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第142話 「僕は負けない!」

「う、嘘でしょ…」

「5人掛かりで負けた…」


 滝嶺生徒会長、ホッシー、サヤカ、そして強敵だった魔獣人の父親を倒した狼太郎とフェン・ラルクの新たな姿、その名もウォルフナイト・ブラスト。

 僕とバリュフはそんな強豪達を相手に二人で勝利した。その勝因は…


「バリュフ…ユニークスキル…あったね!?」

「諦めかけていたが…まさかな」


 以前、無いと諦めていた彼のユニークスキルが戦闘中に発現したことだった。


「これならあのヘイトタイタンを倒せるかもしれない。可能性が見えてきた」


 僕の推測が正しければ彼のユニークスキルは戦闘向けの超強いやつだ!


「やったね!……………あれ、嬉しくないの?」

「力を向ける相手が心を持たない魔獣ならともかく、友達だからな」


 そうだった。この能力を向ける相手はバリュフの前世、白田幸成だった頃の親友なんだ。


「ありがとうナイン。ここまで付き合ってくれて」


 激しい戦いの後には反省会を行った。今度こそ勝たなければならないと、みんなで真面目に話し合いだ。

 僕もここまでの戦いで強くなったはずだけど、周りの人達はそれ以上だ。

 特に狼太郎とフェン・ラルク。和解しただけでこんなに強くなるなんて反則だ…


 サヤカはタイムフリーズから全く別の技を完成させたんだけど…実戦で発動できるかどうか不安なところ。

 会長とホッシーはパワーアップなしでこの戦いに平気でついて来る辺り多分天才なんだと思う。


「残るは…」


 観戦席の少女達に混じって、あのひねくれ者は僕達のことを見下ろしていた。ただ静かにこちらを見ているだけなので、何を考えているのか表情からは読み取ることは出来ない。


 そんな時こそこれ、読心魔法の杖マインドリード・ワンド!

 どーせ今度も僕の隣に立ってるバリュフに嫉妬とかしてるんだろうけど…


「えいっ!」


 この杖の能力は対象を意識して振ると発動するタイプなので、離れた場所にいる光太に意識を向けて杖を振った。


「いや~…マジで…天才だわ俺」


 あれ?なんか機嫌良さそう…


「このギャグ…ククク…」


 うわぁ…なんかしょうもないこと考えて一人でニヤついてるよ。周りの人達から気持ち悪がられてるし…


「それにしても今朝の朝食は旨かったな~」

「おい光太ァ!真面目に観戦しないなら出てけ!周りに迷惑だろ!」

「あぁ?…あ~悪い悪い。観てたよ。ちゃんと観てた」

「じゃあどうして僕達が逆転勝ち出来たのか、口頭で説明してよ!」

「バリュフのユニークスキルが発動したんだろ?」

「そうだけど、その効果は?簡潔に!」

「あ~…え~っと…特効!」


 ほら、説明でき…


「せ…正解…」


 あ、合ってる!?どうして分かったんだ?カンニングでもしたんじゃないか…?


「特効」


 そう大きく書かれたプラカードを掲げたノートが反対側の観戦席に立っていた。


「ねえちょっと!」

「ノートさん!ふざけないでください!」

「いや~悪い悪い!でもズルしなくても分かってたよな?」

「そりゃもちろん!人間特効で大ダメ~ジ!だろ?」


 ………は?何なのその笑顔。2人ともそんなに仲良かったっけ?


「あたしが戦いの基礎を叩き込んでやったからな!あんなの一度見ただけで分かったもんな!」

「あ…あぁ!………ほぼ無理矢理、彼氏の愚痴ついでにな」


 は?


「…君、座学やるほどお利口さんだったっけ?」

「俺は元々勉強が出来る人間だよ!馬鹿にすんな!」


 お利口さんって、散々周りの人と揉めてトラブル引き起こしてたくせによく言うよ。


「どうしてノートの話だけはちゃんと聴くのかって聞いてるの!!!」

「俺達、コンビ組むことにしたから!」

「そういうわけだ!あばよバリュフ!ナインと仲良くやれよ!」


 ど、どうなってるの!?知らないよそんな話!まさかまた魔獣の力でおかしくなってるんじゃ…


 そう思って魔力を探ったけど、魔獣の力は全く感じられなかった。どうやら素面(しらふ)でこの態度らしい。


「ノートさん!?初耳ですよ!僕にも相談しないで!」

「いや~真面目君と一緒だと肩凝ってさ~!あたし胸デカイじゃん?それだけでも大変なのにもうこれ以上肩凝ると肩外れちまうよ~」


 ブチッ!


