第145話 「ソウル!フリイィィィィィズ!」
「邪悪な魔獣の力から彼女を救うために!戦うんだ!」
ナインは私に向かってそう叫んだ。
これまで私が話してきたのは、魔獣によって性格をねじ曲げられたお姉ちゃんだった。私が戦っていたのはお姉ちゃんではなく、彼女を支配している魔獣なのだ。
救うために戦う。そう思うと、あの魔獣人に立ち向かう勇気が溢れてくる。
狙った相手の心を凍らせるソウルフリーズの準備は完了した。ハンターズの協力もあって、この場には冷えきった感情が集まっている。
しかし…もしもナインが言っていた通りなら、1つ問題がある。
「お姉ちゃん!魔獣の力に負けないで!」
魔獣がお姉ちゃんの心が既に凍っているのなら、ソウルフリーズは通用しない。凍っているものを凍らせることは出来ないからだ。
「オ前ノ姉ハ凍ラセタ!何ヲ叫ンデモ届カナイゾ!」
「そんな…お姉ちゃん!ねえお姉ちゃん!!」
「早速使ワセテモラオウ…タイムフリーズ」
突然目の前に現れたナインが私の身体に激突し、そのまま背中を外壁に打ち付けた。時間停止中に投げ飛ばされたようだ。
「また時間が…!」
「ナインちゃんサヤカちゃん!これ以上は危険だよ!迎撃を──」
「待って!チャンスは必ずあるから!」
ハンターズが痺れを切らして動き出そうとしている。もしも大勢の人が戦闘を始めてしまったら、この場の感情が熱くなってソウルフリーズが発動できる環境ではなくなってしまう。
「コノ蛸ゴト叩キ潰シテヤル!ビッグアイスカリバー!」
「あの大剣は!?」
魔獣人がとてつもなく大きな氷の剣を召喚した。
あんなのが振り下ろされたら、この要塞は真っ二つになるどころか爆散する!全滅だ!
「私が受け止める!シィルドオオオオオオオオ!」
前に立ったツバキが剣に負けないくらい大きなシールドを召喚し、攻撃を受け止める準備に入った。
バキンッ!
突然、剣と盾が接触して大破した。
また時間が停止して、その間に剣が振り下ろされたんだ。盾が脆かったら私達は死んでいた!
「コノ身体ノ魔力ハマダ残ッテイル…次デ終ワラセル」
そう告げると、魔獣人は先程よりも大きな氷の剣を生成。離れた場所にいるはずなのに、放たれる冷気が私の元まで届いていた。
「もう一度シールドを出す!」
今のサイズの盾では攻撃は止められない。それにまた凌いだところで次がある。
何より、私よりも敵の近くにいるツバキは身体が凍り、白い息を吐いていた。このままでは体力が持たない。
「ツバキ、シールドはいらない」
「ちょっと、何言ってるの!?」
「それよりもお姉ちゃんを呼んで欲しい。いつも私達と遊んでくれたお姉ちゃんのことを」
私達の声をぶつけて、魔獣に冷やされたお姉ちゃんの心を温める!そしてソウルフリーズを出すしかない!
「…しっかりしなさいよショウコお姉ちゃん!なに魔獣なんかに負けてんのよ!魔獣の力に負けるあなたなんて、私一人でも倒せるわよ!?」
「お姉ちゃん!私は昔よりも強くなった!だから見て欲しいんだ!私の必殺技、ソウルフリーズを!」
「敵ニ手ノ内ヲ教エルトハ馬鹿ナ女ダ。ナラバ使ワレル前ニ潰シテヤル!」
「「お姉ちゃん!私達の声を聞いて!」」
猛吹雪のような音を轟かせ、巨大な剣が振り下ろされる!
だけどお姉ちゃんは魔獣なんかに負けない。私はその瞬間を信じて、ソウルフリーズを構えた。
ビュウウウウウゥゥゥゥゥ…
「何故…身体ガ動カナイ…!?」
傾いていた氷の剣が静止した。しかもそれだけではなかった。
ピキピキピキピキ…パッシャアアアアアン!
静止した剣は宙で粉々に、僅かな光を乱反射させて美しく輝いた。
まるで花火みたいなこの現象…いや、この技は…!
