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第119話 「…シメるか」

 生徒会要塞にて天音の記憶が解析され始めてから1日が経過。24時間かけて、およそ48日分の記憶が覗けるはずだった。


「記憶がない…?」

「そう。44日より前の記憶がないの」


 生徒会長はそう言って尋問室に拘束されている天音を見ていた。


「ナイン、君はどう思う?」

「え…記憶喪失とかしてるんじゃないのかな」

「それでは黒金君の事を覚えている事実と矛盾が生じる…これから一番最初の記憶を再生する。驚かないでくれよ」


 それもそうか…


 天音の記憶データはパソコンにコピーされている。会長はマウスを動かして動画ファイルを開いて再生した。


「おはよう。気分はどうかしら?」


 瞼が上がってからまず、アン・ドロシエルの姿が映った。

 やっぱりこいつが原因か…


「え…どうなってるの?どうして私ッ生きてるの?」

「私が転生させてあげたの。そっくりな身体を作るの、大変だったのよ」

「あなた…誰!?なんなのよ!」

「私は魔法使いアン・ドロシエル」


 転生…だって!?


 会長はそこで動画をストップしてくれた。

 僕は今、とても混乱している。


「これはどういうことなんだ?」

「転生って言うのはね…異世界転生って知ってる?」

「転生の意味を尋ねているんじゃない…私達がこれまで戦ってきた相手は全員…」


 多分、僕と会長が考えている事は一緒だ。

 サヤカの姉であるショウコと生徒会長の友達だった遥。両者とも故人だ。

 ニックルについては経歴が不明なため何とも言えない。しかしヨウエイはアンとの接触時に一度殺されたと考えるのが妥当だ。


「七天星士はアン・ドロシエルの用意した転生者達だったんだ…」


 44日前に天音は新しい身体で蘇った。機械だと魂ではなく脳のデータしか覗けないから、それ以前の記憶を読み取れなかったんだ。

 こうなると、正体不明の残り二人もきっと転生者に違いない。


「一体なにが狙いでこんなことを…」

「悔いよ」


 尋問室にいる天音が急に喋った。会長は電気を流すスイッチに手を触れつつも、彼女の話に耳を傾けた。

 そして僕が会話するようにと、指でジェスチャーしてきた。


「アンさんは後悔を抱えて漂う魂に身体を用意してくれたの」

「君が望んで生き返ったのかい?」

「そうよ。私は光太に…振り向いて欲しかった。けれど彼は、私が身投げしたことを知ることすらなかった」

「そんなになるまで好きなのに…どうして彼が嫌がるようなことをしたんだ」

「私にはアレしかなかったの…強引にでもしないと、光太はどこかへ行っちゃうかもしれなかったの!」


 事情を聴いている内に、やっぱり彼女は悪い人ではないと改めて分かってきた。アン・ドロシエルに異質な好意を利用されてしまったんだ。


「協力するなら、魔獣の力は光太を捕まえたりするのに使って良いって…」

「君は本当に光太が好きなんだね」

「悪いことをしたのは分かってる…だけどね、軽い同情で付き合われて、私も悲しかったんだよ…」


 既に敵ではないことは杖を使わなくても分かった。だから生徒会長に頼んで、天音を尋問室の硬い椅子から保健室の柔らかいベッドへと移してもらった。


「…シメるか」


 最近、光太の嫌な部分ばかり見ている気がする。しかし嫌だからって距離を置くわけにはいかない。友達として、彼を正す義務が僕にはある。




 ドガアン!


 アパートの扉を蹴破り部屋に上がる。そこには布団で横になって怠けている光太と、せっせと部屋の掃除をするユッキーの姿があった。


「ナ、ナイン!?どうしたんだ?」

「おい屑男(クズオ)。これからお前の心という歯を矯正してやる。表に出ろ」

「いや、眠いんだけど…」


 問答無用。僕は光太を部屋から引きずり出して、バルーン・ワンドの能力で風船を装着させた。風船で浮かび上がった彼はそのまま、10メートルくらいの高さまで浮かび上がった。


「何すんだよ!降ろせ!」

「君さぁ、恋愛ってどういうことか分かる?」

「え…俺とお前みたいな関係…的な?」

「うん。僕と君まだ付き合ってないからね。この勘違い野郎!屑男ポイント10点追加!」

「なんだよそのポイント!?」


 やべーな。ちゃんと恋愛について理解させないと将来、光太と付き合うことになる恋人が不幸になるかもしれない。

 ここは友達である僕がちゃんと矯正してあげないと!


