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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
少女と少年

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第104話 「潔く手放してしまえ」

 魔獣がこの世界に侵攻したあの日。

 僕、バリュフ・エルゴはノートさんとナイン・パロルートの兄であるセナ・パロルートと協力して魔獣を殲滅した。


 そして現在。セナは空中に存在する魔獣召喚装置から涌き出る魔獣との戦いを休むことなく続けていた。


「どうですか?アン・ドロシエルの居場所は掴めましたか?」


 ノートさんは別の次元にいるというアンの居場所を探ろうとしてスーツをレーダーに変えて目を閉じて、何日間も動かずその場所に立ち続けていた。

 まるで石になってしまったみたいで返事もない。僕は万が一に備えて、彼女のそばから離れなかった。


 ナイン達と連携を取りたいが、今ここを離れるわけにはいかない。彼女を狙った敵が現れた場合、戦えるのは僕だけしかいないのだから。


「見つけたぞ!アン・ドロシエルの居場所!」


 突然ノートさんが後ろで大声を出した。ようやく、僕達も次の行動に移れそうだ。


「あいつ、この世界の中に作り出した別の世界に隠れてやがった!つまりどういうことかって言うと…」

「一つの円をこの世界として、その中に小さな円を描き足した。敵はそこにいると」

「そうそうそう!バリュフは賢いなぁ!」

「それで、どうやって攻撃するんです?」

「そりゃあお前あれだろ…ほら、こういう時は…」


 こういう時と言われても、別次元の敵に攻撃した記憶がない。そもそも初めてのケースだ。


「…どうしようもない」

「誘い出して叩くことは出来ないのでしょうか?」

「誘い出すか~…餌が必要だな。世界滅亡を夢見る人間が欲しがる物って何だ?」


 敵の目的はこの世界の滅亡。滅ぼす予定の世界に求める物なんて何もないだろう。


「あれ?あそこに誰かいるぞ」


 ノートさんが人影を見つけた。今いる場所は魔獣の被害を受けた地域で、一般人の立ち入りは禁止されている危険な場所だ。理由が何であれ、ここから追い出さなくては…


「ちょっと君ィ、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ?…あれ?」

「ノートさん。僕、この少年に見覚えありますよ」

「あたしも…えっと…どっかで会ったことあるっけ?」

「近寄るな…俺の中には魔獣がいる…」


 バタン


「え…え~?」


 その少年は意味深な言葉を放つと倒れた。確かめてみたが怪我や病などではなく、ただ空腹で倒れたみたいだ。


「空腹で倒れたにしては肌に艶があるけど…結構余裕そうじゃね?」

「昼飯を抜いただけで餓死するなんて言う人間もいるし、この世界では珍しくない症例なのでしょう」

「いやそれは万世(ばんせ)共通のデブの言い分だろ…」


 ガブガブガブガブ!


 僕の持っていた食糧を与えると、少年は詰め込むように食べ始めた。よほど飢えていたらしい。


「それで…こいつ誰だったっけ?」

「思い出しました。エウガスでの大会の時、黒金光太達の応援に来ていた人間です」

「あ~…思い出せん。多分こいつと会話してないよ」


 少年は食糧を食い尽くすと、立ち上がって一礼。それから歩き始めた。


「おいちょっと待てよ。お前の中に魔獣がいるってどういう事だ。ナインの知り合いならどうしてあいつに相談しない?」

「魔獣を知っているんですね…だったら話が早い。俺を殺してください」

「はぁ?なに言ってんだお前?」

「俺は…人を殺してしまった…こんな俺に生きる資格なんて…」


 そして少年は膝を付いて泣き始めた。ノートさんは困っていた。


「おいどうすんだよこのメンヘラ男」

「スーツを短刀に変えてください。それでこいつに腹を切らせましょう」

「その後はお前が魔法で首を跳ねるってか!?いつの時代の処刑だよ!?切腹に使われたスーツなんて着たくねえよ!てかこれ彼氏からの貰い物なんだぞ!?」

「では、無難に慰めてみてはどうでしょうか?」

「そうだよな~それしかないよな~…おいお前。何があったか詳しく話してみろよ」

「うああああああん!ああああん!」

「聞いてねえよ…どうする?」

「中にいる魔獣が何かする前にいっそここで…ジゾルゴ!」

「ストーップ!殺しちゃだめ!その人は僕達の仲間だから!」


 魔法を射とうとしたその時だった。遠く離れた場所から、杖を握ったナインと見覚えのある少女が凄い速さでやって来た。

 ナインと並走しているあいつは…多分この少年の知り合いだろう。


「俺はあああああ!」


 そして少年は泣き続けた。




「久しぶりだねバリュフ、ノート…じゃないよ!この人は仲間だから!魔獣人に変身できるけど、良い人なの!」

「仲間…ねえ。事情は知らないけど、そもそもこいつ、頼りになるのか?」

「うわああああああん!」

「こんなに泣いている狼太郎は初めて見た…大丈夫か?」

「近寄るな!俺は…俺は人殺しなんだよおおおおお!」

「こいつは本当に人を殺したのか?」

「狼太郎は魔獣人に変身すると、中にいる魔獣フェン・ラルクに身体を支配されてしまうんだ。それで魔獣は彼の身体を操って人を殺してしまった」

「…殺されたのはどんな人間だったんだ」

「僕はよく分かんないけど…光太と同じ中学校の人。その人は魔獣に寄生されていて、負の感情を引き出されていたんだ」

「そうか…おいお前」

「あぁ!?なんだよ!」

「宿している魔獣をナインに殺してもらえ」

「なんだよ急に!?」

「制御できない力を抱え続けたところでまた誰かを傷付けるだけだ。ならば(いさぎよ)く手放してしまえ」


 すると狼太郎という少年は泣き止んだ。そして俺を睨んでいた。


「なんだその目は。俺の言葉が気に食わなかったか」

「この力は…魔獣と戦うために必要な物なんだ」

「そんな大切な力を宿しておきながら、先程お前は殺すように頼んできたな。何故だ?」

「それは…」

「お前と魔獣の因縁がどこから始まったのか僕は知らない。しかしお前は自らの意思で体内に魔獣を生かしているそうだな」

「あぁ…」

「なら人を殺した責任は魔獣だけじゃない。ちゃんと手綱を握れていないお前にもある」

「俺が…殺した…」

「罪を認めろ。それでも魔獣を手放さないと言うのなら、同じ過ちを繰り返さないように精進しろ。その力は魔獣を倒せるだけじゃない。守るべき人間を傷付けることも出来てしまうんだ」

「こらバリュフ!さらに追い詰めてどうするんだよ!?」

「ごめんなさい。しかしこれ以外に言葉が思い付きませんでした」

「俺は…」

「狼太郎、皆の元に帰ろう…心配してるよ」

「でも…また誰か殺してしまったら俺は…」

「君にその力で戦うように頼んだのは私だ…責任は私にもある」


 女は狼太郎を連れて歩き始めた。あいつがこの先どうなるかは、周りの人間次第だろう。


「…っていうか二人とも!今までどこで何やってたのさ!」

「あ~それそれ。アン・ドロシエルの居場所を見つけたぞ」

「えぇ!本当に!?どこなの!?」

「この世界の中に存在する別の世界だ。とういうわけでナイン、お前の杖でどうにかしてくれ」

「うん…ちょっと無理かな?」

「…ですって。どうしましょうか?」

「どうしましょうってお前…そりゃあ…あれだろ…なあ?作戦会議…」


 作戦を練るために、僕達は学校の下に建設されているという要塞へ行くことになった。

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