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第105話 「もう戦わなくていいよ」

 ノート達を連れて生徒会要塞に戻った。ハンターズから新しい義脚を受け取り、今は右腕をサヤカの魔法で治療してもらっているところだ。


「酷い怪我だね…傷跡残って欲しくないから、少し時間かけるよ」


 治療を受けている間に、魔獣の侵攻からこれまでに何があったのかをノート達に説明した。二人とも、凄い事態だというのに焦る様子は見せなかった。


「まさかあんた達の身内に魔獣がいたとはねぇ…信用できるのか?」

「狼太郎は良い人だよ。ただ、中にいる魔獣がね」

「なら質問を変えよう。あいつが訓練を続ければ魔獣をコントロール出来るようになるのか?」


 このタイミングでバリュフの質問は耳が痛かった。


「分かんない…」

「分からないでは困る。戦力になるか、それとも暴走して足を引っ張る前に魔獣を殺すか。よく考えろ」


 狼太郎を鍛えているからこそ、僕は狼太郎を信じたい。仲間のために強くなろうとする彼の力を取り上げるような真似はしたくなかった。


「彼は…きっと良い戦士になると信じてる」

「そうか。なら僕達は見守ることにしよう。それで構いませんね」

「良いんじゃね?…その傷触ってもいい?…ひだひだしてる~!」


 ノートは治療中の腕に触れてきた。傷がどんな見た目であっても、触られるとやっぱり痛い。


「あの、今治療中だから…」

「あぁ悪い悪い…なんかゾワゾワしてきた!キノコの裏側みたい!」

「ノートさん、落ち着いてください」


 ガチャッ…


 部屋の扉が開いた。


 ゴタン!


 そして大きな物体が中に投げ込まれた。


「連れてきたぞ」

「あ~疲れた!」

「ありがとう皆」


 ジン、ツバキ、ツカサの三人が通路に立っていた。彼らが投げ入れたのは黒金光太だ。他でもなく僕が連れて来るようにお願いしたんだ。


「光太。どうしてここに運ばれたのか分かるよね」

「…さあ?」

「君なんでしょ?狼太郎に人殺しの真実を告げたのは」

「証拠は?」

「白状しないなら魔法で100でも1000でも証拠を用意してあげるよ」

「…どうせいつか知らなきゃいけなかった罪だ。それを告げて何が悪い」

「だとしても今じゃないよね。それに生徒会長と約束したよね。協力してアン・ドロシエル達と戦う代わりにその事を話題に出さないようにって」

「俺はあいつらと協力するつもりなんてない」


 今の光太にはきっと何を言っても無駄だろう。どれだけ頭を下げて頼んだところで、協調性を失った今の彼には伝わらない。


「光太、もう戦わなくていいよ」

「なんでそうなるんだよ」

「君、周りにどれだけ迷惑かけてるか分かってるの?僕は魔法の杖を使えずこうして腕を負傷した。狼太郎がいなくなって女子達は大パニック。そして彼は今、罪悪感に押し潰されそうになってるんだ」

「罪悪感に押し潰されそうって…あいつは人殺しなんだぞ!」

「君、狼太郎を責める理由が欲しいだけだよね。彼が人を殺したから怒ってるんじゃない。僕が彼に付きっきりなのが許せないんでしょ」

「分かってるならどうして…」

「約束したよね!狼太郎の訓練が終わったら僕たち二人で特訓しようって!忘れちゃった!?」

「忘れてない!忘れてないけど…お前はあいつに贔屓しすぎなんだよ!」


 僕は狼太郎を訓練しなきゃいけない立場だから、贔屓気味になるのは仕方のないじゃないか…


「良い?僕達は世界滅亡を阻止するためになんとしても敵に勝たないといけないんだ。そのためにはハンターズとの協力が必要になる」

「分かってる…けど」

「分かってるなら関係が悪くなるような行動をするな!」

「…すまなかった。頭冷やしてくる」

「光太、ちょっと待って」


 部屋を出て行こうとする光太に魔法の杖を投げ渡した。


「これはショック・ワンド…」

「何かあったらそれ使ってよ。魔力を感じたら僕も駆けつけられるから」


 ショック・ワンドでは魔獣すら倒せるか怪しい。護身用にウエストバッグごと貸し与えるべきだったけど、今の彼にはその1本しか渡す気にはならなかった。

 部屋を出て行った彼がこれからどうするのか分からない。ちゃんと反省してくれることを願うばかりだ。


 僕は光太に期待しすぎていたのかもしれない。戦いのセンスはあるけど、彼は元々この世界では一般人だ。狼太郎達みたいに壮絶な過去を乗り越えたわけでもない。心が未熟すぎるんだ。


「腕治ったよ…ナイン?」

「僕は…身勝手だ。光太に信頼してもらってるのに、狼太郎に時間を注ぎすぎた。関係が悪くなるように振る舞ってるのはどっちだって話だ…」

「正直、ナインは狼太郎に優しくしすぎだと思うよ。叱ったことないでしょ?」

「だってその方がちゃんと訓練に取り組んでくれそうじゃん…」

「それにしては光太には厳しいよね」

「光太は…とにかく出来る人だから。過去に戦った魔獣となら、杖があれば勝てると思うよ」

「やれば出来る。だから厳しくするんだ?」

「厳しくしたつもりはないけど…光太に期待しちゃってたのは本当なんだよね…」


 さて。光太の説教が終わって今度は狼太郎だ。メンタル強いかと思ってたけど、一度崩されると立ち直るのに時間が掛かるタイプっぽいしな。

 優しく励ますか厳しく反省させるか…


 そうしてどうやって話をするかと悩んでいる内に、狼太郎の部屋の前まで着いてしまった。


 コンコンコン


「狼太郎?今大丈夫?」

「…一人にしてくれ」

「ドア開けるよ?」


 部屋の中は真っ暗だ。暴れたのか室内は散らかっている。そして狼太郎は布団に潜っていた。


「ねえ狼太郎」

「近寄るな!フェン・ラルクに殺されるぞ!」

「狼太郎はこれからどうしたいの?」

「分からない…俺はどうすればいい…!殺した人間とその家族にどうやって償えばいいんだ!?」

「…質問を変えるね。君はフェン・ラルクをどうしたい?」

「俺は…」

「君が望むならフェン・ラルクを殺す事が出来る。でもどうするかを決めるのは狼太郎自身だ。殺すことを選べば、今後悩むことは一切なくなる…けど殺さないのなら、力を持つ人間として色んな物を背負うことになる。責任、これまでの罪、そして使命…君は運命に立ち向かわなければいけないんだ」


 狼太郎は何も言わなかった。きっと悩んだのだろう。

 そして出した結論は…


「フェン・ラルクは…殺さないでくれ!」

「それで良いんだね?」

「あぁ…頼むナイン。俺を鍛えてくれ。俺は強くなりたい!この力を正しく使えるようになりたいんだ!」

「分かった。これからは厳しく行くよ」


 狼太郎がその気なら僕も全力で応えよう。君が生徒会長と一緒に戦えるように鍛え上げる!

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