「氷花火…」
攻撃でも防御でもない。お姉ちゃんが私達を喜ばせようと開発してくれた、氷を花火のように魅せる美術魔法だ。
「サヤ…カ」
「お姉ちゃん!?お姉ちゃんなんだね!!!」
「このまま…私ごと魔獣を…倒して……最期に見せて欲しいんだ。サヤカが開発したっていう必殺技!!!」
「サヤカ!今よ!」
「くっ…ウオオオオオオオオオ!ソウル!フリイィィィィィズ!」
ソウルフリーズを発動。この瞬間、お姉ちゃんの魂は凍結した。
心が凍ったことで敵の能力が完全停止。氷の魔法で滞空していた身体は地面へと向かって落ちていった。
「ジン!ツバキ!ツカサ!」
「「「フォーメーションソード・コンバイン!鞘なしヴァージョン!」」」
三人がフォーメーションソードへと変身合体する。ナインに使ってもらう時は私が魔法のコントロールをするために鞘になるけど、私が振るう分にはこれで問題ない。
「フレイムエンチャント!正義の炎が冷酷な悪を今斬り裁く!」
刃に沿って手を動かし、魔獣人が得意とする氷の弱点属性である炎を纏わせた。
「フンッ!」
そして私達は要塞を飛び降り、狙いを定めて加速した。
「「「「火炎魔法混合剣技!フォーメーションソード・バーニングストライク!」」」」
落下していた身体に剣を突き刺し、さらに炎を噴射。4人の力を合わせ下方向へ超火力を放った。
お姉ちゃんの身体は炎に包まれ、魔獣と共に焼かれていた。
「「「「ウオオオオオオ!」」」」
炎は推力となり、上昇した私達は要塞のデッキへ戻ることが出来た。
「お姉ちゃん…!」
「サヤカ…」
そこへ丸焦げにしてしまったお姉ちゃんをゆっくりと降ろした。
早く治してあげないと…!
「私…馬鹿だ。強くなりたくて、誘惑に負けて、こんな力に手を出して…サヤカ達を殺しかけた…ごめんね」
「本当に馬鹿だよ…お姉ちゃんはそんな力なくたって強いじゃん」
一度はその力に魅力されて私達を攻撃した。でもこうして自分を取り戻せたんだ。やっぱりお姉ちゃんは強いや。
剣になっていたツバキ達が分離した。炎を纏わせたせいか、3人とも顔が風呂上がりのように火照っていた。
「あっち~…」
「それに炎にパワーを回して疲れた~」
「ナイン!喉渇いた!ジュース!」
「はいはいそれじゃあドリンクバー・ワンドを…気を付けて!まだその人の中に魔獣の魔力が残ってる!いや、どんどん強くなってる!?」
ゴズッ!
お姉ちゃんの身体から氷の結晶が飛び出した!?
「そいつは魔獣だッ!彼女の中にいた魔獣だぞ!」
結晶は手足を生やすことで、頭のない人の形を模倣した。
「コウナルト思ッテ準備シテイタ。貰ッタゾ!オ前ニハ勿体ナイ命!ソシテタイムフリーズヲ確立サセタ協力ナユニークスキル魔法方程式!」
お姉ちゃんの身体が冷えていく!傷は治した!ナインみたいに珍妙な魔法は出来ないけど、私は回復魔法が使えるんだ!これまで皆を治してきた!なのに…!
お姉ちゃんの身体から力が抜けてく…死ぬ要因は何もない!全部治したのに!」
「お姉ちゃん!しっかりしてよ!死んだら嫌だよ!せっかく生き返ったんだよ!?お母さん達に会おうよ!」
「ソウルフリーズ…良く作ったね」
チリチリと少しずつ、足先から灰のようになっている。これは怪我ではないのか、回復を掛けても灰化現象を遅らせる事しか出来なかった。
「オ前ニ殺サレタ私ハソイツノ命ヲ奪ッタ事デ生キテイル。ナラバ命ガナクナッタ肉体ハ滅ビルノガ原理原則ダ」
そんな…だったらお姉ちゃんは助からないの?あいつに命を奪われたせいで、ここで死んじゃうの?嫌だよそんなの!
「うぅ…!」
「サヤカ、後は任せて…最期まで一緒にいてあげて…他の皆も!ここは僕達に任せて欲しい!」
「ナイン!そんな身体で戦えるわけないでしょ!?」
「ナイン…確カ、アン・ドロシエルガ狙ッテイタ女カ。良イ身体ヲ用意シテクレタアイツニ親切スルツモリデハナイガ、殺シテオイテヤロウ」
まずい!ナインは四肢を失って倒れている!どんな攻撃が来ても防御が出来ない!
「サヤカ!早くシールドを!」
「もう送ったけど間に合わない!」
時間が止まってしまう!そしたらナインは終わりだ!
ツバキの射出した盾はもう間に合わない!!
「タイムフリーズ!」