第122話 「様子が変なんだ!」
生徒会要塞の会議室。僕はそこで、生徒会長の作戦を教えてもらった。
魔獣人とはいえ友人を絶対に殺すという明確な殺意を感じた。
「既に遥は死んだ。今の彼女はくだらない悔いを利用されて操られているだけだ」
「くだらない悔いって…その人にとっては大切なことなんだよ!?」
「悔いのためなら誰かを傷付けても良いのか?」
「それは良くないけど…話し合いとかで──」
「私達は二度戦ったが、話し合いで解決できる相手だと思ったか?与えられた力で平気で人を殺そうとするんだぞ」
初めて遭遇した時はかなり動揺していたはずなのになんて切り替えだ。正直恐ろしいよ。
「作戦実行は次の遭遇時だ。遥と遭遇したら連絡してくれ」
会議室を出ると、狼太郎が通路の壁に寄っ掛かって僕を待っていた。
「ナイン。飯、一緒にどうだ?」
「ちょうどお腹空いてたところだよ」
どうせ光太はアパートに帰っちゃっただろうし、僕もご飯を食べて帰るとしよう。
相変わらず、要塞の食堂には女子しかいない。僕と狼太郎が一緒に食事をしていても何か文句を言ってきたりはしない。彼女達の中では狼太郎はみんなで共有する男子だと決まっているのだ。
「今日のお昼は質素だね」
「食糧の在庫が少なくなってきてるんだ」
フレンチトーストとサラダだ。魔法の杖でもう何品か増やそうかと考えたけど、みんなこれで我慢しているみたいなのでやめておいた。
「それで足りるか?俺のトーストやるよ」
「いいの?ありがと~!」
次の戦いがいつになるか分からない。貰える物はしっかり貰っておかないと!
「ナイン、魔法で飯出せるだろ?ここにいてくれないか?そしたら皆も助かるからさ」
「でもな~…そうだ、僕の杖を何本か貸すよ。今の君達なら使えると思うよ」
「そうか…ここにはいてくれないんだな」
「光太の面倒見ないといけないから」
まあ彼は今ユッキーと暮らしてるんだけどね。
「…光太が好きなんだな。どんなところが良いんだ?」
「えっとね…」
思い返すとパッと教えられる長所がない。短所ならいくつも挙げられるのに。
「…ないね」
「ないのかよ…」
狼太郎も呆れていた。思えばあんな酷い人とよくここまでやってこれたものだ。
「それに比べて狼太郎は優しいなぁ~!ご飯分けてくれるし殴ってこないし!」
「殴られてるのか!?」
狼太郎はなんだかお兄ちゃん達に似ている。優しいし強いし。光太とは全然違うや。
昼食を終えて、僕はアパートに戻ることにした。狼太郎は校門前まで見送りに来てくれた。
「わざわざ見送りなんてしなくて良いのに。それじゃあね」
軽く手を振って、僕は校門を通った。
「ナイン!…あのさ…」
「ん?どうしたの?」
「なんで…どうしてそこまで、黒金にこだわるんだ?」
「う~ん、なんか心配になってくるんだよね。どっかで道踏み外しそうな性格してるし、いざって時に助けてあげられるようにしたいんだ」
「…そうか」
少し歩いたところで雨が降り出した。僕はバッグからアンブレラ・ワンドを取り出して、雨凌いだ。
「空がなくなっても雨は降るんだ…まあ雲があるし条件は整ってるもんな」
頭上の風景を眺めていたその時、背後から誰かに捕まれた。しかも尋常じゃないパワーで、振り払うことが出来なかった。
「だっ誰だ!?」
この距離まで少しも魔力を感じられなかった…早く離れないと!
「セッ!リャアアアアア!」
一度足を浮かしてから前方へ力を集中させる。姿勢が傾いたその瞬間、僕は背後にいた人物を投げ飛ばした。
「って狼太郎!?」
僕は狼太郎を投げていた。息を荒くしていた彼は着地と同時に僕へ飛び掛かり、そのまま地面に押し倒された。
身体にバッグが挟まれて、これじゃあ杖が取り出せない!
「や、やめてよ!」
ウォルフナイトでもないのにこの力…変身せずに魔獣の力を引き出しているのか!?
「お願いやめて!」
膝を利用して両脚の義肢が壊された。僕の動きを封じるための恐ろしい動きだった。
「しっかりしてよ!どうしたの!?」
それにしても明らかに様子が変だ。まるで理性がなくなってるみたい。今の彼からはフェン・ラルクすら感じられない。
まさか七天星士の遥に操られているのか!?だとしたらあいつはどこに!?
「いい加減にしろ!」
振り上げた左腕は避けられた。ただ言われた事をやるだけの洗脳じゃない。指示された事を忠実にこなそうとする上位の魔法レベルだ。
「しっかりしてよ!狼太郎!」
「狼太郎おおおおおおおお!」
ボゴン!
怒号と共に視界の外から突然現れたつるはしで、狼太郎は顔を殴られて跳ねていった。
「ハァッハァッ!ナイン!大丈夫か!?逆脚が壊れてるじゃないか!」
「怖かった…狼太郎の様子が変なんだ」
「違うな…あれがあいつの本性なんだ!狙った女はどんなやり方を使ってでも自分の物にする!そうして周りの人間を増やしてきたに違いない!」
助けてくれたのはありがたかったが、このタイミングで駆け付けたのが彼なのがマズかった。
彼は何か勘違いをしている。尋常じゃない程の怒りを露にしていた。
「おい狼太郎。正気でナインを襲ったのか?それとも何か事情があるのか?まあどっちでもいい。これで心置きなくお前を叩きのめすことが出来る」
「無理だよ光太!今の彼、人間の姿してるけど凄くパワーがあるんだ!」
「けど俺にはお前の杖がある。だったら何とかなるさ」
僕の腰からウエストバッグを外して、光太は自身に巻いた。
「ナインは優しいからな。自身の不幸な生い立ちを話せば他の女みたいにそばにいてくれるって考えてたんだろ?」
そして杖を2本取り出して両手に持った。幸か不孝か、どちらも攻撃力のある魔法の杖だった。
「調子に乗るなよ。俺はお前の過去にこれっぽっちも同情しない。それよりもお前は彼女を襲った」
「ここは戦わないで一度逃げよう!光太!」
この二人を戦わせてはいけない。しかし止めようにも、義脚を破壊された僕は立ち上がることすら出来ない。
「ナインがいなければ俺は独りだ。頭の悪い女たち囲まれる前のお前みたいにな…そんな俺からナインを奪おうとするお前は生かしてはおけない!」
光太は殺すという意思を告げ、狼太郎へ戦いを挑んだ。