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第152話 「つまり…」

 残った力を振り絞って、超人モード烈火となったナインがニックルへ立ち向かって行く。

 俺はミラクル・ワンドを左手に持ち変えて、バッグから魔法の杖が抜けるように準備した。

 ナインと違ってバッグから望んだ杖は取り出せないが、その分引きには自信がある。


「馬鹿が!突っ込んで来るとは、そんなに死にたいか!」

「ウリャアアア!」


 攻撃を構えるニックルへ、ナインはさらに加速していく。


「なるほど、スピードで翻弄するつもりか」


 ニックルはナインの心を読んだ。そしてあいつが言った通り、ナインは敵と一定の距離を保ったままひたすら走り続け、炎の壁を作り上げた。


「俺の逃げ場を断った。そしてそこに…」


 ウォルフナイトとジン達が飛び道具で攻撃。放った攻撃には炎が付与されて、中心に立っていたニックルに命中した。


 しかし大したダメージにはならない。ニックルは身体に刺さったブレードを抜いて、すぐに傷を治してしまった。


「ほう、これでも諦めないか…」


 そこへナインが突撃した。だがそれと同時に、ニックルも掌底を繰り出す。


「なにッ!?」

「烈火!通火(つうか)ッ!」


 しかしナインは殴られなかった。

 ニックルの掌底が身体に触れそうになった。その瞬間だけ、ナインの身体は炎そのものとなった。そして敵の身体を焼きながら背後に立ったのだ。


「この野郎!」


 ニックルの髪の付け根を鷲掴み。炎の推力も合わせて、地面が割れるほどの勢いでニックルを叩きつけた。


「光太!夢中になってないでサポート!」

「あ、あぁ!」


 早速、見たことのない杖を引き当てた。


「なんだこれ!」


 ナインがこちらに目を向けた。

 どうやらこれは炭化魔法の杖カーボナイズ・ワンドという物で、魔法を掛けた物体を炭化させるらしい。

 そんな簡潔な説明が心に送られてきた。


 その魔法をニックルに掛けたが、炭化した部分が崩れ落ちてすぐに再生してしまった。


「って炭化!?キャンプやってるんじゃないんだからさあ!そもそも木なんてどこにもねえよ!」

「木が必要なら私が生やす!えいっ!」


 サヤカは粒のような物をばら撒き、地面に魔法を掛けた。そして宣言した通り、アスファルトを突き破って力強い樹木が現れた。


「シャルボワの木!そのままでも充分燃えるけど、炭化させてから火が点くと大爆発を起こすアノレカディアのダンジョン植物(プラント)だよ!」


 俺は発生した木々を全て炭化させて、急いでその場から離れた。


「やっちまえ!ナイン!」

「おっしゃあああ!」


 力を振り絞ったナインが炎を爆発させ、近くに生えたシャルボワの木が爆発。それに連鎖して次々と爆発が起こった。

 ニックルは爆発のダメージを受けるが、烈火であるナインは炎をエネルギーとして吸収することが出来る。

 ダメージを与えつつ、こちらは回復したというわけだ。


「やったじゃねえかナイン!」

「義肢の動きが悪いけどまだやれるよ!」


 炎の中から現れた彼女は、さっきまでと比べて元気があった。しかし作り物である四肢は熱にやられて調子が悪いみたいだ。


「ぬおおおおお!?何故だ!何故回復しない!?」


 爆炎の中からニックルの叫び声だ!まさかあいつ、回復能力が使えないのか!?一体何がどうなってやがる!


