第116話 「早くこいつを倒さないと…」
「ナイン、天音を倒せ」
光太のメッセージと共に彼から力が送られてくる。
これなら炎の拘束を振りほどいて戦えるけど…
この力をくれた光太は無事なのか?ミラクル・ワンドを握って倒れているけど…
「ちょっと!あなたがここで倒れたらこの女が焼け死ぬところ見せられないじゃない!」
「早くこいつを倒さないと…!」
地下の要塞には充分な医療設備がある。そこに皆を連れて行く。
そのためにも絶対に彼女を倒す!
「ハァァ…タァ!」
炎のパワーを上げると義肢が全て溶けてしまった。
どうせ天音に壊されるかもしれなかった。構うもんか。
「あらあら、それで戦えるの?」
ボワッ!
僕は行動で答えた。高速で接近し天音の首を右手で鷲掴み。このまま…!
「吸収対決ってわけ?」
天音の炎を吸うんじゃない。それだと決着に時間が掛かりすぎる。
「烈火!本能自ノ炎!」
今の僕には光太から貰った力がある!それも合わせて燃えてやる!
「ふふふ…だと思った」
僕が最大出力で身体を燃やすと、それに対抗して天音も炎を放出した。これでは僕の炎を吸ってもパンクしないだろう。
元からくれてやるつもりはなかったけど。
「デラッ!」
「キャア!」
天音はパンクを防ごうと炎を放出した。しかし僕から吸う炎よりも吐き出す炎の量が多く、パワー不足に陥った。
そして彼女を下方向へ投げつけ、再び地面に叩きつけた。
「うぅ…騙された…性悪女め!」
「今だッ!」
拳を掲げて、身体で周囲の熱を吸収する。僕と相手が放出した炎を再度集めることで、身体が力を取り戻した。
「エネルギーはこっちの方が圧倒的に上だ!覚悟しろ!」
「片腕だけのあんたに負けるわけないでしょ!」
炎を失った今のあいつには一撃で充分だ。蓄えている炎を推力にして、放つのはこの右腕を使った打撃。回復されないように、腕から炎のパワーを減少させた。
右腕を失うかもしれない。それでもやるんだ。
「なるほどね…」
思惑に気付いた天音が炎を拳に集中させる。あっちは炎のパンチで僕の右拳を焼き尽くすつもりらしい。
「丸焼きにして光太の前で食べてあげる」
「ハァァァ…」
この一撃で終わらせる!
「烈火!火炎噴推!」
僕は天音を殴っていた。あまりの速さに、彼女を殴るまでの情報を何一つ捉えられなかった。
ボアァ!
音が遅れてやって来た。強く殴りすぎて天音の半身が地面に埋まってるけど、魔獣人だから死んではいないだろう。
「…うっ!」
やっぱり耐えられなかったか!僕の右腕は折れてぐにゃぐにゃになった!
力を使い果たしたことで超人モードは解除されてしまい、脚のない僕は地面に転がった。
「光太、大丈夫?」
そんなことよりも光太だ。僕に力を送ってからそこに倒れたままだ。
呼吸は…していない!心臓も動いてない!それにこの身体!炎の壁に囲まれて暑いはずなのに、不気味なくらい冷えている!
まるで死体みたいで…
「生きてるよね…ねえ!?」
「生きてる…わ」
返事をした…光太じゃなくて天音が!あの一撃を喰らってもまだ立ち上がれるのか!
「化粧が崩れたじゃない!せっかく…せっかく光太に可愛く見られようって頑張ったのに!」
最後の一撃で僕の超人モードは既に終わっている。そして魔獣人の天音は炎の壁からエネルギーを得て回復してしまった。
僕の敗けだ…せっかく力をもらったのに!失敗した!
「起きなさい…起きなさいよ光太!」
「やめろ…やめろよ!」
無力な僕は、彼が天音に蹴られるのを見ていることしか出来なかった。
そしてこれから、何の抵抗も出来ずに殺されるんだ。
「起きないのね…まあ良いわ。これからこの子、殺すから」
天音は雑巾を絞るように炎を収束させて槍を形成した。超人モードならあれを吸えていたのに…
「起きてくれ!もう1度超人モードだ!」
なんて情けない…命惜しさに無理させようとするなんて!ミラクル・ワンドを使って欲しくないって言ったのは僕じゃないか!
残った右腕で何が出来る…汗と涙を拭うぐらいだ。
「それじゃあ…死ねよ!このクソ女!」
「うっ!」
「豪火魔獣ヴァイ・ハイン…炎を操る能力を備えた魔獣か。魔獣の力を使っても勝てないお前が弱すぎるのか…それともナインが強すぎるのか。どっちにしろ、お前の負けだ」
「光太…!」
光太が立っている!天音の腕を掴んで止めている!
良かった…てっきり死んでしまったのかと…
「はぁ?あなただけで何が出来るってのよ!」
「お前こそ…魔獣なしで何が出来るんだ?」
グラウンドを囲っていた炎の壁が消えていく…天音が元の姿に戻っていき、魔獣の魔力が光太に移っている…
一体なにが起こっているんだ。光太は何をしているんだ。
「まさか…」
「以前のお前と同じだ。俺の死を魔獣に肩代わりさせた」
「アンさんの力もなしに魔獣をコントロールなんて出来るはずがないわ!」
「あいつと同じだ。俺は操れるんだよ。アンと同じ力が俺にはあるんだ」
ドンッ!
光太は天音を押し倒すと、馬乗りになって頭を殴った。それも1度ではなく何度も。
「よくもナインを!調子に乗りやがって…この!屑が!何で生きてやがる!」
「やめっ!ウッ!アッ!」
「お前だ!お前のせいで俺の人生は滅茶苦茶になった!どう償う?もう取り戻せない過去は殺されて償うしかないよな!」
「もう…やめっ!」
やめてよ光太。そんな君を僕は見たくない。
いくら彼女が憎くても、そんな残酷なことをしないでくれ!
「痛いか?痛いよな!でも俺はもっと痛かった!身体だけじゃない心もだ!」
「…ゥウ」
「そうか…殴られて声も出ないか。謝罪することも出来ないか!だったらお前にもう生きる価値はない…地獄に堕ちろ!」
ボンッ!
僕は咄嗟に、天音の首を締め付けようとしていた光太を右腕で殴り飛ばした。そのせいでさらに形が歪んでしまった。
「ナイン、邪魔すんな!そいつは敵だ!」
「でももう戦う意思は無いみたいだよ…なら攻撃する必要はないと僕は思う」
「そいつはお前を殺そうとしたんだぞ!?」
「僕を復讐の口実にしないでよ…光太が殺したいだけなんでしょ?…僕は嫌だよ。怒りの衝動に呑まれて誰かを殺す光太なんか見たくない」
「ごめん」
燃えるように怒り狂っていた彼は一旦冷静になろうと、明後日の方向を向いて座ってしまった。
彼がここまで激情するなんて、過去によほど嫌な事があったんだろうな…
しばらくすると、天音の魔法から解放された生徒会の皆がグラウンドにやって来て、光太を除く負傷者と無抵抗の天音を要塞へ移動させた。
七天星士の一人を撃破…と言って良いのだろうか?
それよりも、光太がいなければ僕は死んでいた。しかし彼は一体なにを…魔獣を操れると言っていたけど…