第138話 「もう戦えない!」
ピンチだったナイン達から、戦いを引き継ぐところまでは良かったが…
魔獣人のヨウエイ相手に俺とツカサで勝てるかな。前にアノレカディアで戦った時は魔獣の力を使ってこなかったし。
「ジン…お前を殺せばサヤカは…」
それにしても狼太郎のお父さん程ではないけど硬そうな身体だ。普通に戦っても俺のブレードは弾かれるだろうな。
「ツカサ、俺があいつの注意を引くから適当に殴ってみてくれ」
「おうよ!殴るんだったらさらに棒を2本増やして…」
ジャラジャラ!
ツカサは3本のロッドを連結させて、三節棍を完成させた。初めて見る使い方だ。
「んじゃお先に!」
ツカサに作ってもらったロッドを片手に前進した。確か、ヨウエイのユニークスキルのせいで攻撃を避けてもダメージを受けるらしいな。
「来いよ…この人殺し野郎!」
魔獣人の胸を狙って打突を放つ。しかしロッドは先の方から折れてしまった。
「俺の番だ!」
魔獣人の攻撃と同時に、地面に突き立つようにブレードを召喚。そして剣のように鋭利な平手を受け止めた。
「痛ッ!」
攻撃を喰らってないのに、首に浅く傷が出来た。
「もしもしジン、僕の言葉届いてる?」
「ナインか?テレパシーならちゃんと届いてるぞ」
ナインがテレパシーを使って話し掛けてきた。確かそんなことが出来る魔法の杖があった気がしたけど…どんな名前だったかな。
「ヨウエイのユニークスキルが分かったんだ」
「本当?凄いじゃんか」
「正式名称は分からないけど、名付けるならダメージ保証。ヨウエイの攻撃が防御、もしくは回避された場合のみ、元々の攻撃力の半分ぐらいのダメージを与えるみたいなんだ」
「なんか後半カードゲームのテキストみたいだったけど大体分かった」
攻撃されたらダメージが確定するとは、厄介なユニークスキルだ。。
ガコンッ!
話している内にツカサが背後から奇襲。しかし彼の三節棍も見事に折れてしまった。
「ツカサ!骨組み頼む」
「あれやるのか?」
そして俺はブレードを大量発生させ、廃工場にロッドとブレードで構築された壁をいくつも組み立てた。
ユニークスキルダメージ保証。厄介だけど必ず弱点はあるはずだ。ひとまず、ナインから聞いた情報をツカサにも共有した。
「なるほど…ならジン、今度は俺があいつの気を引く」
「あれに斬り込むならブレードを直接握らないといけないか。嫌だなー…」
ポケットから包帯を取り出して両手に巻いた。俺のブレードは浮遊させて操ることも出来るが、やはり強烈な一撃を入れる時には握って振った方がいい。
しかしこれが痛いんだ!包帯を巻いても戦いが終わる頃には手が真っ赤!
「それじゃあ、俺から仕掛けるぞ。頼んだぞ」
ツカサは新たなに召喚したロッドを手にし、壁から壁へと移るようにヨウエイへ接近した。
「ツカサ…お前4人の中じゃ一番弱いよな。特にサヤカの足引っ張るのはお前とサキュバスだった」
「いつの話してるんだよ優等生!それにサキュバスじゃなくてナインだ!頭いいクセして人の名前覚えられねえのか!?」
「サキュバスは人じゃない!間違えるなよ!このボケが!」
ビシュン!
ツカサが隠れていた壁が真っ二つに斬られた。あいつは間一髪、姿勢を低くして攻撃を避けていた。
そして予想は的中だ。壁の後ろに隠れた俺達を攻撃したつもりでも、実際に斬ったのは壁であってツカサではない。
対象をちゃんと狙って攻撃しなければダメージはを発生させられないんだ!
「…そこか」
ヨウエイが壁に急接近して攻撃を放つ。その後ろに隠れていたツカサの肩から胸の辺りまで、ヨウエイの手刀が斬り込んだ。そして血が噴水のように飛び散った。
「ツカサ!」
あの傷だと撤退するしかない!早くサヤカに治療してもらわないと…!
