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第136話 「ってお前!?」

 自身が加害者だと気付いたのはつい最近のことだ。保身に走るあまり人を傷付けて、さらに罪悪感も抱かなかった。

 すると被害者は自殺して転生。憎しみを力に変える能力を得て敵として再会することになってしまった。


 それとは関係なしに先程、俺は弱いんだと自覚した。それは魔獣人のパンチ1発でダウンしたからではない。

 殴られて触れている一瞬、俺は自身の能力で魔獣人と繋がっていた。その刹那の内に狼太郎の父親がひたすら子どものために戦おうとしていたのだと伝わった。やり方はともかく、ちゃんとした理由があって戦っていたのだ。俺が気を失っている間に狼太郎はまたパワーアップしたらしい。

 しかし俺は成長やそれに通じる努力も出来ないで、こうしてアパートの部屋に逃げ帰って来てしまった。


「もう…やる気出ねー」


 戦いはそのうち終わるだろう。ナイン達は強い。俺がいなくたって勝つ。いや、いたらむしろ足手纏いだ。


「灯沢、飯………いないんだった」


 あいつもオロラムっていうファーストスペルを習得してから重要性のある人物になったな。一方で俺のファーストスペルは()()()。人の名前だ。ナインを強くする魔法で、あいつがいなければ何の役にも立たない。

 借りた杖でもロクな戦いが出来ないし、俺って本当に役立たず。

 この戦いの台風の目…になっていたつもりはないけど、自分が戦局をひっくり返す切り札的な存在だと酷い思い違いをしていたのは確かだ。


「…何がファーストスペルだよ!結局俺は弱いままだろうが!」


 実力不足なのは明らかだ。けれど今からどんな努力をすれば周りのやつらに追い付けるのか、俺には思い付かなかった。


 そうして悩み続けていくうちに時間は過ぎていく。ナイン達は今頃、特訓でもしているのだろう。

 俺はどうしよう…ここで戦いが終わるのを待つしかないのか?


 コンコンコン


「…どぉ~ぞ~」


 ガチャンと扉を開けて入ってきたのは、まさかの人物だった。


「おかえり…ってお前!?」


 かつて魔獣人だった雨夕天音である。以前ナインに叱られて謝ろうって決めてから、一度も会ってなかった。

 脚が痛い…!こいつを見る度に脚が痛む!


 だけど怯える必要はないんだ。今のこいつは魔獣の力を持ってない。襲って来たとしても返り討ちにしてやれる。


「今日は謝りたくてここに来たの。魔獣人だった時、傷付けてしまってごめんなさい。いや、ずっと前の事も全部、心に治らない傷を付けてしまって」


 こいつは謝りに来たのか?一体どういう風の吹き回しだ。

 今更ごめんだ?お前のせいで俺の青春は滅茶苦茶になったんだ。ここで1発殴ってやる!


「…あっ」


 って違う!そうじゃないだろ!なんで天音が俺を束縛したのか考えろ!俺の身勝手な振る舞いが原因だって前にナインから注意してもらったし、だったら言うべき言葉は決まってるだろ!


「謝るのは俺の方だ。周りから彼女がいるって羨ましく思われたくて付き合ってしまって…ごめん。だから天音に非はないし、むしろ怒ってくれて良いんだ。ムカつくなら殴ってくれていい。それでも済まないことをしたって自覚してる。一生憎んでくれ」

「憎まないよ。私、この戦いが終わったらバリュフについていくことに決めたの。この世界にもう私の居場所はないけど、アノレカディアなら色んなことがやれるって言われたんだ。迷惑かけた罪滅ぼしにはならないけど、せっかく手に入れたこの命、これからは人を助けるために生きたいんだ」


 忘れる…それがお互いにとって最善だろう。俺だってきっと、天音がアノレカディアに行った後にはすぐに忘れてしまうだろうし、これで憎み合う必要はもうないんだ。


 天音はその会話を終えると学校に戻っていった。こうしてアパートに来れたということは、もう危険性はないと判断されて解放されたのだろう。


「味方になったとしたらあいつのユニークスキルはこれからの戦いで重宝するぞ。これじゃあますます俺の必要性が感じられなくなったきたな」

「いいや!お前は俺の作戦になくてはならない存在だ!」


 ズシャシャシャシャシャ!


 一瞬、何が起こったのか理解が出来なかった。窓の外から誰かの声が聴こえた瞬間、突然身体が切り傷だらけになった。


「………うわああああああ!?」


 分からない!どうしてこのタイミングでこいつが俺の元に現れるんだ!


「サキュバスのパートナー!名前は黒金光太!合ってるよな?お前にはあいつらを一網打尽にする人質になってもらうぞ」

「人質だと…お前、ナインに何かするつもりかあああああ!」


 こいつはナインの通ってた学園の優等生にして魔獣人!名前は確かヨウエイ・フゥード!能力が判明してない厄介なやつだ!


 反撃しようと動きを見せた瞬間、胸に深い傷が開いた。そしてヨウエイの腕から生えるブレードには俺の血が付着していた。

 動きを捉えられなかったが俺は斬られた。下手に動けば、次は本当に殺されてしまう。


「やっぱりな。後方支援タイプは単独だと弱い。いつ襲われるかも分からない環境下で不用意に単独行動をしていたばっかりにお前は俺に利用されるんだ」

「クッ…」


 今度は俺が人質にされるのか…またナインの足を引っ張るのか?


「…ッ!」

「なんだその目は…!?」


 こいつの中にいる魔獣と繋がった!名前は斬撃魔獣ザァン・ザァン。斬る事を得意とした物理攻撃を得意とする魔獣だ。

 そしてそれを宿すヨウエイ・ウォード。こいつが持っているユニークスキルは…


「探らせねえよ!」

「ぐへっ!?」


 そんな…あとちょっとで解るはずだったのに…こいつとの戦いで俺が受けたダメージの正体…


 そこで俺の意識は途切れた。

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