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第103話 「もしかしてこういうの苦手?」

 萬名狼太郎が姿を消した。生徒会要塞に設けられた部屋を確かめたが、彼の姿はなかった。

 要塞内の監視カメラの映像を巻き戻して見ると、昨日の夕食前にリュックを背負って出ていく狼太郎の姿が映っていた。

 そして彼がいなくなったことに気が付いたのが今朝だったそうだ。


「ごめんなさい会長ー!」

「どこに出掛けるのか聞いたんですよ!その時は散歩だって~!」

「分かってる。君達は悪くない」


 生徒会長は狼太郎が学校から出ていくのを見た女子達を慰めていた。


「逃げちゃったのかな…」


 訓練を厳しくやり過ぎてしまっただろうか。確かに最近、無理をさせていたかもしれない。


「ナイン。早速だが君の魔法の杖で捜索を頼めないか?」

「そうしたいんだけど…」

「なにか問題でもあるのか?」

「僕のバッグがどこかに行っちゃって…」

「…失くしたのか?」


 昨日、狼太郎と訓練する時まで持っていたはずのウエストバッグを失くしてしまった。中には魔法の杖が入っていて、あれがないと僕は魔法が使えないんだ。


「そうか。街のカメラも故障していて足取りが掴めない…困ったな…狼太郎は一体どこに…」


 彼がいないとなると、これからの戦いが厳しくなるぞ。




 要塞の中は捜し尽くした。いるとすれば、この壊滅した単端市のどこかだ。


「ねえ光太!狼太郎来てない!?」


 まずはアパートに顔を出した。光太はリビングで遅めの朝食の途中だった。


「来てないぞ。どうかしたのか?」

「狼太郎がいなくなっちゃったんだよ!…僕の鍛え方が嫌になっちゃったのかな…」


 ここにいないなら別の場所を探そう…って思ったけど、彼がどこに行くかなんて想像つかないぞ。


「生徒会の問題ならあいつらに解決させろよ。わざわざお前が走り回る必要ないだろ」

「そういうわけにはいかないんだよ!あぁ~もう!魔法の杖があれば~!」


 僕のバッグはどこにあるんだろう。最後は確か、狼太郎との訓練で魔法の杖を使って…


「あっ!思い出した!訓練場に忘れてた!」

「バッグ失くしたのか?…ふん、狼太郎が盗んだんじゃないか?」

「狼太郎はそんなことする人じゃないよ!」

「どうかな。魔獣の力を制御できないから魔法の杖に頼ろうとしてるんじゃないか?」


 光太は他人事のように酷い推測をする。怒りたかったが今はそれどころではない。


「…はぁ」

「もう行くのかよ。朝飯食ってかないか?」

「そんな暇ないんだ。君もそれ食べたら狼太郎捜し手伝ってよね…はぁ」


 部屋を出て溜め息を吐いた。以前言い争いになってから初めての会話だった。やっぱり光太の様子が変だ。冷たく感じる。

 でも今は彼のことよりも狼太郎を見つけることを優先しよう。


「…この感覚は!?」


 悪いタイミングで魔獣の魔力を感じた。僕は捜索を中断して魔獣のいる場所へ急行した。




 魔力を辿って崩壊した街の中心へ。確かにこの場所から魔獣を感じる。しかし辺りを見渡しても、それらしい姿は見当たらなかった。


 ゴゴゴゴ…ブジャア!


「どこから出てきた!?」


 背中が切り裂かれるような痛みに襲われて、その直後に頭上をサメのような魔獣が飛び越えた。

 そして落ちていく魔獣は地面の中に沈むように姿を消した。まるで水に飛び込むみたいに。

 また厄介な能力のやつが相手だな…


「どこだ…」


 バギン!


 背後から顔を出していた魔獣に右の義肢を噛み砕かれた。残った左脚で前方へ跳ぶと、魔獣はまた姿を隠した。

 こういう相手こそ魔法の杖が必要なのに…


「あっぶね!」


 敵の鼻先が地面から現れるタイミングで跳び跳ねて、足元から襲い掛かる魔獣の牙を回避する。


「オゥラ!」


 そしてその身体を殴り飛ばしたが、魔獣はすぐに地面へ逃げてしまった。次は攻撃させてくれるかどうか…


 バシャバシャバシャバシャ!


「どうなってるんだ!?」


 魔獣の背びれが地上に現れた。問題なのはその背びれが無数に現れたことだ。

 あの魔獣、地中で分身したのか!?


 バシャン!


 その中から1体が僕に襲い掛かった。僕はカウンターを狙ってパンチを打ったが、魔獣は僕の身体をすり抜けて消えた。

 今殴ったのは分身だったのか!本体がどれか見極めないと…


「ウアアアアアア!?」


 なんだ!?分身に触れた右腕から何度も切られるような痛みが!

 地中を泳いでいるやつらはただの分身なんかじゃない!魔獣の分身は斬撃の集合体だ!あれに触れることは切り刻まれるのと同じ!右腕が傷だらけになっている!


