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第13話 「どうしてそんなこと言えるんだ!」

 影から追われていた俺は無意識の内に光のある繁華街に逃げ込んでいた。

 振り返ると影の姿はない。光のある場所には来られないのか…?


 財布には一晩やり過ごせる程の金が入っている。ネットカフェに隠れて、今夜はやり過ごすとしよう。


「ふぅ…何だったんだあいつは」


 個室に入り電気を点けたところでやっと落ち着けた。未成年の俺に店員は何も言わなかった。通報されてないよな?

 それよりもこれからのことだ。ナインに助けてもらう。それ以外に何も思い付かない。


 彼女は助けてくれるだろうか。酷いことを言ってしまったのに、助けてもらおうと縋って来る自分勝手な俺を。


「…えっ!?」


 突然、部屋が真っ暗になった!こんなタイミングで停電か!


 建物の外に…ドアノブはどこだ?スマホで照らして…画面が点かない!?

 なにかがおかしい!こんなに壁をまさぐってるのに、ドアノブどころか淵の感触もしないぞ!


「ぐっ!」


 首を捕まれた!…あいつ、すぐそばまで来ていたのか!


 苦しい…!助けて…ナイン…




「光太!しっかりして!ねえ!」


 声がする…ナインが俺を呼んでいる…


「…顔が近ぇ!」

「うわぁ!急に目覚めたぁ!」


 襲われてからそのまま意識を失ったのだろう。気が付いた時には場所は移り、魔法の力で空を飛んでいた。


「あいつはどうなった!影の形をしたバケモノ!」

「…足元を見れば分かるよ」


 夜空には星々が煌めいている。だが地上は驚くほど真っ暗だった。暗すぎて何も見えない。


 そもそも、足元に地上は存在するのか?俺たちはどのくらい離れた場所を飛んでいるんだ?


「どうなってるんだ…」

「君を襲おうとしたやつの仕業だ。魔獣が地上の光を奪ったんだ!」

「魔獣…?魔物と違うのかよ?」

「魔物でも魔族でもない、発生源不明の謎に包まれた存在。アノレカディアを脅かしている最悪な存在だ!」

「そんなやつがどうして俺たちの世界に──」

「来るよ!」


 星の灯りで微かに見える。地上の闇から何かが飛び出した。きっとあいつに違いない。


「僕に倒せるのか…?」


 不安になるような事を呟きながらも、ナインは新しい魔法の杖を準備した。


「光太には移動を任せる。ひたらすあいつから逃げるんだ。僕は攻撃する!」


 そう頼まれる前から、杖を受け取っていた俺は魔獣とは反対の方向に進んでいた。


 ナインの杖から光弾が発射される。お互いにかなりの速度で移動しているにも関わらず、弾を魔獣に命中させていた。


「倒した!のか?」

「そんなわけないじゃん!今度は向こうの攻撃が来るよ!」


 今度は魔獣が何かを飛ばしてきた。だけど闇夜に溶け込んで攻撃が見えない!


「前を向いて!そのまま真っ直ぐ前進!動いてれば当たらないから!」


 こんな真っ暗でもナインには見えているらしい。サキュバスは視力が良いのか?


「回避に集中!左に動いて!」


 そうして進行方向を少し変えると、身体のすぐそばを何かが通り過ぎていったのを感じた。もしも指示がなかったら…


「速度が落ちてるよ!」

「ごめん!」


 飛ぼうとしているのに今の状態を保てない!身体が地面に引っ張られる!


「高度を維持できない!!どうしてだ!」

「君の魔力が切れたんだ!杖貸して!」


 ここまで来て足手纏いかよ…!


 ナインは俺を脚で挟んだ状態のまま、魔獣との攻防を繰り広げた。

 次第に魔獣の攻撃は激しくなる一方で、こちらの反撃は少なくなり、回避に集中するので精一杯になった。


「ナイン、俺を離せ!」

「集中してるから話し掛けるな!」

「俺を捨てて戦いに集中しろ!このままじゃどっちもやられるぞ!」

「心配しなくても僕の魔法で君を守る!」

「なんで…どうしてそんなこと言えるんだ!あんな酷いこと言った俺に、なんで優しく出来る!」

「そりゃあ友達だからだよ!」


 魔獣の攻撃がナインの身体に命中した。防御することも出来ず直撃を受けてしまったのだ。そして、再び高度が下がり始めた。


「くぅ…!痛い…」

「大丈夫か!?」


 杖を取り上げて再び飛行のコントロールを得た。しかし俺の魔力が残り僅かな今、いつ墜落するかも分からない状態で空中にいるわけにはいかない。

 俺はゆっくりと地上へ近付いた。


「ダメだ…きっと闇の中はあいつのテリトリーだ。空で戦わないと…」

「そんな傷で飛び続けられるかよ!迎え撃つぞ!」


 口では強気だが、ナインの言葉を聞いてゾッとしている。俺は魔獣にやられるその瞬間を、僅かに先延ばしているに過ぎないんだ。


 逃げ続ける俺たちは、魔獣が有利だという地上の闇に向かって降りていった。

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