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第143話 「戦うべきだと思うよ」

 白田幸成という前世を持つバリュフ・エルゴ。前世で彼の親友だった車田健也は魔獣人として姿を現し、二度交戦した。


 一度目はヘイトタイタンという健也の死体を利用した攻撃で圧倒的な力の差を見せつけられた。

 二度目はホッシーとユッキーが加勢してそのヘイトタイタンへ挑んだが、それでも敵わないほど、憎しみの力は凄まじい物だった。


 そして今日、その健也と、彼と同じ魔獣人であり、そしてサヤカのお姉ちゃんであるショウコが同時に現れた。


「地上に魔獣人を2体確認!こちらを見ているだけで攻撃してくる様子はありません!」


 まさか二人同時に現れるとは予想していなかった。しかしそれぞれを相手にどう戦うかは既に決まっていた。


「健也は僕に任せて欲しい」


 バリュフは一人で健也を倒すために、空中に浮く生徒会要塞から地上へ飛び降りていった。

 それから間もなく、入れ替わるように氷の翼を広げたショウコが要塞の前に現れた。


 バリュフは健也と一騎討ち。ショウコはサヤカの必殺技で倒す。これが僕達の作戦だ。


「サヤカ、ねえサヤカ。顔を見せてよ」


 翼を広げるショウコは妹の名前を呼んでいた。空気を凍らせて、さらにそれを空中に固定している。あの翼がなくとも空中に浮くことは可能なはずだ。

 要塞のロッカールームにあるモニターの前で、僕とサヤカは彼女を視ていた。


「緊張してる?」

「うん。技が成功しなかったら私達の負け。皆殺されちゃうからね…責任重大だよ」

「サヤカ、大丈夫だよ!僕達が付いてるから!」

「そうだよね…うん、大丈夫…みんないるから負けない…」


 そうして歩き出したサヤカだが、僅か3歩進んだ場所で立ち止まってしまった。


「勝つんだ…勝たないと…戦わないと…」


 そう自分に言い聞かせているサヤカは涙を溢した。無理もない。これから戦うのは大好きだった実の姉なのだから。

 僕は…どうやって励ませばいいのか答えを見つけられなかった。


「本当に…お姉ちゃんと戦わないといけないの…?」

「そうなんだよ、うん…つらいだろうけど…」


 僕もお兄ちゃん達と戦うことになったら、彼女と同じように悲しむと思う。


「ねえナイン…お姉ちゃんを止められる魔法の杖はないの!?」

「サヤカのお姉ちゃんは洗脳でも脅しでもなく、自分の意思で敵に回ったんだ。だったら僕の魔法の杖じゃなくて、君の魔法で戦うべきだと思うよ」

「出た!ナインのそういう臭いセリフ!どうせまたお兄さん達の受け売りなんでしょ!?」

「こればっかりは僕の本心だよ」

「ショウコさんは…サヤカのお姉さんは俺が殺す」


 重い空気に潰されそうだった僕達の元に、ツバキとツカサを引き連れてジンがやって来た。

 今の発言をした彼の瞳から迷いは感じられなかった。


「元々は俺があの人を殺したせいでこんなことになったんだ。その責任を取る」

「嫌だよジン…あんなつらい事、もうして欲しくない」

「優しいな、こんな俺の事を気に掛けてくれるなんて」


 もう戦いの時は来た。これ以上、ここで立ち止まっている時間はない。


「サヤカ!出てこないならこのマシンタコを凍らせて墜落させちゃうよ!…昔みんなでタコパしたよね。ツバキちゃんったら熱いよって注意してるのにどんどん口に放り込んじゃって、果てには病院行くことになってさ…流石に笑っちゃったよね」


 脅しを掛けるついでに思い出話をするショウコ。いつもなら恥ずかしがったりするツバキも、今ばかりは硬い表情を崩さなかった。


「行こうサヤカ」

「う、うん…」


 こんな状態で成功するのか…僕達のフリーズは?




