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第110話 「せっかく…」

 身体の自由が効かない…七天星士が学校に来たから、迎え撃とうとしてウォルフナイトに変身して、フェン・ラルクに身体を乗っ取られて…


「さらに私も操られてるってわけさ」


 はぁ?なんだよそれ…外で何が起こってるのか全く分からない…こんなこと今までなかったぞ。


「お前が私から受けていた屈辱がこれほどとはねぇ…少し気の毒に思うよ」


 外で何が起こってるか分かるか?


「滝嶺飛鳥が私たちを止めようと必死に鞭を振り回しているよ」


 鞭を振ってだって?アーマーは着ていないのか?


 最悪な気分だ。普段フェンに乗っ取られている時を身体に重りを付けて沈められた状態だとすれば、今はそいつと一緒の箱に詰められて沈められた状態だ。


「名前を省略するのはやめてもらおうか。実に不愉快だよ…愛しのナインは私達を操っている魔獣人と戦っている…あれは一方的だねぇ」


 ナイン…早く助けてくれないかな。


「私と感覚を共有して外がどうなってるか教えてあげよう」


 それが出来るならさっさとやれ…




 制御の効かない俺の身体は機械のように動いて会長を襲っていた。

 爪が赤い…既に攻撃してしまったようだ。


「しっかりしろ!狼太郎!」


 ごめんなさい会長…いつもこんな風に暴れてしまって…


「そうだねぇ反省するべきだよ」


 お前のせいでいつもこうなってるんだろうが!お前が黙って力だけ寄越せばそれで話は済むんだ!


「お前の心に強さはあるかい?」


 なんだよ、藪から棒に…あるからここまで生きてきた。俺はそう思ってるぞ。


「随分と自信があるんだねぇ…魔獣人について分かった事を教えてあげよう。まず七天星士が宿している魔獣は心がない。生命活動を続けている魔獣の肉体だけが残っている」


 つまりあいつらが暴走しないのは、宿している魔獣の心が抜けているからか!


「失敬な。魔獣人のような存在を見たのは最近だけど、宿主と魔獣の気持ちが合わされば片方が好き勝手やる以上のパワーを出せると思うよ」


 だったらお前は俺に合わせる努力をしろよ。俺が宿主なんだから。


「あのねぇ?身体の中に入った寄生虫が宿主の事を考えて行動すると思うかい?」


 お前は寄生虫と違って意志疎通が出来るだろ。だったらお前は俺の事を考えて行動できるよな?


「ならお前は私の事についてじっくりと考えたことあるかい?憎むこと以外でだ」


 あるわけない。なんで腹の中に居座るお前を憎むこと以外で思い出さなきゃいけないんだ。


「…私だってお前と同じで心がある。個人として尊重してもらえないのは納得いかないね」


 現実のウォルフナイトは縄で首を絞められている。そろそろ気絶させられてしまうだろう。  


「もっと話そうよ」


 なんだこいつ、妙に馴れ馴れしいな…

 そうだ、月で初めて会った時、変な装置に入ってたよな。あれって何なんだよ。


「私も知りたいよ。記憶が曖昧なんだ。あそこに封印されていた。それしかあの装置に関する記憶はない。さて、お前が質問してくれるなら私も尋ねよう。どうしてお前は力を望むんだ?」


 決まってる。生徒会長と一緒に戦うためだ!魔獣を倒して人々を守って、あの人の役に立ちたいんだ!


 お前はどうなんだよ?俺の身体を好き勝手使って暴れて、一体なにがしたいんだ?


「…魔獣を殺してやりたいからだ」


 だったら俺と同じはずだ。なのにどうして力を貸さない?


「やることは同じでも意味は違う!言っただろ?魔獣にも心はあるって…しかしこれまで遭遇した魔獣は何者によって操られていた。それが見るに堪えない姿だった。だからお前を使って殺した」


 それってアン・ドロシエルじゃないのか?


「分からない。本当に…分からないことだらけなんだ…」


 フェン・ラルクがこんな風に弱気になるのは初めてだった。


 今までのやつが操られてたってことは、本当は魔獣は悪いやつじゃないのか?


「それについては人間に近いとだけ答えておくよ…こうしてアンの傀儡になった魔獣を見て思うのは、楽にしてやりたいということだ。人を守るために魔獣を殺そうとするお前とは全然違う」


 なら俺はどうすればいい?


「大人しくこの身体を私に使わせろ」


 それは…嫌だ。もう気付いてるだろ。今のままじゃ俺達は戦いに付いていけないって。何度も負けて嫌にならないか?


「何か良い案でもあるのか?」


 俺とお前で一緒に戦うんだ。

 さっき言ってたみたいに、息を合わせてあいつら以上の魔獣人にパワーアップする!…みたいな。


「無理だね。目的が違うんだ。私が理想としている魔獣人にはなれないよ」

「だから俺がお前に合わせてやる。この身体、魔獣を倒すためだけなら好きなだけ使え」

「…良いのかい?」

「構わない。全てとはいかないが、なるべくお前を尊重してやる」

「ならば存分にこの身体、使わせてもらおう…」


 その時、身体に変化が起こった。野性的だった表面はまるでハンターズのアーマーのように機械化した。手足の指先にはマナネイルの照射口が現れ、前腕には折り畳み式のビッグクロー、足背にもカッターのように刃を伸縮するソニッククローが備わった。


「う~ん…利害の一致だけだから中途半端なパワーアップだねぇ」


 おい、これであいつに勝てるんだな?