 魔法の杖で追い討ちを掛けることも出来た。しかし罠かもしれないと、ナインは手を出して俺を止めてきた。


「熱い!ああああああああ!?」

「あんたのユニークスキル…心は進化させられなかったのね…」

「天音…」


 体調の悪そうな天音が、狼太郎の取り巻二人の肩を借りてこちらへやって来た。

 彼女を見たが、俺の脚は痛まなかった。


「天音、無理しちゃダメだ!その身体は寿命が短いんだ!」

「私の事はいいから…今があいつを倒せるチャンスなんだ!」

「た、倒せるのか?不死身のあいつを!?」

「えぇ…あいつはミスした…生物学の知識が最低限あれば、きっと弱点を造るような真似はしなかった」

「おい天音!ユニークスキルでそいつらを止めろ!」


 ニックルは身体に移った炎を消そうと転げ回りながら叫んだが、天音は無視して話を続けた。


「ヒトはかつて、木の上を生活の場としていた。それがやがて地上へと移り、二本足で立つようになった。二本足で生活を始めてから、前側の両足は物を握る手として必要な機能だけ残した。後ろ足は立つための機能を残して、それまでの器用さを捨てた」

「つまり…退化したのか?」

「うん…100年もの間安全地帯で過ごしていたニックルの肉体に不老不死を可能にする機能はない…!」


 あいつは不老不死じゃなかったのか!?だったらどうして要塞の爆発や皆の攻撃を受けても再生していたんだ!?


「100年封印されている間、あいつは進化するだけではなく技術を学習した。魔法という道具要らずの技術を…」

「まさか今の不老不死は、肉体が備えている能力ではなく魔法によるものなのか!」

「やっぱり、光太は賢いね…でも、何より滑稽なのはね…」

「俺の不老不死が魔法によるものだと!?」

「嗤えるよね…あいつ、自分がどうやって回復してたのか理解してなかったんだ」


 たった二本の足でどうやって歩くのか。右足を出した後、左足を前に。単純には説明できても、脳がどういう信号を出しているのかなどは専門家じゃないと説明できない。

 もしも足が怪我などで動かなくなったとしたら、その後の生活では松葉杖や車椅子などの福祉用具が必須となる。そしてその生活を送るためにはリハビリなどを得て、自分の身体がどういう状態なのかを把握しなければならない。


 しかしニックルはリハビリをしなかった。100年の進化の中で不老不死を失ったあいつは、魔法を得てしまった。それも全くの練習もなしに身体の再生が出来る程の素質があったのだ。


 不老不死の能力は進化の過程で知らず知らずの内に失われた。

 あいつは無意識の内に魔法でそれを再現していたのだ。


「偶然が重なった事で弱点が出来た…私がいる限り、あいつはもう再生出来ない!」

「今なら倒せる!チャンスを無駄にするな!攻めろ!」


 ナインが動き出し、一瞬遅れて皆も攻撃に移った。俺もサポートをしないと!


「ゲホッ!ゲホッ!」


 タイムリミットは天音の命が絶えるまで…こいつも死ぬ気でユニークスキルを発動している!


「絶対に無駄に出来ねえ!」


 バッグに腕を突っ込んで手に触れた物を取り出す。そして出てきたのは見たことのある杖だった。


「ショックウェーブ・ワンドだッ!」


 大きな岩すら砕く程の振動を発生させる魔法の杖だ。それをニックル目掛けて投擲した。

 当然、俺の腕力では届くわけもなかったが、近くを走っていたツカサがキャッチしてくれた。


「パワー弱ッ!?こんなんじゃ肩もほぐせねえぞ!」


 ドドドドドドドドドドドド!


 ツカサが握った途端に出力が上がった!触れてもいない地面に亀裂が走っている!


「ウォラア!」

「ヌヲォォォォ!?」


 身体の焦げたニックルは転がりながら杖を回避。そのまま立ち上がると、凄い速さで動き始めた。


「気を付けろ!あいつのパワーは魔法で強化された物じゃない!自前だ!」

「ノゥノゥノーノーォ!弱点を見つけたからっていい気になるんじゃない!まずはお前からだ!」


 疾走のスピードを重ねた拳がツカサを殴り飛ばした!