 そう音を立てて、僕の中にある何かが切れた。いや、自らブチ切ったと言ってもいい。


「大きな胸の人が良いんだ!光太は!?」

「それは…そうだろうがよ!」

「チッ…二人とも降りて来い!僕達でぶっ倒してやる!」

「過激ではありますが今回はナインと同意見です。ノートさんには今一度僕の実力を知ってもらい、考えを改めてもらいます」

「おっ?言うようになったなぁバリュフ!いいぞ!やろうぜ光太!」

「ぇへっ?マジで?!」


 自分勝手で相手によってコロコロ態度が変わる。そんな光太は少し痛い目を見たほうがいい。




 ノートは観戦席から飛び降り、光太は階段を駆け降りてフィールドに立った。


「両方倒した方が勝ちでいいよな?」

「なんだっていいよ。僕達が勝つから」


 そうしてルールを決めている内に二人が並ぶ。なんだよ光太のやつ!ハイタッチなんか決めちゃってさ!


「バリュフ!光太は僕が殴るから!邪魔しないでよね!」

「え…分かった」


 眉間にシワを寄せて凄むと、頼みを聞き入れてくれた。


「それじゃあ…やるか!」


 さっきまで戦っていたサヤカ達がこの場を去ると同時に、スーツを脱ぎ捨てたノートが突進した。しかも彼女、素手かと思ったら初めて見るライフルを持っている!


「心配すんな!こいつは射たないでやるよ!」

「手加減して負けても知らないよ!」


 彼女はライフルを鈍器代わりに攻撃してきた。

 僕は咄嗟に取り出した杖で防御。ライフルを使った打撃の威力はそれは恐ろしく、構えた杖は殴られた部分から折れてしまった。


「…って離れねえ!?」

「触れた物とがっちりくっつくトリモチ・ワンドだ!」


 もちろんこうなることは想定済みだ。ライフルに杖をくっ付けて取り回しを悪くしてやった。

 僕がノートを抑えている内に、バリュフは光太を目指して走っていく。それを阻止しようとした彼女は、さらにロープ・ワンドの縄で拘束させてもらった。


「どうだ!」

「ナメんなよ!」


 杖で殴ろうとした瞬間、ノートの髪が突然動いて僕の腕に巻き付いた。そういえばこんな技もあるんだったな。


 髪がだんだん硬くなっていく。その間にノートは増量した髪でロープを切断し、髪を引き裂いてバリュフを追った。


「ごめん!そっち行った!」


 バリュフは、魔法のスーツを拾った光太が反撃もせず殻に籠っているので手を焼いていた。


「蒸し焼きにするぞ!ジゾルゴ・フレイア!」


 スーツが火炎に包囲された。このままだと中にいる光太は蒸し焼きになるだろう。


「あたしのスーツ燃やす気かよ!?」

「直接燃やさないように調整しているでしょうが!ジゾルゴ・フロズア・サーペル!」


 片方の動きを抑えて、バリュフは氷の剣を生成。背後から迫っていたノートを迎撃する。

 二人がやり合っている間に僕も、別の杖を用意した。


「閉じ籠る相手にはパイプホール・ワンドだ!」


 一見すると中に空洞のある細い筒型の魔法の杖。だけどこれの底面で物体に触れている間、その向こう側に繋がる穴を開けてくれるのだ。


「さらに!悪臭を発生させるバッドスメル・ワンド!」


 杖から発生した悪臭は、筒を通って光太が籠っている殻の中へ向かっていく。


「…くっせ~!?んだこの臭い!?」


 声がした途端、殻状だったスーツが形を元に戻した。

 そして鼻を押さえて咳き込む光太に1発ドカン!パンチを喰らわせた!


「鼻が折れた!」


 しかし彼は即座にスーツを盾に変形させて、攻撃を防御していた。


「ぐっ、二回変形させただけでもう疲れが…」

「殻の状態を維持し過ぎたんだよ!」


 油断していると、盾から鋭く伸びた針が頬を掠める。

 早くこいつを潰してバリュフに加勢しないと!


「それじゃあ悪いけど──」

「ナイン・ワンド!」


 光太が呪文を叫ぶと、僕が腰に巻いていたバッグから複数の杖が飛び出てきて融合、ナイン・ワンドとなった。

 どんな杖を融合したのか知らないけど、使わせるもんか!


「って重ォ!?何混ぜたコレ!?」

「ナイン・ワンド!」

「今度はなんさ!?」


 光太はまた呪文を唱えて杖を作った。今のは罠だったが、きっとこれは攻撃に使える杖を混ぜた物のはずだ。


「よし!掴める!喰らえ!」


 オレンジ色に光るナイン・ワンドで胸を突こうとした時、光太は笑っていた。

 そして突いた途端に彼の筋肉が増大した!パワーアップ系の杖を融合させていたのか!


「ナイワッ!?」


 三度目の呪文を唱えられる前にパイプホール・ワンドを口に入れて黙らせる。しかし強くなった光太は杖を噛み砕くと、僕を持ち上げて壁へ投げ飛ばした。


「フゥゥゥ…超パワー!」


 壁へ足を付け、衝撃を抑えて床へ着地。そこから再び光太へ挑む。

 一丁前にポーズなんか取ってるし!調子に乗ったことを後悔させてやる!