「それについては問題ない」






「何が起こっているんだ…?」


 指先から発動する魔力の刃で会長の鞭を切断する。それから俺達は、アン・ドロシエルの方に走った。


「あらあら、随分とカッコ良くなったじゃない」

「アン・ドロシエル…魔獣の心を砕き、そして駒として操った。私も魔獣として、お前を見過ごすつもりはない。ここで殺すよ」

「心があっても変わらないわ。魔獣はきっと人々に危害を加えていた。それを私は操って有効活用しているのよ」


 俺の身体はまるで踊るように、手足のクローを駆使して敵に攻撃した。しかしこの魔女は、接近戦も出来るみたいだ。

 魔法の杖に仕込んでいた刀を抜いて、クローを弾いている。そして隙あらば、俺達に反撃しようと狙っている。


「もらった!」


 左腕のクローでアンを切り裂いた。しかし身体はモヤモヤとボヤけて消えてしまう。

 今斬ったのは分身だ!


「分かってる!」


 クローを畳んで両腕を背中に回し、背後からの攻撃を受け止めた。相手は魔法も使えるんだ。

 こっちも何かないのか?


「だったら私の魔法をお前に貸そう」


 そんなこと出来るのか?


「と言っても大した魔法は使えないがね。せいぜい、魔力を打ち出してぶつけるくらいだ」


 使い方が意識の中に流れ込んで来る…


 魔法を使おうと強く念じると、背中から球体が現れた。そしてアン・ドロシエルを狙って攻撃するように指示を出すと、球体は突撃していった。


「攻撃が直線的だよ。あれじゃあ避けられるよ」

「弾速は中々ね。けれど…っ!?」


 時間差で球体が破裂。中から小さな球体が発射され、次々とアンに命中した。


 ハンターズで開発中のクラスター爆弾の技術を応用した。小型球体の威力は変わらず、目標を狙って発射される。


「やるじゃない…身体の半分が消し飛んだわ」


 しかしせっかく消し飛ばした身体も、あっという間に再生してしまった。

 あれは魔女と言うよりは化け物だな…


「今一瞬見えたけどこの女、身体の中が魔獣だったよ」


 なんだそれ?臓器移植でもしたのか?


「違う。心臓や肺などの臓器。それと骨の1本1本が心を破壊された魔獣そのものだ。魔獣を無理矢理変形させて身体を構築する部位にしているんだろうねぇ」

「あらやだバレちゃった」


 気持ち悪いな…一体どうしてそんなことを?


「力への憧れ…かしら」

「くだらない…それにしても狼太郎。中々手癖が悪いじゃないか」


 二人が会話をしている僅かな時間で、周囲を無数の球体で囲った。球体に込めた魔力は先程のよりも多く、破裂した時の火力も上がっているはずだ。


 クラスターで簡単に身体が削れたんだ。あいつに防御力は無いと見た。そして喰らえ!


「私も下がっておこうかな」


 ドガアアアアアアアン!


 念じた瞬間に球体は突撃していき、アンを中心にして大爆発が発生した。フェンスの支柱は歪み.校舎の窓が割れた。

 フェン・ラルクは、最大出力のマナネイルでトドメを刺しに突撃する。

 あの爆発で生きているかもしれないのか…

 

 爆煙の中に身体を前進させながら、俺は超小型の球体を放出した。俺達以外の誰かが触れたら即小さな爆発が起こる機雷式だ。


「言っておくけど魔法を発動するのに消費している魔力は私の物なんだ。もう少し考えて使ってくれ──」


 ガッ!


 煙の中で誰かに首を捕まれた!あれだけの爆発を喰らってまだ生きてやがるのか!


「理を超える魔獣の力と、それを扱う強い人間の魂…これでようやく準備が整ったわ」

「お前ェ…!」


 五体満足!アン・ドロシエルが無傷の状態で立っている!


「防御魔法を使ったのよ…ウィンド!」


 アンが魔法で風を起こして煙を払うと、七天星士が集結して、足元が光り出した。


「杖の魔法が打ち消された!?何をするつもりだ!」


 ナインと戦っていた魔獣人もこの場にいる。足元にはまず円が現れて、その中に何かが刻まれた。


「これは…八芒星の魔法陣だ!」


 魔法陣だって?足元に描かれているこの妙な絵が?


「8つの過去!8つの力!8つの魂!これらが望み示すはこの世の終焉!エンドワールド!発動!」


 アン・ドロシエルが何か唱え始めた!止めようにも、なぜか魔法が発動できない!


「八芒星が生み出す圧倒的な力を前に私達の魔法は無力化されている…これではもう、どうすることも出来ない!」


 本当に…これで世界が終わってしまうのか?


「君達の望む幸福はすぐそこよ…お疲れ様」

「円の中心から崩壊が始まっている!地面ではなく世界そのものが崩れ始めている!」

「私が設計した世界消滅魔法エンドワールドには8人の魔獣人が必要だった。ちょうど最後の一人が足りなくて困ってた時、君たちを見つけたってわけ。感謝してるわよ」


 俺達は利用されたってわけか!クソ!


 その時、誰かがアンの腕を払って俺たちを引っ張った。


「ようやくウォルフナイトがまともに戦えるようになったんだ。本当の戦いはここからでしょ!」


 ナイン!八芒星の力で魔法は打ち消される!その手に持ってる杖は使えないんだ!


「…何よ。その魔法の杖は?」

「お前が狙っていたガルバストーンと同等のパワーを持ったジャヌケの原石を使った魔法の杖。ジャヌケ・ワンドだ!発動したばかりの八芒星の力ぐらいなら押し返すパワーがある!」

「やめなさい!」

「世界を滅ぼさせやしない!」


 そこから何が起こったのか俺には認知できなかった。


「せっかく…」


 せっかく強くなれたのに。せっかくフェンの事が少し分かった気がしたのに…


 ナインが最後に振ったあの魔法の杖、ジャヌケ・ワンドで世界滅亡は免れたのだろうか…

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