「どうやらお前達に回復手段はないと見た。ならこいつからここで殺す。それで次はお前だ、ジン」
「優等生さぁ…俺達が前より強くなってるとか考えられないわけ?」
「…なんだ、まだ意識があるのか」
ツカサのやつ、あれだけ出血してもまだ戦うつもりか…なら俺も、確実に倒せるように備えておこう。
「…腕が抜けない!」
「前と違うところその1…俺達は諦めなくなった。相手が優等生だろうと魔獣だろうと、その時まで諦めない。その2──」
「このまま刃を生成してその身体を真っ二つにしてやる!」
「俺達は正義の為に戦ってる…お前は今も昔も、自分の為にしか戦ってない!学業だけが取り柄の成長しないやつが!俺達に勝てるわけねえだろうが!ロッド・ガントレット!」
ツカサはこれまでとは全く違う極太のロッドを召喚し、底面を殴って右拳をめり込ませた。
「死ねよ!この落ちこぼれが!」
「ぶっ飛ばす!」
ドゴン!
そして極太ロッドを勢いよく伸展させることで、ヨウエイを自身から引き離した!
「ぐふぅッ!」
俺は敵が押されて来る場所へ先回りし、ブレードを構えた。包帯は厚く巻いたはずだが、既に血で色が付いている。
チャンスは一度きりだ。
「ふぅぅぅ…」
「なるほど読めたぞ!落ちこぼれにしては頭を使ったみたいだな!しかし俺の魔獣はお前のブレードとは比べ物にならない程の切れ味を持つ斬鉄魔獣!ブレードの方が斬れてしまうぞ!」
ロッドによってツカサから押し離されるヨウエイ。そして俺の真横へ到着した瞬間、ロッドごと胴体を横真っ二つにするつもりで刃を構えた。
「フハハハハ!そんなことすればブレードで手が切断されるんじゃないのか?」
スパッ…
「何が斬鉄だよ…俺のブレードでも簡単に切れるじゃん」
手は血だらけになった。しかしヨウエイの身体を上下真っ二つに分けることには成功した。
「なにッ!?俺の身体が斬られただと?!」
「油断するなジン!本体は魔獣にダメージを肩替わりさせて延命することが出来るって話だ!ヨウエイが何してくるか分からないぞ!」
宙に跳ねたヨウエイの上半身が腕を向ける。
俺とツカサではなく、離れた場所にあるプレス機に…
「あそこにいるのは…光太!」
「延ばして攻撃が出来るのはお前だけじゃないんだぜ?」
ピュン!
ヨウエイの指がプレス機に延びた!このままだと機械が崩れて光太が潰される!
「ツカサ!」
「分かってるって!」
ツカサは滅茶苦茶な量のロッドを召喚して鋭い指を受け止める。その間に俺は光太を救出した。
「俺の下半身を忘れるなよ!」
ヨウエイの下半身は自立していた。しかし次の瞬間、工場に充満したロッドを破壊する勢いで爆発し、刃となって飛び散った!
「ツカサ!工場の外に!」
ズババババッ!
壁に外へ続く出口を切り開いて廃工場から脱出した。だが次の瞬間だった。
ザババババババババ!
3人全員が斬られた。俺達は誰一人として攻撃は喰らってないはずなのにだ。
「勘違いするなよ!下半身は自爆技を放ったんじゃない!その身体を削って低火力のメタルスラッシュショットを超高速で連発させたんだ!そして貫通力を持った技はお前達全員への攻撃となる!それを避ければ当然、避けた分だけのダメージを受ける!これが俺のユニークスキルだぁ!」
バババババババババババババ!
ダメージが止まらない!一体何発技を撃ったっていうんだ!ダメージ保証のデメリットで威力は下がっているはずなのに!
「うわああああああ!」
「傷が出来た場所にさらにダメージ!痛いよな!アッヒャッヒャッヒャッヒャッ!」
このままだと全身の皮が剥かれるんじゃないのかってぐらい斬られている!
