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第10話 「目的は何だ!」

 ナインが家に住むようになっても相変わらず学校では孤独だ。最近では学校に行くのが嫌にすら思えてきたぐらいだ。


「黒金君。今日こそ農園に来てよ」

「前にナインと見に行ったじゃん。ほら、地震の時に」

「え?なんの話?」


 そうだった。灯沢には魔法の杖で災害が起こった時の七日間の記憶は無いんだった。


「今日は無理。放課後、ナインと映画観に行くから」

「映画観るよりも農園見る約束の方が先だったと思うんだけど」


 農園を見に行く事。検討はしたけど約束はしてなかった気がする。


「ユッキー!そんな奴と話してないで、教室移動しようぜー!」

「はーい!…それじゃあ」


 カースト上位の灯沢はいつメンとも言える仲間達の元に行く。

 俺も性格が明るければ、あそこに入れたのだろうか。ワイワイ楽しく、学校生活を送れたのだろうか。


 友だち欲しいなぁ…ナインと仲良くなったばかりなのに、俺って欲張りかな。

 噂をしていると、彼女から電話が掛かって来た。


「もしもし、どうした?」

「光太!ヤバイよ虫が出た!マンションなのに!」

「マジで?どんなやつ?」

「蜘蛛!大きい!」

「あーほっとけ。害虫喰ってくれるから」

「蜘蛛だけはマジで無理!帰って来い!」

「バカヤロー虫ごときで早退出来るかよ。お得意の魔法でなんとかしろ」


 それから強気に通話を終了。その後、何回かスマホが震えたが気にすることなく教室を移動。普通に授業を受けた。


 そして昼休み。ナインが弁当作りをサボったので、俺は昼食を買いに売店に向かっていた。


「もしもし光太?なんで電話出てくれないの?」


 うわぁ!?突然ナインの声が!それも近くからとかじゃなくて、脳内に言葉が直接届いてる感じだ!


「テレパシー・ワンドだよ。電話に出てくれないから使っちゃった」


 ビックリするから二度と使うな。そんなことより蜘蛛はどうしたんだよ。


「見逃してくれたよ。窓を開けたら外に出てった」

「知ってるかしら?益虫を逃がした家からは幸福も出ていってしまうのよ?」


 だってよナイン。惜しいことしたな。


「そうだったのか~…ちょっと待った」


 今の声誰だ!?ナインじゃない女の声がしたぞ。


「ナイン、一体どうなってる?」

「焦ってるところも素敵よ。光太君」

「君と僕との会話に誰かが入り込んで来たんだ。周りに人はいる?」


 昼休みなので廊下を往来する生徒だらけだ。けれど声の主と思われる人物は見当たらない。


「必死になって探してくれてるの?嬉しいわ」


 まさか、ナイン以外に魔法を使えるやつがいるのか?


「光太、ねっ…」


 ナイン?…ナイン!…声が聞こえなくなった!


 もう1人の女!聞こえてるんだろう!お前は誰だ!?どこにいる!?


「もしかして会いに来てくれるの?嬉し~!」


 ふざけてるのか…少なくとも良い印象は持てそうにない。

 きっとナインがこの学校に向かって来てるはずだ。そうしたらお前なんかイチコロさ!


「やっぱりそうよね。だから、彼女が来る前に…」


 突然、廊下を歩いていた生徒達が同じタイミングで足を止めた。


「君を捕まえておかないと」


 そして顔をこちらに向けると、狂ったように襲い掛かってきた。


「逃げないと!」


 謎の女はテレパシーが出来るんだ。そりゃ人間のコントロールだって出来るよな。


「悪いようにはしないから捕まってちょうだい!」

「頭が痛い…!」

「私は日々鍛練をしてるけど君はまだ素人。不馴れなテレパシーを無理矢理繋げていたら体力があっという間になくなるわよ!」


 まずい、このままだと捕まる…頭に響くこの不快な声を追い払わないと。


「卑怯者め!無関係な人たちを巻き込まないと何も出来ないのか!」

「オーホッホ!精神攻撃対策は万全よ!心をプロテクトしているもの!何を言われても傷付かないわ!」


 だったら本体を叩くしかない。きっとこの学校にいるはずだ。


「お前ら邪魔ぁ!」


 それにしても生徒と教師が俺を捕まえようと立ちはだかる!1人だけならともかく、こうも多数で来られると厄介だ!まずは身を隠そう。


「図書室に…開かねえ!?」


 しかし、どういうわけか逃げ込もうとした教室全部、扉の鍵が掛かっていた。


「君の考えてることが全て伝わって来てるわ!」

「ちくしょおおお!あそこだ!」


 唯一開いていた教室に飛び込んだ。そしてすぐさま扉を閉めて鍵を掛けた。


 しばらく扉を叩くが続いた。その後は諦めたのか、すっかり静かになってしまった。


「ふぅ…ナインが来たらここから助け出してもらうか」


 位置をメールで送っておこう。ところでここはどこの教室だ…


「諦めたんじゃないわ。目的を達成したから手放しただけよ」

「ヒィッ!」


 気付かなかった!窓際に女子が立っている!その声はさっきまで頭の中に届いて声と同じだ!


