第63戒 呪われた代償と重なる災厄
「あ、あの・・・どうしたのですか?」
陽炎は聞いた。
『なんでもないよ〜♪』
そんな返事が帰ってくる。陽炎は弱気なせいか、すごく気になって怖くなってきていた。
「あ!」
「はいぃ!すみません!」
咄嗟に謝ってしまった。
「あぁ、ごめんごめん。驚かす気はなかったんだ。それより、ゲームしようよ」
「げーむ?」
「そ、このトレンフで」
そう言って出してきたのはトランプにそっくりなカードだった。陽炎が今の状況になっていなかったらツッコんでいるくらいそっくりだった。
「あの・・・お借りしても・・・」
「良いよ♪」
陽炎はカード1枚1枚を見つめた。ジャック、クイーン、キング、ジョーカーの絵柄が違うだけで他は全ておなじ。スペード、クローバー、ダイヤ、ハート、全てのマークと数字が同じだ。
「これ・・・私、できるかも・・・しれません」
「ほんと?じゃあ勝負しよ。負けたら罰ゲームね」
陽炎は小さく頷いた。確かに陽炎はカードゲームは強かった。トランプも例外ではない。トランプは何をやっても強かった。でも、それは男の時であって今の真反対の陽炎は当然弱い。無敗だったため、反対になって無勝になってしまったのだ。
「あ、あれ?また・・・」
「フフん、また私達の勝ちね。はい罰ゲーム♪」
これで7回目である。1回目はこちょこちょ、2回目はケツバット、3回目は顔に落書き、4回目は拘束される、5回目は体中に落書き、6回目は鼻フックで20キロの重りを吊るされた。そして、7回目は顔面パイだった。
「うