第15話 「ありがとう、ナイン」
「ナインごめん!俺、あの時どうしようもなくて、お前に八つ当たりをしてしまった!出ていけなんて言ったけど、帰って来て欲しい!」
「いやー楽しかったよ!元気無さそうにしてる君を遠くから見るのは!」
「………」
「まあ、謝ったから許してあげるよ…ユッキーには感謝しないとだね」
「ナイン…!」
魔獣を倒したことで街は元通りになった。と言っても夜は更けていて、少し電気が点いているだけで暗いことに変わりはなかった。
「…そろそろ話に入ってもいい?」
「あ、どうぞどうぞ」
ナインの元同級生は横に並んで、唐突に自己紹介を始めた。
「私はサヤカ。鞘とリーダーを担当してる。あと、さっきはぶつけられて痛かったよ」
「さっきの剣の刃と副リーダー担当のジン。まあリーダー頼もしいから、肩書きだけ副リーダーってことで」
「鍔担当のツバキよ。さっきは守ってあげたんだから感謝しなさいよね!」
「俺はツカサ!担当してた部位は言わなくても分かるよな!」
「ど…どうも」
「回復は…いらないそうだね。それじゃあ、私達は魔獣の出現を報告しにアノレカディアに帰るよ」
「え、もう帰っちゃうの!?せっかくだから泊まっていきなよ!」
「魔獣が出たのに呑気してられないでしょ!あんたも傷酷いんだから、早く休んで治しなさいよね!」
個性的な元同級生は自己紹介をしただけで、すぐにアノレカディアに戻って行ってしまった。剣に変身していたが、あれも魔法なんだろうか。
「…怪我、大丈夫か?」
「うん、傷も落ち着いてきた」
腹の怪我は既に治り始めていた。この凄い回復力もサキュバスの特徴なのだろうか。
「えええええ!ランクダウンし過ぎじゃない!?」
ナインはこれから住むアパートを見て不満を叫んでいた。まああのマンションからこれじゃな…何気にここから見えるし。
「部屋も狭いし!」
「二人で住むにはちょうどいい広さだろ」
「てか寝たいんだけど~」
「ソファもベッドも全部持ってかれた。布団買うまで床で寝ろ」
ダンボールの砦が立つリビングに、枕代わりの衣服を積み重ねた。
「これネグレクトじゃないの?今の状況、訴えたら勝てるよ。裁判起こそう」
「お前がいればそれで充分だ」
魔法さえあればどうにでもなる。困ったらナインに魔法で助けてもらおう。そしていつか、ナインが困った時には俺が力を貸そう。
「あの、僕の枕は?」
「そこのダンボールにまだ服が入ってる。それ使え」
「…ふーん」
そう言えばこいつ、寝袋みたいな魔法の杖持ってたような…
「ってなんだよ急に」
「腕枕~」
ナインの軽い頭が腕に乗っかってきた。
「ありがとう」
「いきなりなんだよ」
「さっき魔獣に攻撃されそうになった時、助けてくれたでしょ」
「あれか…まあそれでやられそうになったし、お前の友達が来なかったら死んでたな」
「だよねー!」
本当、あのタイミングで来てくれなかったらヤバかった。あの試作品と呼ばれていた杖があったから、彼らは助けに来られたんだ。
「ありがとう、ナイン」
「スー…」
もう眠ってるし…俺も、走り回って疲れたな。今日はよく眠れそうだ…
「あーあ、遅刻だね」
「お前が抱きついて起きなかったら遅刻してるんだろうが!」
既に10時を過ぎている。2時限目の途中には間に合うだろうか。
「そんじゃ行ってきます!暇なんだから荷解きやっとけよ!」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」と言われて登校する一日。思えばこれが当たり前になっていた。当たり前が戻って来たんだ。
きっとまだ気付いてないだけで、ナインと一緒に過ごして当たり前になったことが沢山ある。
それを見つけながら、これからを大事に過ごしていけたら良い…そんな風に思った。