「もしも連続で喰らったらヤバい!」


 直上へ逃げようとジャンプすると、分身が一斉に跳び跳ねる。

 なんて跳躍力だ!これは間違いなく追いつかれる!


「うわぁ!?」


 攻撃を受けた左の義脚が粉微塵になった。分身が複数重なった状態だと威力が倍増するみたいだ。


「これ以上高くは…!」


 シュルシュルグッ!


 分身に身体が触れそうになったその時、僕の胴体に縄が巻き付いた。そして半壊しているビルに引っ張られた。


「ギリギリだったな」

「会長さん!助かった~!」


 間一髪のところだった。ハンターズの装備を身に付けた生徒会長に僕は救われた。




 地上では僕を見失った魔獣がウジャウジャと泳いでいる。きっと本体は地中で攻撃が終わるのを待っているんだ。


「ナイン、バッグは見つけたぞ。ほら」

「本当?良かった~!どこにあったの?」

「黒金光太が隠し持っていた」

「…な、なんで?僕さっき彼と会ったよ!」

「尋問すると脅したらすぐに吐いたよ…彼は自分の行動をやり遂げる意思もないんだな」


 光太が隠し持ってた…?そんなことをする理由が分からなかった。

 しかし今やるべきなの考える事よりも魔獣を倒すことだ。


「気を付けて。さっきあのサメの分身に触れた僕の右腕、こんな風になっちゃったから」


 僕の右腕はひだひだになって大量の血を漏らしていた。

 見た目もキツいし早くサヤカに治してもらいたい…


「会長?」

「早く隠してくれないか?」

「もしかしてこういうの苦手?」


 会長は全く別の方を向いていた。とりあえず、ガーゼ・ワンドでこの部分だけ隠しておこう…


「ごめんね。隠したから大丈夫だよ」

「すまない…どうも苦手なんだ…点が集まった集合体とかもそうだ」


 生徒会長に意外な弱点だ。いざって時のために頭の片隅に留めておこう。


「さて…これからどうするんだ?」

「魔法の杖があるからなんとでもなるさ!フィッシング・ワンド!」


 これはどんな場所でも糸を垂らして釣りが出来る魔法の杖だ。そしてその釣り針にはヴィーガンだって涎を垂らすような匂いを放つミート・ワンドの欠片を付けた。


「それは…魔法の杖なのか?」

「肉魔法の杖ミート・ワンドだよ。魔法を掛けた物を好みの肉に変えられるんだ。それにこの杖自体を調理して食べる事だって出来るんだ」

「何でもありだな…」


 準備が完了したので、僕は糸を地上に向かって垂らした。


「これてよし!後は魔獣が餌に引っ掛かるのを待つだけだ」


 しばらくこの人と二人きりか…何を話そう。


「狼太郎は簡単に逃げ出すような男ではないんだがな…」

「きっと僕のやり方が厳しすぎたんだよ…はぁ…やっちゃったなぁ…ちゃんと謝らないと…」

「そんなことはない。いなくなったのには何か別の理由があるんだ」


 別の理由…


「…人を殺してしまった事を知ったとか?」

「まさか…要塞内であの話題を出すことは禁止しているんだ」


 ウォルフナイトが人を殺したことを、狼太郎に話してはならない。

 しかし僕には、その約束を破ってしまいそうな人物に心当たりがあった。


「実を言うと、私は君のパートナーを疑っている」

「光太…」


 なぜかウエストバッグを隠し持っていた光太。彼は狼太郎への敵意が強かった。

 きっと魔法の杖を隠して彼を捜せないようにしたんだ。


「この戦いが終わったら早速狼太郎を捜そう」

「よろしく頼むぞ…」


 魔獣が餌に気付くまでに時間がある。ハンターズから貰った義脚は壊されてしまったので、今度は義肢魔法の杖を取り付けた。

 ハンターズの物と比べると機動力などが劣るが、魔力が安定しやすいのがこれの良いところだ。


 グググッ!


 釣竿が引っ張られる!魔獣が食い付いたみたいだ!


「ナイン、君は魔獣を引き上げてくれ。トドメは私がやる」

「よろしく頼むよ…んんん!」


 フィッシング・ワンドにリールはない。引き上げたいという強い気持ちがあれば、獲物を釣り上げる事が出来る。


「ウオオオオ!いっぽおおおおおおん!」


 そして30メートルほど離れた地上から、餌に食い付いた魔獣が引き上げられた。


「会長!」

「伏せろ!」


 そして会長は腕部側面に備わっているレーザー砲を発動。僕の魔法の杖ごと、魔獣を焼き払った。

 恐ろしい威力だ…敵対していた頃に使われなくてよかった。


「学生が持って良い武器じゃないよそれ…」

「心配するな。人に向けて撃ったことはない」


 魔獣退治は完了した。早速、狼太郎を捜そう。


「サーチ系のワンドで…えいっ!」

「そんな簡単に見つけられるのか…魔法とは便利だな」


 狼太郎はまだ市内にいる。僕と会長は急いで彼の元に向かった。


 何があって出ていったのか、ちゃんと話を聞かないと…

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