第132話 「倒す!」
父さんが魔獣人と判明してから数日が経過した。俺はその時が来るまで、ひたすらウォルフナイトに変身して鍛練に励んでいた。
「リガイチでの動きが前より良くなってるよ。私とお前の波長が合うようになったのかもねぇ」
俺が戦うことを決意してからフェン・ラルクの機嫌もいい。前より話しやすくなった気がする。
「これならいつか、私の力を貸し与えて狼太郎バージョンのリガイチになれるかもしれないよ」
俺のリガイチ…つまりウォルフナイトの姿で好きなように動けるってことか。
フェンのリガイチがクローを使った高速攻撃や魔力弾で戦うスピード型なら、俺は攻撃型の形態を手に入れたい。
「賢いねぇ。別形態の得意とする能力が同じだと片方要らなくなるからねぇ」
それに火力があれば父さんの防御を崩せる。高い防御力と再生能力を上回る火力を俺は手に入れたい。
「とりあえず変身してみるか…フンッ!」
早速、最初の頃になっていた獣人のウォルフナイトに変身する。ここからどうすれば俺の望む姿が手に入るのか、色々やってみよう。
過去には暴走という形でフェンが暴れていたこの姿。そして俺がフェンの意思を尊重する形で得たのがウォルフナイト・リガイチ。現在変身可能なスピード重視の姿はトルネードと名付けられた。
そして8時間ほど色々試したが、何の成果も得られなかった。
「ここまで進展なしとは苦だねぇ!」
お前、意外と感情荒ぶるんだな。イライラが俺にまで伝わってくるぞ。
でも確かに、このまま強くなれないのはちょっとヤバいな…今のところ父さんに勝てる気がしないぞ。武器でも用意してもらうか?
「いいや、ウォルフナイト・リガイチで分かるように私達は自分で武器を造れるはずなんだ」
リガイチの姿を思い出した。メカメカしくなって四肢にクローが付いていた。背中には魔法弾の排出口、マナシューターが付いている。
それからリガイチに変身して武器を増やそうとしてみたが、ただクローが通常時より鋭くなるだけだった。ただこれはこれで大切な発見だ。
ベンチに座って休憩していると会長が現れた。
「どうだ?上手くやれそうか」
「分からないけど…父さんには勝ってみせます!」
次に父さんが現れた時には、俺とフェン・ラルクだけで戦わせて欲しいと頼んである。
もう戦えないなんてことはない。みんなを守るために戦うと決めたんだ。
「会長、前に平和な場所で皆と暮らしたいって言ってたじゃないですか。俺はその時が来るまで戦い続けます。これからは俺達の未来のために戦うってここで誓います。だから会長も、一生戦い続けることになるなんて諦めないでください」
「その未来、期待させてもらおう」
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
魔獣の出現を知らせるアラート音が鳴り響いた。
「街に魔獣を4体出現!ただちに…グラウンドには魔獣人が出現!狼太郎君のお父さんです!」
もう来たか…まだ勝てる見込みもないのにな。
「よし…やるぞフェン。俺達であの魔獣人を倒す!」
「…なぁ狼太郎。戦いが終わったら話したいことがある」
なんだよ今話せよ。気になるじゃないか。
「落ち着いてから話したい。だから倒そう。お前の父親…私達の敵を!」
あぁ…もう迷いはない。あいつを俺達で倒す!
出現した4体の魔獣は他の人達が撃破に向かった。予定通り、父さんとは1対1の戦いで決着をつける。
「父さん…ナイン!?」
グラウンドの空中には十字架が浮いている。そしてそこに少女が縄で固定されていた。
怪我はないが目を閉じている。意識はないようだ。以前の戦いから変わらず、義肢は全て壊れたままで右腕も歪んでいた。
「良い目付きになったな、狼太郎…だけど気持ちだけじゃ俺は倒せないよ」
「やるぞフェン!」
「「ウォルフモード!」」
掛け声と同時にフェンの意識が表へ出る。そして肉体が変化していき、ウォルフナイト・トルネードへの変身が完了した。
背部の排出口からマナボールを排出。それと同時に父さんへ接近し、両腕のクローで攻撃した。
「相変わらず硬いねぇ!」
傷は付くが浅い!それにすぐに再生してしまう!これじゃただクローを刃こぼれさせただけだ!
「全然痛くないよ」
重い拳を打たれて、俺達は修理途中の校舎に激突させられた。
フェンの意識が表にある今、ダメージによる苦痛はこいつが感じるはずなのに俺も痛みを感じる!
「どうやら息が合ってきた事で弱点も増えたようだねぇ…だけど怯んでる場合じゃないよ。反撃だ」
攻撃を指示した瞬間、グラウンドに浮いていた無数のマナボールが一斉に突撃する。そして父さんに触れた途端に次々と爆発を起こしていった。
「やり過ぎかな?グラウンドにクレーターが出来るねぇ」
校舎とグラウンドを直してくれたサヤカ達に悪いことをしてしまった。しかしこれぐらいやらなければあいつは倒せない。
爆風で舞い上がる砂埃。あの連続爆発を喰らえばただじゃ済まないはずだ。
「それで終わりか?」
再生能力さえなければ倒せるんだけどな…防御力はあるし回復するし、いくら攻撃してもこっちが体力を消耗するだけ。アンフェアな戦いだ。
「今度はこっちからいくぞ!」
雪だるまのような体型をしているが、動きは俊敏だった。相手は一瞬で距離を詰めて格闘戦を仕掛けてきたのだ。
連続で相手が打撃を繰り出す一方で、俺達は反撃せずに回避に専念した。
「どうして反撃してこない!」
相手は硬質故に防御力だけでなく攻撃力を備えている。下手に反撃して一発もらうぐらいなら、ここは回避に専念した方がいいとフェンは考えた。
「づぁっ!?」
しかしフェンは両腕を掴まれ防御が封じられたところに渾身の蹴りを喰らった。
まずいぞ。このままダメージを受け続けるとウォルフナイトの姿を維持できない!