「そして俺は吸血のスキルを習得している。相手の返り血が付着していれば、その分だけ攻撃力の上昇や回復を行うことが出来るのさ!当然、俺は失った下半身を再生させる!」
最悪だ。コンビネーション攻撃で両断したというのに、ヨウエイは下半身を再生させてしまった。
「ツカサ…まだ行けるか?」
「キッツいけど…やるしかないだろ!」
それにこっちは手負いだ。口では強気だがツカサも血だらけでもう限界のはず。
「その首を跳ねてサヤカの元に持って行ってやるよ。ついでに、胸のデカイあいつ……えっと……そうそうツバキ!あいつは外面だけ良いから、サキュバスの杖で洗脳して身体だけ使ってやるよ」
「てめぇ!」
あまりの妄言に怒りよりも恐怖が沸いてくる。どんな風に生きればそんなことが想像出来るのか…
「切れ味は悪く…苦しんで苦しんでお前達には死んでもらう。落ちこぼれの雑魚にはそれがちょうど良いだろ。俺に歯向かったのを後悔するといい」
ヨウエイが生成した剣は刃こぼれしていた。楽に死なせてはくれないみたいだな…けど俺のブレードで防げる。そこからは…出たとこ勝負だ!
「まずはお前からだ!ジン!死ねえええ!」
ギリギリで召喚したブレードが攻撃を止めた。しかし想像以上にヨウエイの攻撃が重たい。
このままだと反撃するどころか、スパンって首が跳ねられる!
「首が痛い…まさか!?」
「そうだぞジン!防御したところでお前の首にはダメージが発生する。お前はここで死ぬんだよ!王手だ!」
「くっ…ここまでなのか!」
突然、ヨウエイは剣を持ち上げて俺への攻撃を中断した。
「うるせえんだよ…お前の声、傷に障るんだよこの化け物」
「身体が…勝手に動く………お前!?ネムリツムリの粘液を注射したはずだ!なのにどうしてもう目を覚ましている!?」
傷だらけの光太は意識を取り戻して立ち上がり、ヨウエイを睨み付けていた。
まさか彼は、ヨウエイの中にいる魔獣をコントロールしているのか?
「斬鉄魔獣ザァン・ザァン…酷い名前だ」
ヨウエイが元の姿へ戻っていく。そして彼の身体から何か得体の知れない物体…魔獣が出てきた!人間と魔獣を分離させようとしているのか!
カブトムシのような魔獣は角ではなく刃を生やしていた。それから分離するとすぐ、ヨウエイに飛び付いて彼を押し倒した。
「ヒィイ!」
「そうやって魔獣を近くで見るのは初めてだろう?せっかくだ。死ぬまでジックリと観察していくといい」
ガブリ!
「ウギャアアアアアア!」
ま、魔獣がヨウエイを食べ始めた!
「魔獣を止めろ光太!ヨウエイを殺す気か!」
「止めたきゃ倒せばいいだろ」
傷だらけになった俺達を見て出てくる言葉がそれかよ…
「心配しなくても、ヨウエイを殺した後には魔獣も自害させる」
「ヨウエイはもう戦えない!殺す必要はないんだ!」
「助けてくれっ!助けて!サヤカ!」
ムチャリ…グチャリ…
不快な音が聴こえてくる。耳を塞ぎたくても腕が動かせなかった。
「やめろ…やめるんだ光太!」
「やめろおおおおお!」
光太の顔面に、戦線復帰するつもりで現れたナインの膝蹴りが炸裂した。サヤカの治療を受けたのか、さっきの傷は残っていなかった。
そしてヨウエイを喰い殺そうとしていた魔獣の方はというと、サヤカに触れられてから凍ったように動かなくなっていた。
「タイムフリーズ・ワンターゲット…成功かな。ツバキ!」
「分かってる!」
工場の屋根に立っていたツバキが飛び降りる。シールドを召喚した彼女は魔獣に激突し、凍った魔獣を粉々に砕いた。
「た、助かった…あぁありがとう!ありがとう!」
ナインは倒れた光太の顔をしゃがんで覗き込でいた。
「…いてぇよ…なんで邪魔した」
「相手を無力化出来たんだ。殺す必要はないはずだよ」
