を流した生徒会長は鞭を振るが、逆にそれを掴まれて敵の元まで引き寄せられた。


「…くっ!」

「オロラム…エンチャント!」


 胸を貫きそうだった一撃の瞬間、ユッキーの呪文が発動。防御力が高まったことで、会長はふっ飛ばされるだけで済まされた。


 僕はもう動けない…けれど君達がまだ戦おうとするのなら…!


「光太ッ立てえええええ!」

「うっ…」

「ここは君達の世界だろ!そんな粘土野郎にぶっ壊されていいのかよ!」


 荒っぽい言葉使いにはなってしまうけど、君達を応援しよう。負けを認めず戦い続けるのならきっと勝てるはず。そう信じるんだ。


「狼太郎!生徒会長!ここで倒れてる場合かよ!憎い魔獣を操るアン・ドロシエルまではあと一歩なんだぞ!優希!もう君は強い!自信を持って前へ出るんだ!星河!この世界の魔法使いなんだろ!その力を出し切れえええ!」

「フンッ…何かと思えば…言葉だけでどうにかなるはずないだろう」


 ブゥン!


 再び会長が攻撃を仕掛ける。素早く伸びる鞭を回避したその時、ニックルに異変は現れた。


「…ッ!?なんだ、この感じは…!?」


 膝がガクンと曲がって姿勢が崩れたところに、会長の右ストレートがめり込んだ。


「このクソ野郎があああああ!」


 さらに狼太郎が首根っこに噛み付き、勢いよく頭を引いては肉を噛み千切った。


「ウアアアアア!?この生意気なッ!?」

「オロラム・ハイバリウム!」


 ユッキーの呪文と同時に、反撃しようとしたニックルの身体が止まった。よく見るとあいつの全身をオローラの光が覆っているのが分かる。


「ハイバリウムは私の中で最も硬いバリア!硬すぎて付与した人が動けなくなっちゃうから、こういう事にしか使えないけど!」

「喰らいなさい!チェーン・タツヴァイト!」


 大量に召喚された鎖が1ヶ所に集まり龍を形作る。龍が口を開いた途端、狼太郎は光太と会長を引き摺ってその場から全力で離れた。


「う、動けない!」


 ニックルの元まで龍が辿り着き、口を勢いよく閉じようとしたタイミングでユッキーはバリアを解いた。


 バグォオン!


 そして龍がニックルを喰らった!


「うおあああああああ!!!」


 その後にあいつの悲鳴が轟いた。どれだけ強力な攻撃を受けても死なない。

 あの不老不死の能力をどうにかしない限り、僕達に勝ち目はない。




 狼太郎は光太を連れて僕の元までやって来た。


「ほら、着いたぞ!」

「礼は言わんぞ……ナイン、お前の杖って色々あるけどさ…」


 どうやら光太は特定の能力を持った杖を必要としているらしい。それを尋ねられてすぐ、僕はハッとなって答えた。


「…あるよ、そういう杖!」


 近付けられたバッグを漁り、僕は注文された魔法の杖を取り出した。確かに、光太の考えたそのやり方ならあいつを倒せるかもしれない。


「持ち主である僕でも思い付かなかったよ…やっぱり凄いね、君って」

「上手くいくかな…あいつが言った通り、俺はこの中で最弱だ…」

「信じてるよ。光太が考えたその作戦、きっと上手く行くって…僕の杖と君の作戦、二人の力が合わさってるんだから…!」


 バギャアアアアアン!!


 鎖の龍が粉々になり、積もった瓦礫からニックルが這い上がって来た。


「調子に乗ってんじゃねえぞ!クソガキ共があああ!」


 少し前には神を自称していた男は今、感情を剥き出しにして怒りを露にしている。


 彼の誇りは自分の人種や信教などでもなく、あの凄まじい力なのだろう。何の苦労もなく彼を強くしてしまったあの力が何かに屈しようものなら、それは自身の恥。自尊心を傷付け、自分の勝利を脅かす存在を徹底的に排除しようとするはずだ。


 それにしても傷だらけだ。どうして回復しないんだ?

 能力を発動させる魔力は残っているはず。離れていてもその膨大な量が伝わって来るんだ。


 傷だらけのニックルに、会長とホッシーが突撃して鞭と鎖による乱軌道攻撃を打つ。


「「捕らえた!」」

「しつこいぞ!」

「オロラム・ショット!」


 二人の武器が体を縛ったところに、ユッキーがオロラムの力を纏った拳を打ち込む。

 オーロラの力が拳から敵の肉体へと伝わり、身体から光が溢れ出た。


 …光による目の錯覚か?それともそこにいるものが視えているのか?

 ニックルの背後に人の形をした何かが浮いている。あれは…さっき殺られたはずの天音だ。


 本当に天音なのか…死んでもなお、ニックルを倒そうとユニークスキルを発動させているのか…?


「ナイン!俺と…狼太郎の魔力を渡す!狼太郎、協力しろ!」

「わ、分かった!」


 えぇ嘘でしょ!?光太から狼太郎に協力を求めた!?


