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第11話 「応援してくれよな」

 来週は高校に入学して初めての定期試験だ。俺は良い点数を取るために、気合いを入れて勉強に望んでいた。


「光太、お菓子買ってきたよ」

「ありがとう。そこに置いといて」

「…少し休みなよ。身体壊しちゃうよ?」


 ナインの気遣いには感謝しかないが、休んでいる時間はない。俺が休んでいる間にも他のやつらは勉強をしているのだ。

 試験はこれからもある。今回は最初だから、良いスタートを切っておきたいんだ。


「学年1位目指してるんだ。応援してくれよな」

「う…うん」


 中学の頃は中途半端な点数ばかりだったが、それを反省しての高校初試験。きっと良い結果を出せる。

 そうして毎日勉強に力を注ぎ試験前日。俺は体調を崩した。


「ちょっと!マジで学校行くつもり?死んじゃうよ!試験は明日なんだし今日は休もうよ!」

「皆勤賞狙ってるし…身体楽になる薬とか作ってよ」

「家で安静にするなら用意するよ」

「ケチだな。行ってきます」

「休めって言ってるの!分かんないの!?」


 玄関の扉に手を掛けた瞬間、俺の頭に何かが叩きつけられた。




 はっ!俺は…登校しようとして玄関まで行って…ナインに杖で殴られて気絶していたのか。

 

「もう欠席の連絡入れたからね。今日は寝てなきゃダメだよ」

「余計な真似を…」

「光太、なんか変だよ。試験近くなったと思ったら急にピリピリしちゃって」

「そりゃあ試験が近くなったら誰だってピリピリするだろ。むしろお前に八つ当たりしなかっただけ、俺は偉いぜ」


 勉強しないと…ナインに机の上にある教科書を取るように頼んだが断られた。俺が手を伸ばそうとすると、前に身体を出して邪魔をする。


「身体壊したら試験受けられなくなっちゃうでしょ」

「受けても結果出せなきゃ意味ねえんだよ」


 うぅ、身体が怠い…せっかくあんなに勉強したのに、これじゃあ全部無意味になる。


「光太、どうしてそんな必死なの?ただの試験だけじゃこんなにならないよ」

「良い結果出したいんだ」

「それで?光太が考えてること、結果を出して成績を上げたいとか皆に慕われたいとかじゃないよね」

「お前に話す必要ないだろ」

「薬作ってあげないよ?明日、治らなかったら困るよね?」


 以前もらったナインの薬はかなり効果があった。体調も万全に近付けておきたいし、ここは話すか…


「…父さんと母さんに見せてやりたいんだ。俺は中学までサッカーしかやってなかったんだ。それも怪我して全部パーになってさ。そんな俺は勉強を頑張ってるんだって、学年1位になればそれが証明出来るだろ」