「ナインは牽制!私達はカウンターの準備!」


 サヤカ、ジン、ツバキが俺のそばにやって来た。それからニックルの急襲からお互いを守るための陣形、いわゆる背中合わせという形で俺達は固まった。


 烈火のナインとニックルによる高速戦闘が始まる。お互いの攻撃が触れる度、その場で爆発が起こった。


「ナイン!敵の能力は気にするな!俺が繋がってる限りお前は負けない!」


 爆発が起こる度、離れた場所に立つ俺を疲労感が襲う。ニックルが宿している魔獣は既に死んでいるが、触れた相手の肉体にエラーを発生させるという能力は残っている。

 ナインは敵の拳を攻撃を喰らう度にエラーを起こしているが、俺が生命(いのち)のエネルギーを送り続ける限り、戦闘不能にはならない。


 こうしてデバフそのものは防げずとも、ナインは死ぬことなく戦闘を続行出来るのだ。


「小賢しいぞ!このジャップがあああああああ!!」

「光太を中心に陣形を変更!」


 俺の方に走ってくるニックルを見て、サヤカは指示を叫んだ。

 そうだ。ナインを弱らせるには俺を倒すしかない。


「全方位にシールド!」

「それを飛び越えて来たところにブレードシュート!」

「警戒したところ悪いが!後ろがお留守だぜ!」


 ツバキの防壁を飛び越えたところにジンが狙い撃ち。それを避けたニックルを、復帰したツカサが叩き落とした。


「私も混ぜてよ」


 そこへウォルフナイト・トルネードが追撃を入れた。鋭利な爪でニックルは切り裂かれた。

 目の前には、傷だらけになって倒れるニックルの姿があった。


「これで終わりだ!」


 最後に生徒会長が首を跳ねた。鞭を使って首を斬るとは、恐ろしいやつだ。




「フハハハハハハ!俺の勝ちだ!」


 あ、頭を跳ねたのに叫んだ!?まさか…!


「ゲホッ!オェエエ!」

「しっかりしてよ!ねえ!」


 天音が膝を付きながら、吐血する口を押さえている。身体に限界が来てしまったようだ。


「まだ…ゲホッ!」

「血が止まらないよ…!」

「この裏切り者があああああああ!」


 頭を失った身体が立ち上がり、天音を目指して走り出した。


「ナイン!」

「分かって…くっ!」


 ダメだ!ナインも限界が来た!もうあいつは動くことが出来ない!


「俺達で止めるぞおおおおお!」


 何でもいい!あいつを止められる杖よ!出てこい!


「これだもぅ!喰らええええええ!」


 乱暴に引き抜いた杖をニックルに向けた。


 ドギュウゥゥウウン!!!


 なんだこの杖!?ビームが出てきたぞ!でも1発出したら折れちまった…


 ニックルは今の一撃を喰らって下半身を失い、上半身が地面へ落ちようとしていた。


 ドタンッ!ドタドタドタドタドタ!


 しかし上半身は手押し車するように、両腕だけで前進を続けた。


「くっそおおおおおおお!!」


 諦めそうになった次の瞬間、動いていた上半身をジンとツカサの武器が仕留めた。


「危なかったね」

「切っても動くとか魚かテメーは」


 元の姿に戻ったナインが遠くの方で倒れている。動けそうにないから、運んでやらないと…


「終わった…」








「俺の勝ちだと言っただろうがあああああああ!」


 倒したはずのニックルが天音の背後に立っていた。刹那、天音は自分を支えていた時雨達を突き飛ばした。


「ゥァッ!」


 そして手刀を喰らって身体を斬られた。


「俺の頭部を忘れていたようだな。知らないのか?頭も肉体の一部だ。当然、再生出来るんだぞ?」


 なんで…生きてやがる!こんだけ必死になって戦ったのに!天音だって死ぬ覚悟で戦ったんだぞ!?


「なんでお前が生きてんだよおおおおお!?」

「俺は死なないからだああああああ!フッハッハッハッハッハッ!」


 こんなことあっていいのか…全員が全力で、命懸けで戦ったのに…!

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