「そいつは敵だぞ…殺さないと絶対後々面倒になる」
「じゃあ天音はどうするの?後で殺すとか言わないよね…立てる?」
そっぽを向いて立ち上がると、光太は歩いてどこかへ行ってしまった。
魔獣を倒したのは良いが残ったヨウエイはどうするか。アノレカディアへ送り帰そうにも、ゲートは使えないみたいだし…
「とりあえず生徒会要塞で拘束してもらおうよ」
「なあサヤカ、聞いてくれよ。アン・ドロシエルはネフィスティア学園の生徒を人質にして校長からナインの居場所を聞き出したんだ。それでサヤカはナインの元にいるだろ?だから俺、居ても立っても居られなくて、あいつに戦いを挑んだんだぜ…負けて殺されたけどさ」
「それで転生させられて魔獣を与えられて皆を傷付けたんだ…最低だね」
「俺はお前を守ろうと戦ったんだぞ!」
「私達はこの世界を守るために戦ってるの。その邪魔をした時点であなたは敵よ」
「くっ…人殺しと付き合ってる馬鹿な女が!そりゃあ馬鹿だもんな!俺の魅力が理解出来なくて当然だ!バーカ!バーカ!」
「…可哀想だね」
「あぁ…」
この状況でパニックになっているのか、喋ることが滅茶苦茶になってしまっている。これ以上の会話は無駄だと、ナインは杖を振ってヨウエイを封印した。
「ロープ・ワンドでグルグル巻き。それからシール・ワンドで強固に封印。要塞の倉庫にでも入れておくよ」
「そうしてちょうだい。ジン、ツカサ。治療するから動かないでね」
サヤカが俺達の身体に触れる。そして手から流れる回復魔法が、俺達の身体を治していった。
「残る魔獣人は三人か…」
敵は少しずつだが減らせている。俺達の勝利はもう遠くないのかもしれない。
「必殺技はどうだ?完成しそうか?」
「…分かんない」
サヤカが完成させようとしている必殺技とは、姉であり魔獣人でもあるショウコさんが使っていたタイムフリーズような技だ。
しかし成功した事は一度もなかった。
「対象を1つに絞ったワンターゲットなら出来るようになったけど…これだと相手に触れないといけないし…」
「ショウコお姉ちゃんって確か遠距離タイプじゃなかったかしら?前に戦った時はバリバリ接近戦してきたけど」
「多分本気じゃなかったんだよ…タイムフリーズも使えるし、殺そうとすれば私達を殺せたはず」
俺はあの人とは一度しか戦ったことがないから詳しいことは分からないが、あれで本気じゃないとしたら…
「俺達は勝てるのか?」
「僕達は負けないよ!絶対に勝つんだ!」
「ナイン…そうだよね。ナインの超人モードがあれば──」
「違う!サヤカのタイムフリーズで僕達は勝つんだよ!」
「私のタイムフリーズって…無理だよ。大体、私が時間を停めるなんて!最初から無理だったんだ!」
ショウコさんには魔獣の力とユニークスキルがある。それに対してサヤカは…
「ショウコさんにはいなくても、今の君には僕達仲間がいるじゃないか!だったら皆で完成させよう!魔獣の力を使わない僕達のタイムフリーズを!…バリュフの特訓であんまり力になれないかもだけど」
「…そうだね。弱気になってちゃダメだ!みんな、早く帰って特訓しよう!」
「おう!」
「そうこなくっちゃ!」
「何度でも凍らされてやるよ!」
5人の中じゃナインが一番幼稚ってイメージだったけど、こんなこと言えるぐらいには成長してたんだな。
「…どうしたの?そんなに僕のこと見て…この美貌に魅了されちゃった?乗り替えるなら…ごめんなさいもう誘惑しないから魔法構えないで」
「いくらナインでも許さないよ」
「いや、子どもっぽいのに大人びたこと言うなって思ってさ」
「ほ、褒められたって捉えて良いんだよね、それ?」
必殺技の完成…魔法が苦手な俺でも力になれるだろうか。ただ、ナインの言葉を思い出すと、根拠もないのにやれるような気がした。