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第127話 「もうやめてくれ」

 俺の両親は研究家だった。

 まだ俺が幼い頃、月の内部で発見されたという謎の装置の研究のために、家族で月に滞在したことがあった。その時の事故で両親は亡くなった。

 月の内部では装置の研究と同時に、装置発見のキッカケとなった都市開発工事が行われていた。だがある時、工事用の機械が暴走を起こした。

 事故発生時、唯一の生存者だった俺は謎の装置から解放したフェン・ラルクの力で脱出したのだ。


 そう、父さんは母さんと一緒に、爆発の炎に焼かれて死んだはずだった。

 しかしたった今、転点高校の地下にある生徒会要塞にて、不幸な再会を果たしてしまった。


「大きくなったな、狼太郎」

「父さん…」


 父さんは今は、俺の目の前に立っている。アン・ドロシエルによって新しい身体に転生させられて、生前と同じ外見で、俺の名前を声に出していた。

 忘れかけていた懐かしい声だった。


「皆!生きてるよね!?」


 生徒会長を含めた皆がボロボロになって倒れている。ナイン達は各々武器を構えて父さんを囲んでいた。


「父さん…どうしてこんな人を傷付けるようなことをしたんだ!」

「アン・ドロシエルと約束しちゃったからな…あいつは悪人だが恩人でもある。約束は破れない。俺はお前の敵だ」


 残酷な光景だった。父さんは目の前で化け物に姿を変えた。この人は今、俺達の敵である魔獣人なんだ。


「やるよ狼太郎。身体を貸しておくれ」


 待ってくれフェン。まだ話し合ってないだろ。


「一見物腰が柔らかいようだが向こうは殺る気だ。本気でやらないと私達がやられるよ」


 だからまだ話し合ってないだろ!


「話し合いの通じる相手だと思っているのかい?」

「いいから黙ってろ!」

「隙あり」


 俺の中に宿る魔獣フェン・ラルクと言い争っていると、父さんの重たい一撃が腹に入った。


「グフぉっ!?」

「他の子達とは違ってお前は本気で殺すつもりでやるからな」

「それでも親かよ!」


 ナインが杖を振った。父さんはすぐに腕を引っ込めると、今度は彼女に攻撃をした。


「親だから、自分の子には本気で向き合ってやりたいんだ」

「本気で殺そうとすることのどこが向き合ってるって言うんだ!」

「俺は長い間死んでいたんだ。だからこれ以外に今の狼太郎と向き合う術が分からないんだよ」


 せっかく生き返った父さんと…俺は戦えない!


「安心しな!うっかり息子さんを殺しちまう前に、あたし達があの世に送り返してやる!」


 スーツが大剣へ変化する。それをノートは軽々と扱って、父さんに斬りかかった。


「それだけ怪我してるのにまだ戦うつもりかい?」

「これがあたしの仕事だからな!」

「仕事か…狼太郎は俺達の研究より開発工事の方をよく見てたな。重機が好きだったのかなぁ」


 父さんの連続パンチをノートは剣の側面で受け止める。そして攻撃が止むとすぐに剣を掘り返し、父さんの身体に傷を付けた。


「1つ教えてくれ。狼太郎の中にいる魔獣はお前達が研究してた謎の装置から現れたそうなんだ」

「そうか、あのジェネレーターからか…」

「研究して何か分かったことがあるなら教えて欲しい…敵に問うのも変だけど」

「俺は事故で死んだ後、未練あって魂だけあそこに残ってそのまま研究を続けてたんだ。まあ、分かった事はほとんどないんだけど…生きた人間の肉眼では視れない物を視たよ。あの装置からは混沌が発生してた。世界は混沌で満ちていたんだ。戦争とか災害とかよりも恐ろしい、言葉で表現するには…あぁ、なんて言ったらいいか」

「なるほどっな!」


 振りかぶっていた大剣が銃へ変形する。相手より身軽に動いたノートは、父さんの胴体を蹴ってよろけさせて、後ろに下がりながら容赦なく銃を発砲した。


「ガソリン・ワンド!」

「ジゾルゴ・フレイア!」


 さらにナインが魔法の杖でガソリンを浴びせ、そこへバリュフが炎を放った。

 父さんの身体は一瞬で炎上していた。


「雪だるまみたいな見た目してるんだ!炎で溶かしちゃえ!」

「別に雪属性というわけでもなさそうだが…しかし、あの再生能力には勢いのある炎が有効かもしれない」


 燃えている…きっとあの時もこんな風に…


「熱い…あの時は熱くて苦しくて最悪だったな」


 ブルブルと身体を震わせると炎が消えた。火傷は治ったのかそもそも負わなかったのか、父さんは無傷だった。


「炎消されたよ!次はどうする?」

「大火力で塵1つ残さず消すっていうのが定石だが…どうしましょうか」

「うんじゃあバリュフのそれで行こう!」

「ま、待った!あんまり強い技だと要塞が崩れるぞ!」


 威力は想像つかないがそんな大技撃たせるわけにはいかない!