 二人分の魔力が僕に送られる。光太は右手にミラクル・ワンドを握り、左手を狼太郎と繋いでいる。何だか面白い光景だ。


「チッ…これっきりだからな!調子に乗んなよ!」

「いだだだだだ!?強く握るな!」

「二人とも真面目にやって!…くふふ!」


 光太ってば、とことん追い詰められた事でようやく協力する事を考えたみたい。まあ、肝心な場面で私情を抑えられたのは成長を感じるよ。


「くだらないこと考えてないでないで集中しろ!」

「はいはい!行くよ!」

「「ナイン・ワンド」」


 共に呪文を叫ぶと、彼の腰に巻かれているバッグから杖が2本飛び出し、ナイン・ワンドへと融合した。


「魔力足りないからこれで精一杯だよ…当ててよね」

「あぁ、信じてくれ」


 光太はワンドを握り締め、狼太郎と共に敵に向かって走り出した。




「俺はなんとしてもこいつをぶつけたい!狼太郎、死ぬ気で隙を作れ!」

「あいつ倒すオマケに俺まで死ぬの狙ってない!?まあ、やれるだけやってやる!」


 ユッキーの攻撃を受けて怯んでいたところ、狼太郎が両手で相手の頭を持ち上げた。

 そして額に狙いを定めてヘッドバッドを放つ。

 自分への反動があるはずなのに、狼太郎は痛みに恐れることもなく頭を連打した。


「このキツツキがあああああ!」


 抵抗するニックルを、オロラムによって強化された鞭と鎖が拘束した。


 両者共に頭から血を流しているが、ニックルはやはり再生しない。亡霊となった天音のユニークスキルによるものだろう。


「カスごときが、俺に一丁前に歯向かってんじゃねええええええ!」


 ニックルは力任せに暴れることで狼太郎達の拘束を振り払った。そしてようやく、ナイン・ワンドを握って迫る光太に気が付いた。


「…そうかその杖!」


 読心したニックルは作戦を知り、跳躍して空へと逃げた。ナイン・ワンドはあくまで魔法、時間が経てば消滅してしまう。それまでに命中させる必要があるのだ。


「フハハハハハ!残念だったな!この距離では投擲したところでぶつけることも出来ないだろう!お前はこの中でも最弱だからなぁ!」


 しかし一定の高さまで到達した時、ピタッとニックルの身体がその位置に固定された。

 しかし、それは滞空しているわけではない。本人も不本意の停滞だった。


「な、なぜ動けん!?」


 どうやらニックルは、自分に取り憑いている天音が視えてないみたいだ。彼女が身体を押さえて動けなくしている。


「サンキューな…ウオオオオオオオ!」


 光太は雄叫びをあげると投擲の構えに移り、ワンドを握っていた右手を後ろへ引いた。


「フンッ!動けないからと嘆く必要はなかったな。何にせよお前の膂力ではここまで届きはしない!」

「ワンダアアアアアアアアアアア!」


 そして光太が放った杖は、空に固定されたニックルに向かって勢いよく飛び上がった。


 ナイン・ワンドを撃つのは光太だが、どんな杖を融合させるか選んだのは僕だ。

 彼が認識しているのは、一時的に肉体から魂を切り離す幽体離脱魔法の杖アストラルプロジェクション・ワンドのことだけ。当然、ニックルもその事しか知らない。


「な、なぜこっちに向かってくる!?」

「翔べえええええええええええええええ!」


 あのナイン・ワンドを形成しているもう1本の杖はスカイダッシュ・ワンドだ。

 杖は魔法の力で地面へ引かれることなく高く上がっていく。そして…


 グサッ!


「おっしゃああああああああ!!!」


 ニックルの身体を貫いた!




「あっあぁ…俺の身体が!」


 アストラルプロジェクションの効果によって、ニックルの魂は不死身の身体から引き離された。直ぐに身体へ戻ろうとするが、それを止めたのが亡霊となった天音だった。


「水城!」

「ホッシー!」


 ジャリリリリリ!


 脱け殻となったニックルの身体は地面へ激突。ホッシーは再度、五芒星五重封印を発動してそれを封印した。

 魂を抜かれて封印された肉体は、もう動く事ないだろう。


「うああああああ!俺の身体があああああ!」


 光太達は空で泣き崩れるあいつの姿が見えているのだろうか。


「残念ね。あんたは私と地獄に堕ちるのよ!」

「へ、ヘル…嫌だ…そこは嫌だ!社会の底辺が向かうべきところだ!俺にはヘブンが相応しい!その薄汚れた手を放せええ!」


 2つの魂が僕の目の前まで降りて来る。天音はニックルを無理矢理地中へと沈めたが、彼女はその場に留まって僕と目を合わせた。


「…ありがとう。君のおかげで僕達は勝つことが出来たよ」

「彼を…光太をよろしくね」


 そう告げると、スゥ~っと彼女の身体も消えていった。




 戦いが終わり静けさを取り戻した後、僕は光太と一緒に天音の身体を焼いた。彼は涙を見せることはなかったが、今回ばかりはとても悲しそうな表情をしていた。


「…光太、あのね」

「天音が一緒に戦ってくれたんだろ?」

「あれ、視えてたの?」

「いや。杖を投げる時、あいつの力を感じたんだ。………俺はあいつにも酷いことをしてしまった」

「そうだよね…勘違いさせてステータス目当てに好意もなく付き合って…」

「卒業が近くなった日、俺からフッたんだ。下校途中、あいつを松葉杖で思い切り殴った……そうしたらあいつ、あっさり別れてくれたんだ。それまでは握っていた弱みで脅してきたのに…まさかその後に死んでるなんて思わなかった」


 きっと彼はこう言いたいのだろう。

 自分のせいで天音は自殺してしまった。自分が殺したんだ…


 そんな風に、自分を責めずにはいられないのだ。 


「君はどうしようもないクズだね…」

「あぁ…そうだ」

「…同じクズ同士、これからも仲良くやってこうよ」


 自分が原因で命を落としてしまった人は僕の知り合いにもいる。それを思い出すと、もう彼を強く責めたりしようとは思えなかった。


「…ありがとう」


 こうして、アン・ドロシエルの用意した転生者全員を撃破することに成功したのだった。


 残るは…黒幕の魔女であるアンただ1人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