第14話 「うおおお!」
新月の夜。魔獣によって光を失ってしまった街は、まるで黒いペンキで塗り潰されたような暗黒の世界と化していた。
「あいつ倒したとしてこの後どうするんだよ」
「魔獣を倒せば全て元に戻る…くっ!」
ナインの腹には焼かれたような傷が出来ていた。さっきの攻撃、かなりの威力みたいだ…
「トーチ・ワンド…!」
ナインは懐中電灯の見た目をしている魔法の杖を取り出した。しかし灯りは安定せず、今にも消えてしまいそうだ。
「これが消えたら…逃げるんだ」
「逃げるってどこにだよ」
「光のある場所…あいつは街の電気を封印してから、君を襲った。きっと光が苦手なんだ」
「あいつを倒せる杖はないのか?さっきみたいに攻撃出来るやつとか」
「ああいうのは魔力消費が激しい…今の君と僕じゃあ大した威力は出せないよ」
このままじゃ殺される!いや、それどころかこの街はどうなってしまうんだ!
「…逃げるぞ!」
ナインを持ち上げ、その場から移動を始めた。彼女は俺を守るために戦って背中に大怪我を負った。
俺のせいで彼女は傷を負ってしまった!
周りを見渡すが魔獣の姿はない。杖の光で道を照らし、俺達はひたすら進んだ。
ん…?なんだか薄暗くなったような…ただでさえ視界が悪いのに…
「…あ…あああ!」
そんな…!こんな時に雲に覆われるなんて!!夜空の星の光が遮断されてしまった!
「…いる!」
目に見えないが、魔獣は確かに俺の目の前にいる。こっちに向かって歩いて来ているのを感じるぞ!
「ナイン!日付を飛ばす杖だ!あれで明日の朝に逃げよう!」
「そんなの…使えるならとっくに使ってるよ…それに」
ナインは俺から降りた。彼女は俺の肩を借りて、なんとか立っていた。
「世界の法則を無視する魔獣を野放しには出来ない…光太は逃げるんだ」
「逃げても無駄だろ…」
きっとまだ打つ手はあるはずだ。そう信じて、ナインのバッグから適当な杖を引き抜いた。
「これはどんな杖だ!」
「助けを呼ぶ杖…試作品だよ。一度使ったらなくなっちゃうし、近くに人がいないと何の効果もない…」
このタイミングでそんな運頼みな能力の杖を引いてしまうなんて…
「誰でも良いから!ナインを助けてくれえええ!」
ここに来るまで人間を1人も見ていない。きっと誰も来てくれない。
本当に誰も来てくれないのか?魔獣は俺たちに向かって歩いて来ている。ここで終わりなのか?
ナインが来て、ちょっとだけ日常が変わった気がしたんだ。まだちょっとしか変わってないのに、もう人生終わるのかよ!
「嫌だ…死にたくない!」
「僕が…守る」
傷付いているはずのナインが俺の前に出た。
「光太は大丈夫…僕が守るから…」
ナインに向かって魔獣の腕が伸びる。その瞬間、俺は彼女の腕を力強く引っ張っていた。そして魔獣にパンチを喰らわせた。
手応えがない…それに右腕の感覚がなくなっていく!
「やんなきゃ良かったあああああ!」
身体が魔獣に吸い込まれていくみたいだ!ここまでか!
「あれ…」
だが魔獣は腕を解放して、逃げるように離れていった。
どうしたのかと思った次の瞬間、目の前に無数の棒が降り注ぎ、地面に突き立った。
「あーあ、殺気感じて避けられちゃったじゃん」
「ばっか!牽制だよ牽制!追っ払わないとあいつら危ねえじゃん!」
誰もいないと思っていたのにナイン以外の声がする。それも一人だけじゃない!