「それじゃあまず…中学の頃、天音とどうして付き合ったの?」

「え…あいつ見てると心配になってさ。一緒にいてやった方が良いかなって…気紛れで…」

「本当にそれだけ?」

「…彼女持ちっていうステータスが──」

「はい屑男ポイント44点!」


 こいつどうしようもない屑だな。今までこんなやつと一緒に戦ってきたのかよ。


「天音のこと、どう思う?」

「嫌いだ」

「光太は、天音に自分の事を好きだって誤解させた。それについてどう思う?」

「それについては俺悪くなくない?」

「屑男ポイント100!」

「待ってくれよナイン!?」

「それでは次の質問!今、君に求められているものは一体なに?」

「………謝罪」

「ピンポンピンポンピンポーン!自分の事を棚に上げて文句言ってんじゃねえぞ!」

「俺だって散々な目にあったんだぞ!」

「全部テメェが招いた結果だろうが!…当時の天音には光太しかいなかったんだよ!それに君は応えなかった!散々思わせ振りなことして、付き合ったけど実は好きじゃなかったって!裏切られた天音がどれだけ傷付いたのか分からないだろ!」

「…反省する」

「反省するじゃ遅いんだよ!彼女は君に振り向いて欲しくて命を捨ててしまったんだぞ!」

「どういうことだよそれ!?」

「けれどアン・ドロシエルによって天音は蘇ったんだ。死んでしまった人間に謝罪できる機会なんて普通ないよ。彼女を誑かしてしまったこと、謝りに行こう」

「…あぁ、分かった」


 目が潤んでいる。少し強く言い過ぎてしまったかな?いや、ここで強く言っておかないと光太のためにならないからな。これで良いんだ。


 僕が杖を振って魔法を操ると、風船は僅かに萎んで光太をゆっくりと地面に降ろした。


「それじゃあ行こうか。ユッキー、光太借りてくよ」

「あっ!?」

「そんなに驚かないでよーすぐ返すからさ」

「ち、違うの…あそこ…あそこ!」


 何を見つけたんだろう。ユッキーの視線の先を僕達も見ると、その先に少年が立っていた。

 しかもただの少年じゃない。全身から禍々しい魔力が溢れている。

 これは魔獣の魔力!あいつはアン・ドロシエルの仲間だ!


「光太、これ」

「あぁ…」


 魔法の杖が入ったウエストバッグを光太へ渡す。彼は少年を睨み付けたまま、素早く腰に巻いた。


「君も転生者なの?」

「だったらなんだ?」

「君は今、アン・ドロシエルに利用されようとしている。その力は使っちゃダメだ」

「俺はこの力で復讐する。死にたくなければ邪魔するな」


 復讐か。どれほどの怨みを抱えているのか分からないけど、説得で止まりそうな相手じゃないな。


「やるよ光太!能力が分からないから注意して!」

「先手で潰す!アクア!サンダー!ソイル!ファイア!」


 ドガアアアアン!


 光太は器用に持ち上げた4本の杖から魔法攻撃を放った。彼はまだバッグの中から好きな杖を選べないはずだけど、なんて引きが良いんだ。

 濁流、雷、土砂、火炎が同時に少年を襲った。普通の人間なら間違いなく死ぬ。


「効いてないか…」


 爆炎の中にいる少年の魔力が強まる。そして歩いて出てきたのは、今まで見たことのない魔獣人だった。


「あぁ、効かねえな」


 こいつの魔獣の能力とユニークスキルは何だろう?まずはそれを探ることから始めよう。

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