「残念だな…」
「な、何がだッ!」
「今戦ってるのは狼太郎じゃなくて魔獣なんでしょ。あいつと直接戦わないまま殺すことになるのはちょっと…残念だって。お前も充分強いけど、あいつがどれだけ成長したか知りたかった」
「ヤバい…ッ!」
このままだと腕が潰される!
「ウルァ!」
突然、視界の上から現れたナイン。回転しながら落ちてきた彼女は、そのまま頭突きを喰らわせた。
「あれ?どうして解放されてるんだ?」
「あんな縄なんか僕が本気を出せば簡単に引き裂けるぞ!」
一瞬のチャンスを逃さない。相手がナインの奇襲を受けて怯んだ瞬間、フェンは素早く腕を振り上げた。
「斬る!」
四肢を切り落とし最後に首を跳ねた!俺達の勝利だ!
父さん…いや、これで良かったんだこれで…
「やっぱり油断したな」
跳ねた首から新しい身体が生えてきた!?
考えてみれば、あんなに硬った身体が簡単に斬れるわけがない!騙された!
「うぉあ!?」
ハンマーのような重い一撃を頭に喰らって地面に叩きつけられる。そしてとうとう、ウォルフナイトから元の姿に戻ってしまった。
「いってぇ…!」
「手加減してやってこれか…狼太郎、本当にこれで終わっていいのか?お前に期待してたんだぞ。ズルい能力を貰った俺を、お前なら倒してくれるって」
父さんは倒れたナインの方へ近付くと足を上げる。
このままだと彼女の頭が踏み潰されてしまう!
「生き返っただけ時間の無駄だったな…アンに頼んだら殺して貰えるかな」
「ぐっ…万全の状態ならもう少し戦えるのに…!」
「まずは君からだ。悪いな」
ズダンッ!
「………なんだこれ?」
「このバリアは…ミラクル・ワンドの…」
突如発生した障壁が父さんの足を止めていた。しかしナインは魔法の杖を使っていない。
一体誰の魔法だ…?
「迷いなく殺そうとするなんて、元々が人間とは思えないな…半人前な化け物の親は一人前の化け物ってわけか」
どこに隠れていたのか、グラウンドに光太が現れた。
あいつ…父さんとは俺とフェンだけで戦うって言っておいただろ!
「化け物か…今の姿じゃそう言われても仕方ないか」
「光太…超人モードだっ…」
「あぁ!行くぞ!」
「待てよ黒金!ナインはこんなボロボロなんだぞ!」
「…誰のせいでそうなったんだっけな。力があるだけで何の役にも立たないんだな、おま──」
「光太ッ!危ない!」
身体が浮き上がる程のパンチを喰らった黒金は、白目を剥いて意識を失った。
「子供同士の喧嘩には首突っ込まない方が良いんだろうけど、我が子をそんな風に言われたら許せないかな」
何なんだよ…
「何で生き返ったこの野郎!確かにあんたと母さんには何度も会いたいって思った!けどこんなことになるなら会えないままで良かったよ!死んだままでいてくれよ!」
「狼太郎…俺はお前に会いたくて──」
「俺は会いたくなかった!自分の父親がこんなことする人間だなんて知ってたら会わなかった!」
そのまま俺に注目してろ…黒金が目を覚ますまで時間を稼ぐんだ。そしてあいつがナインを連れて逃げる。そうすれば実質俺達の勝ちだ!
「何とか言ってみろよ!おいっ!」
「ショックだな…」
まずい!父さんがナインの方を向いた。クソッ!俺の言葉なんて聞いちゃいないんだ!
「まずは君を…ん?」
ナインは親指以外が異常な方向を向いている右手で杖を握っていた。
「狼太郎…フェン・ラルク…君達で倒すんだ!こいつに勝ってくれ!」
ナインが振った杖から俺に向かって光線が照射された。
グググググ…
変な感じだ。まるで身体の中から何かが出てくるような…何の魔法なんだ!?
「何をしたかったのか分からないけど無駄だったみたいだね。じゃあ今度こそその頭を潰すよ!」
バギャオン!!
「ガァガウ!」
突如現れた謎の獣が、魔獣人に突進攻撃を仕掛けてナインから遠ざけた。
ナインを助けた獣は銀色の毛が美しく、狼のような姿をしていた。
「まだ立てるだろう?さあ立て」
「その声…お前、フェン・ラルクなのか!?」
この銀色の狼がフェン・ラルクの魔獣としての姿なのか!?じゃあ、さっきのナインが振った杖は…
「分離成功…流石僕の…うっ」
俺とフェン・ラルクは魔法で分離させられた。俺の中からこいつは飛び出してきたんだ。
「…小さい」
「え?」
「本当の私はもっと大きかった気がする。まだ完全に力が戻っていないのか」
「そんなこと今はどうでもいいだろ!」
俺の中にいる魔獣が狼に似た姿なのは何となく分かってたけど、こんなカッコいいやつだったのか…
「だな…狼太郎、私達であいつを倒すよ」
「あぁ!」
素手で戦うのは心許ないので、ナインが巻いていたウエストバッグを拝借した。
「傷だらけになっても立ち上がるか…流石は俺の子だ」
もう父親とは思わない。誰かを傷付けた瞬間、再会した時点で敵だと思えていたら良かった。
倒すべき相手を前にして、俺達は構えを取った。