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第106話 「なんで俺なんだよ!」

 ナインは俺より強い狼太郎が気に入ったらしい。居場所のなくなった学校から逃げ出した俺は、そのままアパートに帰らずに崩壊した街を徘徊していた。


「こんな杖でどうやって身を守れって…」


 あいつから渡されたショック・ワンドでは敵が倒せない。しかし戦う手段はこれ以外に何もない。

 使い物にならなくなったから、負けて死ねというある種のメッセージなのかもしれないな…


「はぁ…」


 荷物をまとめてこの街を離れるべきだろうか。しかし離れるとしてどこへ行く?温かく迎えてくれる場所なんてどこにもないぞ。


「あ~あ…やってらんねえよ!なんで散々迷惑かけてきた化け物に友達を盗られなきゃいけねーんだよ!…ナイン!俺はお前の力になってやっただろうがよ!弱いって分かったら即ポイかよ!バーカ!バーカ!バーカ!」


 弱ければ捨てられる。それが戦いの世界というものなのか。こういう結果なら最初からあいつと友達にならなきゃ良かったな。それで魔獣に呆気なく殺されてた方が気持ちが楽だった。


「…自決用に貸してくれたのか」


 杖の先端を頭に当てた。今魔法を発動すれば、脳は一撃で焼けて俺は死んでしまうだろう。


「…チッ」


 発動することは出来なかった。やはり、どれだけ嫌な事が連続で起こっても死にたくはないらしい。

 歩いて腹が減ってきた。そろそろアパートに帰るとしよう。


「ねえ君、私の仲間になる気はないかしら?」




 突然の出来事に俺はフリーズした。何故なら、目の前に突然、アン・ドロシエルが現れたからだ。


「………」

「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。今日はただスカウトしに来ただけだから」

「お、俺はお前の仲間になんかならないぞ!」

「でも君。居場所がないんでしょう?心を読む魔獣から教えてもらったわ。ここにいるの。見える?」


 アンの隣にハエみたいなのが飛んでいる。ちっぽけだけど、あれでも魔獣なのか。


「…お前の仲間になる理由はない!」

「それはどうかしら?君、力が欲しいんでしょう?…私の元に来れば強くなれるわよ?憎い相手から大切な子を取り戻したいんでしょう?」


 俺が強くなれば、ナインはまた振り向いてくれるだろうか。


「俺は強くなりたい。だけどナインと一緒じゃないと嫌だ!」


 ビリビリッ!


 ショック・ワンドを振って電撃を放った。しかし素手で受け止められてしまった。

 今ので最大出力だぞ…いくらなんでも弱すぎるだろこれ。


「一途なのね。青春って感じがして羨ましいわ」


 一歩…敵がこちらに足を進めると俺も後ろへ下がっていく。こいつは俺なんかじゃ勝てる相手じゃない。


 ビリビリッ!


 今度は顔に目掛けて魔法を放って逃げ出した。とにかく逃げるんだ。


 アン・ドロシエルは地面に足を付けたまま、ホバー移動のような動きで俺を追って来た。


「うわっ!?」


 突然、右足が何かに引っ掛かって俺は転んだ。しかし足元には何もない。何に躓いたんだ?


「この子は読心魔獣オバエ・ササザ。こんな小さな見た目でも、人を転倒させることぐらいは出来るのよ」

「いってぇ…魔獣に名前なんてあんのかよ…!」

「魔獣と繋がれば教えてもらえるわ。君も挑戦してみたらどうかしら」


 あのハエみたいな魔獣に転ばされたのか…小さい割にパワーがあるみたいだ。


 ドオオオオン!


 その時、俺の目の前にライオンのような見た目をした巨大な魔獣が降って来た。


「その子は大牙(おおきば)魔獣ザマタ・リオン。その牙で獲物を容赦なく噛み殺すわ」


 魔獣が口を開くと綺麗に並んだ鋭い牙が露になった。


「ヒィッ…!」


 ショック・ワンドを振る。しかしダメージにはならず、ただ魔物に存在感を示しただけだった。


「ガオオオオ!」

「い、嫌だ…!やめろ!お前魔獣操れるんだろ!?助けてくれ!」

「言っておくけど止める気なんてないから」


 魔獣の頭が俺に近付く。大きく口を開いて、俺を食べようとしていた。


「に、逃げなきゃ…」


 ドオン!


 魔獣の前足が地面を叩きつけて大きく揺れる。その威圧感のあまり力が入らず、俺は逃げることすら出来なくなった。


「うわあ…あ…」


 ダメだ俺、ここで死ぬ。

 なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ…


「お前が…お前が死ねよ!なんで俺なんだよ!」


 最期の言葉は、この場にはいない狼太郎に対しての率直な文句だった。

 今もナインはあいつに笑顔を向けているのだろうか。俺の事なんて全く想ってくれてないのだろう。




 ドン!ドン!ドン!


 しかし突然、魔獣は地面に頭突きを始めた。


「ど、どうなってるんだ…うっ!」


 頭の中に何かが流れ込んでくる…


「気分が悪い…!どうなってるんだ!?」

「君は今、魔獣と繋がっているの。感じているソレは魔獣の意思。マイナスの集合体である魔獣と繋がるということは、負の感情に心を繋げるのと同じ…慣れてない時は最悪の気分よね」


 魔獣が頭を地面にぶつける度、俺も酷い頭痛に襲われた。

 俺が死ねって叫んだから、それを命令だと認識して死のうとしている!


 ドン!ドン!ドン!……………


 魔獣は最期に頭をぶつけると急に動かなくなった。そして繋がりが切れたことで、絶命したのだと理解した。


「はぁ…オエエエエ!」

「意外とメンタル弱いのね。私だって流石に吐いたりはしなかったわよ」


 魔獣と繋がっている間、そいつの過去のような物が視えた。何人もの人を殺した。転生して別の姿になってもまた、何人も何人も人を殺した。

 魔獣には魂が存在していた。


「一体どうして、俺にこんな力があるんだ…」

「それがあれば、君の敵である少年の魔獣を殺せるわ」


 フェン・ラルクを殺す。そうすれば狼太郎は使い物にならなくなる。

 ナインが気に掛けることもなくなって、あいつは俺の元に戻ってくる…


「…だが、お前が敵であることに変わりはない!まずはお前から殺してやる!」

「そう、仲間になるつもりはないと。残念ね…ふふふ」


 消えていくアン・ドロシエルを前に、魔獣と繋がった直後で疲労していた俺は何も出来なかった。


「くっ…ナイ…ン…」






 次に目が覚めた時、俺は生徒会要塞の保健室にいた。

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