「まずはお前からだ!」

「バリュフ!狙われてる!」

「ジゾルゴ・ボンバア!」


 自分を中心に魔法で爆発を起こすバリュフ。咄嗟に防御したノートは離れたが、光太は構わず前進して攻撃した。


「来いっ!」


 図体の大きくなった彼のタックルを、バリュフが正面から受け止めた!


「凄いパワーだな。魔力が身体から溢れ出てるぞ」

「クゥウウウ…」

「半端な身体だから有り余った力を制御できていないんだ。そして散らばった魔力はこうして利用される!覚えておけ!ジゾルゴ・フレイア!」


 ボオオオオオオオオオオオ!


 業火が起こった。観戦席に保護用バリアがなかったら、今頃みんな丸焦げだったかもしれない。そんな火力を直で受けたあと、黒く焼けた光太はバタリと倒れて動かなくなった。ついでに膨れ上がった身体も元に戻っていた。


「サヤカ、治しておいてくれ」

「うんって投げないの!可哀想でしょ!」


 バリュフは光太を観戦席へ投げた直後、奇襲してきたノートのキックを即座に防御していた。

 だが髪を使った攻撃には反応できず、纏まった黒髪で殴られた彼は後方へ吹っ飛ばされた。


「これで1対1なわけだが…」


 ノートと戦うのはエウガスでの大会以来だ。あの時は杖もなく、僕が負けてしまったけど、きっと今なら勝てる。

 接近戦向けの杖を取り出して突進。そして突きや振りの動作を連続させた乱舞(ラッシュ)繰り出した。


「やるなぁ!」


 数発回避した後、ノートはさっきのライフルを新しく召喚。同じように振り回して防御と反撃を仕掛けてきた。

 連続攻撃(ラッシュ)連続攻撃(ラッシュ)のぶつかり合いだ。


「あたし達より強いやつなんてマルチバース規模で数えれば無量大数!その中にはアン・ドロシエルみたいな性根が腐ったやつもいる!」

「急になんだよ!ぐっ!」


 ワンドとライフルが激突。ライフルは折れたが、それでもノートは拳で連続殴打(ラッシュ)を再会した。


「あたし達はなぁ!勝算なくても戦って守るべき物は守らなきゃいけない時があるんだ!」

「なんだよ!いつも負ける事考えながら戦ってるのか!」

「そうだぁ!もしもこの世界を守れないとしても、お前に戦い続ける覚悟はあるか!考えてみろ!負けた時のことを!」


 僕達がアンに負けた後、この宇宙の崩壊が再開するだろう。そして全てを失ってしまう。僕の世界のアノレカディアにも影響が出るかもしれない。


 それにアンに負けることで何よりも恐ろしいのは、仲間を失うことだ。

 サヤカ、ジン、ツバキ、ツカサ…この世界で出会った色んな人達…そして光太…皆が死んでしまう。


「…ッ!僕は負けない!」

「相手がお前より強くてもか!?クソ強ぇぞ!パロルートの長男よりもずっと!兄弟全員が束になっても敵わない相手でも、そう言い切れるか!」

「負けることなんか考えて戦うもんかよ!僕は勝つ!アン・ドロシエルにも勝ってこの宇宙は守る!」


 ノートの両手を外側に弾き、そのまま押し倒してマウントを取った。さらに杖の鋭利な装飾を喉元に突き付けた。


「んっ!」


 髪が動きを見せるので喉に力強くワンドを押し付ける。そして睨み付け、両手を挙げて降参させることで僕の勝利を認めさせた。


「なるほどな…やっぱりお前もか」

「お前もか……って?」

「お前みたいなやつとは別の宇宙で何人も会ったことがある。お前がそいつら同じようで安心した。アンとの戦いも心配なさそうだな」


 僕はアン・ドロシエルに勝ってみせるんだ。大切な人達とこの宇宙を守るためにも絶対に負けたくない!




「黒金光太とコンビを組むって嘘だったんですか!?」

「僕達を騙してたの!?」

「当たり前だろ、誰がこんな根暗とコンビ組むかよ!」

「俺も…年増は趣味じゃないかな」


 傷が治ったばかりの光太にたんこぶを作りながら、ノートは話を続ける。


「最近真面目な戦いばっかりで肩に力が入り過ぎてる気がしてさ。だから気晴らしに相手してやったってわけ!…そんなに睨むなよ…」


 ………まあいいや。確かにノートの言ったように、少し緊張していたかもしれない。勝敗の後のことも考えずただ戦って気持ちがスッキリした!


「それにしても光太、よく戦ったね」

「いや、お前が他のやつと組んでばっかだから、敵に回ったら記憶に残るかなって思ってさ…本番は戦わないからな。どうせ俺なんか足引っ張るだけだし」


 身体動かしたから汗かいちゃったし、それにお腹も空いた。シャワーを浴びて食事にしよう。


 今回の戦いでは魔法の杖を上手く使えた気がした。実戦でも今みたいに動ければいいけど…

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