 僕達は通路を駆け、近くにあった階段からデッキへ出た。

 寒い…なんて冷気だ!ショウコの魔獣の力なのか!


「やっと出てきた!サヤカ!」

「お姉ちゃん!もうこんなことやめて!」

「こんなことって…戦うこと?」

「せっかく生き返ったんだよ!もっと別のことしようよ!話とか、せっかく異世界に来たんだから美味しい物食べるとかさ!」

「う~ん、それもいいけど…やっぱり戦いかな。私、成長したあなたと戦いたい!」


 薄々気付いてたけどこの人、戦うことが好きなバトルジャンキーってやつだ…サヤカには可哀想だけど、話が通じる相手じゃない!


「でもお姉ちゃん!」

「いい加減にしなさい!試合の時と同じ!戦いの中に姉妹も家族も関係ない!」

「うぅ…!」

「さ、作戦決行だ!みんな!」


 ダダダダダダダ!


 僕が合図をすると、待機していたハンターズの女子達が一斉にデッキに上がって来た。かなりの人数が集まっているので、要塞が僅かに傾いている。


「いくよナイン!エンチャント・バーニング・アーマー!」


 サヤカは魔法で炎を発生させて、その炎で鎧を造って僕へ与えた。さらに僕自身も熱量を高めるためにファイア・ワンドを発動したことで、立っている床が赤くなるほど熱かった。

 忘れているかもしれないけど、僕は魔物の要素を取り込んだキメラだ。熱に強い魔物の要素が、今ここに来て役に立った。


「くっ…あちぃ!」


 けれどつらいものはつらい!今回の戦い、なるべく早く終わってくれると嬉しいなぁ…


「行ってくる!」


 このまま高熱で要塞を溶かすわけにもいかず、僕はその場からフロート・ワンドの能力で飛翔。ショウコの前に立ち塞がった。


「凄い熱…氷の翼が溶けちゃいそう。けど残念。それじゃあタイムフリーズの中での動きが限られてくるよ。前の真っ赤な姿にはならないの?」

「あぁ…ならない。君を倒すのは僕と光太じゃなくてサヤカ達だからね」


 今頃彼は、この光景を要塞の安全なブロックからモニター越しで観戦しているだろう。




 敵を観測する少し前、僕は光太と話をした。


「光太が戦わないなら、超人モードは使えないね…」

「あぁ。どうせソレにならなくたってお前達なら楽勝だろ」


 彼は平常運転、いつも通りヘラっていた。

 なんとかならないのかなこの性格…戦いが終わったら性格矯正魔法の杖でも開発してみよう。


「光太、今回は戦わなくて良いけど…僕達の戦いをちゃんと視ててよ。モニター越しで良いからさ」

「見て学べってか?俺は──」

「命令魔法の杖オーダー・ワンド!光太、僕達とショウコの戦いをちゃんと視ろ!」


 強制するのは好きじゃないけど、多分こうでもしないと戦ってる間に寝てるだろうし…


「いや魔法なんて使わなくたって見守るけどさ…」

「いい?今回の戦いはちゃんと視るんだよ。動きだけじゃなくて戦士の姿も…それからどうするかは君の自由で良いからさ」


 不謹慎だけど、サヤカとショウコの姉妹対決と言えるこの戦いを利用しない手はなかった。

 この気持ちがぶつかり合う戦いを視た光太が、再び戦ってくれるのを僕は願っているんだ。




「サヤカが私を倒すか…熱いね。でもそんな熱い気持ちも何もかも、私のタイムフリーズで凍らせてあげる!」

「僕達は勝つ!」


 言葉では強気には出たけど、今の僕でどれだけの時間稼ぎが出来るか…

 

「タァイム…フリーズ!」

「一度目の時間凍結!来るぞ!」


 そして時が凍り付く寸前、サヤカは必殺技の第一段階を発動させた。


「ソウルフリーズ…プレパレーション!」

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