「しっかりしなさいよ!これは実習じゃなくて実戦なのよ!」
「ナイン、大丈夫?」
男子と女子が二人ずつ。四名の少年たちが現れた。それもナインを知っているみたいだ。
「なんで…君達、どうしてこの世界に?」
「君のお兄さん達から様子を見て来て欲しいと、おつかいを頼まれたんだ」
「そんで来てみたら世界が真っ黒。探索してたら魔獣に襲われてるお前達を見つけたってわけ…てかこいつ誰?」
なんだこいつら…会話の内容からして、アノレカディアの人間みたいだけど…
「まずは魔獣を倒さないとでしょ!」
魔獣が襲い掛かって来た。それに対してツインテールの少女が手のひらを突き出すと、無数の盾が出現。狂暴な魔獣を弾き返した。
「フォーメーションソード・コンバイン!」
制服を来た少女が叫んだ途端、四人全員が光の玉となって宙に浮かび、一つに合わさった。
そして光は剣となり…どういうわけか、俺の手に入り込んで来た。
人間が光に変身して、それから合体して剣になった!
「さあ!あいつを倒すよ!」
「いやいや!なんでナインじゃなくて俺なんだよ!ナインの友達だろあんたら!」
「見て分からないの?今のあいつじゃ戦えるわけないでしょ」
「お前もナインの友達なら、あいつを守るために戦う覚悟決めろ!」
「心配ないよ、この程度の魔獣なら私達で倒せる!」
「彼らは僕の同級生。将来、一緒に悪と戦おうと誓った仲間だ!」
「正確には元、同級生だけどね」
ナインは戦った。彼女が守ってくれたから俺が戦える。
なら今度は俺の番だ。俺とこの剣であいつを倒す!
「他に助かる選択肢がないなら俺は戦う!うおおお!」
「あっ!ちょっと待て!」
剣道すらやったことない俺が戦えるのか?とりあえず振り回すしかない!
「えい!えい!えええええい!」
「ちょっと丁寧に使いなさいよ!」
俺はやたらめったらに振り回した。剣は近くの物にぶつかって跳ね返りながらも、魔獣に当たっていた。
「痛い…」
効いたか?と目を凝らした瞬間、物凄い衝撃が胸に打ち込まれた。
視界が暗過ぎて反撃に気付けなかった!
「うっっ!」
痛い…苦しい!やっぱり俺なんかじゃ勝てないのか!
「光太…鞘」
「敵を見極めた。私から剣を抜いて」
鞘…そうだ。鞘から抜くのを忘れてた。
「…眩しっ!」
柄を引くと、自ら光を放つ刃が現れた。そして周りの景色が照らされ、魔獣が怯えるような素振りを見せた。
「やっぱりあいつ!光が苦手なんだ!ちょっと身体借りるよ!」
か、身体が勝手に動き出した!俺、魔獣に向かって走ってる!
俺は戦いという物を知らない。しかし、操られている身体は魔獣の迎撃を避けて懐に飛び込み、剣を振り上げた。
「筋力以外には文句無し!良い身体だ!」
「ちょっと私にもやらせなさいよ!」
一瞬、身体が硬直したがすぐに動き出した。動きもシンプルな物から、まるでフェンシングの様な華麗なスタイルに変化した。
「そらそらそらっ!えいえいえいえい!」
物凄い突きだ!そもそもこんな素早く腕が動いたことなんてこれまでなかったのに!
「次で決めるぞ!」
今度は逆手で剣を持った。途端に光は強くなり、魔獣によって創られた闇が照らされた。
すると街は元通りとなり、この場所に残る異物は魔獣の存在ただ1つとなった。
「フォーメーションソード・ストライク!」
足を動かさず、スライドするように魔獣に前進していく。そして全身を捻り剣を構え、対象物の目の前で勢いよく振るった。
一刀両断された魔獣は、街の光に照らされた事が原因か、そのまま身体が消滅していった。
「どうなってんだよ…」
ナインを探していたはずが、気が付いたら魔獣を倒していた…
ナイン!そうだ!俺、お前に謝らないと!