 咄嗟に三人の前に立って彼女達を制止するが、その横を父さんが駆けて行った。


「トォッ!ヤァッ!デリェエエエ!」


 ナインは床へ叩きつけられ、他2人も半身が壁に埋まる程の勢いで殴られた。


「確か優先すべきは髪の白い少女の抹殺…」

「やめろおおおおお!」


 遅れて現れた黒金が突進する。だが一撃を喰らってノート達と同じ状態にされた。


「父さん待ってよ!人を殺すつもりかよ!」

「約束だからな…」


 ググッと拳を握りしめ、頭より高くへ上げる。あのパンチで頭を潰すつもりだ。


「いい加減にしろ狼太郎!お前の父親は敵だ!これ以上迷うなら…!」


 その瞬間、フェン・ラルクに身体の主導権を奪われた。

 身体が変化していく。以前の獣人のようなウォルフナイトに変身して、フェン・ラルクは父さんを襲った。


「ガウッ!」


 魔獣人の身体は砕けず、逆に牙と爪が折れてしまう。この姿では勝てない。せめてリガイチでなければ敵う相手ではない。


 おいフェン!どうしてこの姿なんだ!


「お前に戦う気がないからだねえ!うっ!」


 硬質な腕は攻撃を凌ぐ盾だけでなく、敵を打ち捨てる武器にもなる。アッパーを喰らった身体が、天井にぶつかって床に落ちていった。


「残念だ。思ったより成長してなかったみたいだな」

「お前の息子さん…やる気が出てなくてね。ここは一つ見逃してもらえないだろうか?」

「それは出来ない。しかしありがとう。君がここまで守ってくれたから、狼太郎と戦えた…礼にはならないが、一撃で楽にしてやる」


 ヤバい、本気で俺を殺すつもりだ…せっかく生き返ったのに!せっかく会えたのにこんなの嫌だ!


「行くなら俺は地獄だろうからな。天国の母さんによろしくな」


 父さんの拳は俺を狙って振り下ろされた。




 父さんの硬い拳が振り下ろされたはずだった。しかし俺は生きていた。

 顔を上げると、倒れていたはずのナインが立ち上がって、父さんの一撃を顔で受け止めていたのだ。


「うっ…いってぇぇぇ~…」

「凄いな、頭から叩きつけたはずなのに立ち上がれるのか」

「いつもそうだ…なんでそんな気軽に…自分の息子に手を出せる!?」

「まず、俺の目的は君を殺すことだ。転生させてやるから殺せってアン・ドロシエルと約束したんだ」

「じゃあ狼太郎は別にいいだろ!他の皆みたいに手加減してやれよ!」

「久しぶりに会った息子だぞ?手加減なんてしちゃいけないだろ」

「ちょっと狼太郎!君のお父さんの考えてることよく分かんないんだけど!?サイコパスなの!?」


 俺もだ…俺にこだわる理由がよく分からないよ父さん。どうして最低な約束までして生き返ったんだ!


「こんなことになるんだったら死んでたままの方が良かったよ!」


 ナインは防いだ拳を上へ弾くと、がら空きになった胴体を杖で突いた。


「パイルバンカー・ワンド!砕けろ!」


 ボゴオォォォッ!


 球状の身体に大きく穴が開いた。しかし並の再生力ではないので、すぐに元通りに戻ってしまった。


「今ので魔力が…くっ」


 ナインが倒れた。強力な杖を使った反動か、義肢は全て壊れて右腕が酷い状態になっていた。


「…これでも戦う気にならないかい?」


 フェン・ラルクが胸の中から問いかける。気付けば元の姿に戻っていた。

 俺は…どうしても戦う気にはなれなかった。目の前で皆がやられてるっていうのに…


「父さん…もうやめてくれ」

「敵に乞うな!いい加減に覚悟を決めろ!リガイチでなければまともに戦えないぞ!」

「どうしても本気になれないなら…出直す」


 そう言うと父さんはナインを抱えて歩き出した。


「ナインをどうするつもりだ!」

「この少女は預からせてもらう。お前が俺に勝てなければ彼女の命はない」


 追いかけないといけないのに…ナインを助けないといけないのに…

 俺は姿が見えなくなっても、強敵を追う気にはなれなかった。




 魔獣人の襲撃で負傷者は出たものの、誰一人死ぬことはなかった。しかし、ナインは父さんに連れ去られてしまった。


「ふざけるなよ!これでナインが死んだらお前を殺してやる!戦う気がないなら今ここで殺してやる!おい!こっち向け!この役立たず!もう一度殴らせろ!」

「落ち着け光太!ナインならきっと大丈夫だから!」

「放せ!お"い"!」


 黒金には1発殴られたが、それからノート達が押さえてどこかへ引き摺り去って行った。


「狼太郎…大丈夫か?」

「会長こそそんな怪我して…地上の敵に気を取られていました。すぐ助けに来れなくてごめんなさい」

「私はいい。それよりも、お義父様はナインを連れ去ったのだろう?」

「だから勝たないといけないけど…俺、父さんとは戦えません!せっかく生き返ったのに殺し合いなんてしたくない!」

「だがそれではナインは…」

「会長なら分かりますよね?せっかく大切な人が蘇ったのに、戦いたくないって気持ち」

「うん…けど、狼太郎が戦わないとナインはどうなる?」


 分かってる…分かってるけど…


「少し独りにしてください」

「待て、狼太郎」

「独りにしてって言ってるだろ!………あっ」


 つい怒鳴ってしまった。みっともない八つ当たりだった。


「…失礼します」


 顔を見ないようにサッと振り返る。一瞬だけ伺った表情はとても悲しそうだった。


 ごめんなさい会長…あなたは覚悟を持って友人を倒したのに、俺は中途半端だから…

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