「光太…」


 話を聞いたナインは黙って薬を用意してくれた。納得してくれたようだ。


「良い点数取れるといいね。野暮なこと聞くけど、魔法の杖、貸してあげようか?」

「いや…俺の実力でやらないと意味ないんだ」


 シャープペンシルの形をした魔法の杖。きっと解答用紙に正しい答えを書けるという物だろう。

 杖をバッグに戻し、ナインは部屋から出ていった。


「ちゃんと寝ないと治らないよ」


 今回ばかりは言われた通り、俺は無理しないで眠ることにした。




 次の日、万全と言える状態ではなかったが俺は試験を受ける事が出来た。

 3日間という短くも長い試験期間。俺は脳をフル回転させ、解答用紙を埋めていった。

 最終日には再び体調が崩れたが、次の日が休みという事でゆっくり身体を癒す事が出来た。


 そして次の週、全試験の解答用紙が返された。満点はなかったがそれでも全て90点台。

 ありがとうナイン。薬のおかげで全力出し切れた。


 そして、最も重要な学年内での順位は…


「最下位だった…」

「えぇ!?そこはぶっちぎりで1位って流れじゃないの!?良い点数取ってビリって周りハイレベル過ぎるでしょ!」


 ナインの言うように周りのやつらは強かった。悔しいが完敗だ。


「最終日に体調を崩したのが痛手だったな…」

「いやいや良い結果だと思うよ?それに次頑張れば良いじゃん!今回頑張れたから次も頑張れるよ!」

「そうかな…そうだよなぁ!」


 悔し涙なんて久しぶりだ。中学の頃、サッカーの試合で負けた時以来だ。


「あの時もそうだ…延長に入る直前、俺のシュートが相手ゴールのポストに当たって、そのまま自分のゴールまで跳ねてオウンゴール…負けたんだ」

「よくそんな器用なミス出来るな!?凄いよ!天才だよ!」

「みんな笑って許してくれたけど…」

「そんなスーパープレイしたら誰だってそりゃ笑うわ!呆れて笑うしかねえよ!てかゴールキーパー何やってたんだよ!」


 俺はやっぱり…駄目な男なんだ…


「これぐらいでヘラるなよー」

「おぎゃああああああああ!」

「赤ちゃんになっちゃった!」

「うんぎゃああああああああっ電話だ」

「急に戻んないでよ…てか情緒おかしくない?」


 悔しさのあまり頭がバグってるのかもしれない。冷静にならないと…

 それよりも、電話を掛けて来たのは俺の父だった。


「もしもし父さん。光太だよ」

「久しぶりだな。忙しくて電話を掛けられなくてすまなかった…元気でやってるか?」

「ぼちぼちかな」

「そうか…大切な話があるんだが、今大丈夫か?」


 大切な話…一体なんだろう。もしかして俺も海外に行く事になったとか?


「大丈夫。それで話って?」

「実際に見た方が早いだろう。俺の部屋に行ってくれ。それから…」


 父の部屋にある作業机。その隣には色んな書類が入っているレターケースが置かれている。

 その一番下の段には封筒が重なって並べられていた。


「一番奥の封筒の中身を見てくれ」

「わかった」


 封筒の中には紙が1枚、折り畳まれて入っていた。


「DNA父子鑑定結果報告書…」


 詳細は省略。ただこの用紙を見て1つだけ分かった事があった。


「光太、お前は俺の子じゃない…あの女と浮気相手の間に出来た子なんだ」


 その事実を突き付けられ、俺の思考は停止した。






「ちょっと光太!危ないって!」

「死なせてくれよ!いらないんだろ!」


 俺は浮気性の母と浮気相手の間に出来た人間だったそうだ。

 父は俺が小学生の頃、自分の子どもではないと知ったらしい。そう言えば一時期、両親が不仲な事があったとさっき思い出した。

 その時は許したという。俺が自立するまでは支えていくつもりだったらしい。


 けれど出張先の海外で母の浮気が発覚した。問い詰めたところ、和解してからすぐにまた別の男と浮気していた事が判明した。きっと、その時からずっと色んな男と遊んでいたのだろう。


 許せなかった父はそれをきっかけに決意。

 大切な話とは他でもない。両親が離婚するという事の報告だった。


 では、どちらが俺を養っていくのか?母は男達との付き合いで忙しいので、当然俺を拒んだ。

 そして父は出張先で良い出会いをしたらしい。それに俺は邪魔だそうだ。正確には、最低な雌豚の血が流れている俺を、もう我が子として見れないとか…


 頑張って良い点数を取ろうとしていたけど、何よりもまず俺は必要されていなかった…笑い話だな。


「死ぬならせめて場所選ぼう!事故物件になったらマンションの人たちに迷惑でしょ!?」

「はぁ…はぁ…はぁ…」


 ベランダから飛び降りようとしていたが、ナインに阻止された。


「………俺が悪いのか?結果出せなかった俺が悪いのかよ!」


 中学の頃、勉強を頑張っていれば捨てられなかったのか?ここまで過去を悔やんだことはない!


「ごめん。僕が魔法で出張させちゃったから…」

「ナインは悪くない…どうせこうなる運命だったんだ…」


 この怒り…何にぶつければいいんだ?そんなの決まってるだろ…


「ナイン、杖を貸せ。あいつらをブッ殺せる魔法の杖だ!」

「嫌だよ。光太にそんなことして欲しくない」

「俺はやりたいんだよ!くだらない理由で俺を捨てたあいつらを!殺したい!」

「そんなことするなら僕はアノレカディアに帰るよ。魔法は悲しみを生み出すための力じゃない」

「だったら魔法で俺を助けてくれよ!俺を幸せな一般家庭の一員にしてくれよ!」

「魔法はそんな完璧な物じゃない…今の君が望んでることは…出来ない…」


「チッ…お前も魔法も!何の役にも立たねえじゃねえか!出ていけ!」

「そんな…八つ当たりにしても酷すぎるじゃないか!この馬鹿!」


 ナインは俺を止めておいて、自分はベランダから飛び出した。そして魔法の力で夜空に消えてしまった。

 これから俺、どうなるんだろうな。

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