第134話 「これ以上、悲しい思いはしたくないから」
トルネードではない新しい姿のウォルフナイトとなった俺達は、今度こそ魔獣人を倒すつもりで前へ踏み出した。
「って速ぇ!」
なんて脚力だ!走り出したつもりが敵の目の前まで踏み込んでしまった!
「とにかく殴るんだ。この状態で何が出来るのか、攻撃しながら模索するんだ」
「おっ来るか?」
俺のパンチで敵が仰け反った。攻撃力は申し分ないようだ。
「狼太郎!連打だ!」
「分かってる!」
仰け反らせた次に連続打撃を繰り出す。今まではこちらの腕が砕けそうだった頑強な身体にも、今の姿ならこうして何発も殴ることが出来た。
「オラァ!」
全力を込めた最後の一撃で魔獣人を宙へ打ち上げた。しかし打撃だけではあいつを倒す事は出来ない。
「狼太郎。武器を使うんだ」
「武器なんかないだろ」
「言っただろう。ウォルフナイトには武器を生成する力がある。お前があいつを倒したいと願えば、撃破に繋がる武器が手に入るかもしれない」
かもしれないって…けど魔法の杖が通用しない以上、それしかないみたいだな。
頼む出てくれ!超鉄壁と超再生能力!その二つを同時に打ち破れる新しい武器!
「じ、地面から何か生えてくる!これは…棒だな」
「そうだねぇ…まるでナインのワンドみたいだ」
長い棒が生えてきたのでとりあえず手に取った。すると先端から光の縄のような物が発生した。
「この光を自分の意思で操って戦う武器みたいだよ。しかしこれは杖なのか鞭なのか。ナインと生徒会長の両方を意識しないとこんな武器は出来上がらないねぇ」
「…何が言いたい」
「ナインのこと、諦められてないんだろ。だからワンダーウィップなんて物が出来上がったんだ!」
うるせー!変な名前付けんな!
出来上がってしまった物は仕方がない。それに大事なのはこいつで敵を倒せるかどうかだ。
「急ごう狼太郎。この光を放出するのにかなりの体力を消耗している」
「あぁ…魔獣人!お前を倒す!」
「光る剣か…昔おもちゃ売り場で駄々こねられたのを思い出すな。お前は欲しい物を買ってもらえないと、すぐ俺か母さんの脛を蹴ってきたんだぞ。覚えてるか?あれ、全然痛くなくってさ!」
初めて使う武器だが、どうすればあいつを倒せるのかが頭の中に入ってくる。
魔獣人が身体を縮め、全身の硬度を高めた。動けなくなる代わりに俺の攻撃に耐えるつもりだ。
けれど絶対に斬れる!今の俺達の力なら!
「成長して反抗期に入って、その時に蹴られたら痛いのかなって考えたり──」
「ウワアアアアアア!」
敵の目の前まで来た。そして鞭のように柔軟な動きをしていた光が一直線の刃になった。
ビギャアアアアアアア!
光の刃は鉄壁に阻まれても止まることなく、身体を斬り抜けた。
「まあ、その前に死んじゃったんだけどさ」
「アァ!アアアアアアア!」
光を振り上げ、魔獣人の身体を宙に投げる。そして何の抵抗も出来ずに降って来る身体を貫いた。
「短い間に親っぽいことしてやれなかったから、こうして生き返れて良かったって思ってる…マジの親子喧嘩も出来たしな!」
「ウオオオオオ!」
敵を貫いた状態で光が拡大していく。魔獣人の肉体は内側から光によって飲み込まれ、あっという間に消滅した。
そしてもう、再生することはなかった。
「馬鹿な父親だね。そんなことのために生き返ってお前の仲間を傷付けたのかい」
「だな…」
俺は魔獣人を倒した。父さんは既に死んだ人間だ。あの人はいるべき場所に戻っていったんだ。
「本当に…ロクな父親じゃなかった。こんなことする人間なんだ。早く死んでくれて良かった」
「あの人は僕を殺せたはずなんだ…」
ナインの声が聞こえた。どうやら、意識を取り戻したようだ。そばには彼女を十字架に縛り付けていた縄が落ちていた。
「それなのにこんな安い縄で縛って生かした…殺すって意思は本物だったと思うよ。アンに感謝だってしてた。だけど生き返って何よりも望んでいたのは、君との親子喧嘩だったんじゃないかな…命懸けだったけど、それが蘇ったあの人が唯一出来る親らしい振る舞いだったんだと僕は思うよ」
「人を傷付けるやつを…親なんて思いたくない!」
「僕も仲間を傷付けた事は許せない。けど何よりも君を想っていた定正さんを憎むつもりはないよ。狼太郎、君はどう思ってるの…?」
もっとまともな再会がしたかった。戦うんじゃなくて、今まで何があったか話したかった。敵じゃなくて父親として会いに来て欲しかった。
「俺の話…何も聞いてもらってない」
倒したことに後悔はないけど…悲しかった。
「寂しいよ…せっかくまた会えたのに…俺の手で倒さないといけないなんてあんまりだ」
ウォルフナイトから元の姿へと戻る。分離した状態のフェンは先に生徒会要塞へと降りていった。
俺もナインと黒金を治療室に運ばないと。
「よっこらせ!」
「ごめんね、重くない?」
「大丈夫。ほら、お前も…よっしょ!」
二人を肩に担ぐと、俺も要塞に続く階段に向かう。
背にした校庭にはもう誰もいない。俺の父さんとは…二度と会うことはないだろう。
「狼太郎、大丈夫?」
「…ごめん。ちょっとだけ待って…うぅっ!」
ようやく涙が溢れてきた。思わず足が止まった。
父さん、母さん…会いたいよ!また三人で一緒に暮らしたい!
「アン・ドロシエルは父さんやみんなの知り合いを甘い言葉で誘惑して蘇らせた。俺はあいつを絶対に許さない」
「狼太郎…」
「俺達の力で必ず倒そう。これ以上、悲しい思いはしたくないから」
「うん…そのために僕達、もっと強くならないと」
こうしてナインは戻ってきた。魔獣人を1人倒すことにも成功して残る敵は4人とそしてアン・ドロシエル。
必ず倒してやる…アン・ドロシエル!