「スゥー…ははは初めまして!直接話すのは初めてだよね、うん。私は水城(みずき)星河(せいか)!光太君の隣のクラスで──」

「目的は何だ!学校の皆を操りやがって!」


 ナイン以外で魔法を使える人物は彼女が初めてだが…残念だ。いや、どんな力でも悪用する者がいるのは当然なんだ。


「許さないぞ!」

「手荒な真似してごめんなさい!でも私、光太君とお話してみたくって…」


 会話に夢中になってる…殴るなり蹴るなりして、謝らせる!


 だがこの思考はテレパシーで読み取られていたらしい。

 走ろうとすると、教室に並んでいた机が浮かび上がり足を交差して俺を捕まえた。


「付き合ってないのに暴力は良くないわよ。あっでも私と付き合ったらいくらだって殴って良いし、光太君が望むなら首だって絞めてもいいけど!」

「ナイーン!助けてえええええ!」

「ねえ、今は私と君だけで会話してるのよ?違う女の名前を呼ばないでくれる?」

「くっ…」

「中学の頃、私はサッカーの試合で活躍してる光太君に一目惚れしました!付き合ってください!」

「こんな酷い事してなに言ってるんだ!ふざけてないで放せ!」

「ふざけてなんていません!昔から続くこの愛、紛れもなく本物です!」

「ふざけてるだろ!日本人形みたいな髪型しやがって!」

「…」

「おかっぱロンゲ!野口さんかよ!笑ってみろよ!ほら!クックックッって!」


 こいつよく見ると実写版野口さんって感じだなぁ…


「代々伝わるこの幸運のヘアースタイルを…いくら光太君でも絶対許さない!」

「ぐっ!」


 机がガタガタと音を立てて崩れた。自由になったかと思ったが、何やら目の前に立つ少女は掌をこちらに向けている。

 あれはヤバイ。何か発射する構えだ!


「チェーン・ショット!」


 そして何もないところから巨大な鎖が勢い良く飛び出してきた。

 俺は間一髪避けられたが、背後の壁には大穴が開いていた。


「手品…じゃないよな。どうして魔法が使える!お前もアノレカディアから来たのか!」

「冥土の土産に名乗ってあげるわ!私は水城星河!魔法使いであり水城家の輝く一人娘!水城財閥、御存知なくて?」

「…メトロポリスに豪邸や研究所があるって有名なやつらだな」


 そんな財閥の御令嬢がどうして魔法なんかを…てかどうしてこんな一般の高校に通ってるんだ!?


「鎖魔法は昔から受け付かれてきた大切な魔法。そして私のお母様は財閥を切り盛りした天才にして魔法を教えてくれた私の師!お母様と同じこの髪型を侮辱したこと、絶対に許さない!」


 どうやら俺は、ずいぶん失礼な事を口にしてしまったらしい。


「…ナイン!?」


 窓にナインが貼り付いていた。良かった、助けてもらえるぞ!


 …あれ、あいつ何やってるんだ?筆みたいな魔法の杖を取り出して、何か書き始めた…


「さ、す、が、に、こ、れ、は…き、み、が、わ、る、い…助けてくれないのか!?」


 叫び声は聞こえたのか、ナインは優しい顔でウンと頷いた。


「覚悟しなさい!」

「…確かに外見を悪く言うのは良くなかったな」


 ナインが参戦して激アツ魔法バトル開始!


 …にはならなかった。俺は鎖魔法とやらで殴られ引っ張られ、彼女の気が済むまで痛め付けられるのだった。


「ごめんね光太君!ついカッとなっちゃって!ごめんね!」

「いや、悪いのは俺だよ。君のヘアースタイルを侮辱して済まなかった。撤回する。凄く可愛いし似合ってるよ」


 叩かれた場所は痛いけど頭痛は収まっていた。テレパシーを止めてくれたようだ。


「それにしても科学技術の発展したこの世界に魔法があったなんてね」

「まあ、使える人間が限られてるから技術競争には完敗してしまったけどね」


 窓を割って入って来たナインは水城と普通に話している。窓どうするんだよ…


「ところで光太君。返事を聞いていないのだけど…私と付き合ってくださらない?」

「…無理」

「えええええ!勿体ないよ光太!こんな美人さんを!」

「まあナインちゃんったら良い目をしているわね。けれどフラれてしまったのなら仕方ないわ…


今回は諦めるけど、好感度上げたらまた告るから!」


 そうして水城は教室から出ていくと、指を鳴らした。大穴の開いた壁と割れた窓は元通りになり、周りの人間は平然と日常に戻っていった。


「そうそうナインちゃん、あんまり法則を乱すような魔法は使わないでね。大変なことになるから」

「あ…ごめんなさい。使わないように気を付けるよ」


 ボロボロになったので俺は早退することにした。家へ戻るのはナインの魔法で一瞬だった。

 こんな便利な魔法があるならこれで駆けつけてくれたら良かっただろ。


「勿体ないなー、お金持ちの美人フッちゃうなんて」

「勘弁しろよ。ありゃ機嫌良い時は札束、キレてたら灰皿で殴ってくるタイプだぜ」

「…ボコボコにされてあの人のこと、嫌いになった?」

「嫌いも何もよく知らないし…まあナインと同じ魔法使いってだけあって、凄い奴だと思った」


 その後は、ナイン特性の飲み薬を飲んでベッドから一度も降りることはなかった。

 それにしてもかなり痛い…どんな状況でも、人を侮辱してはならないと学んだ一日だった。

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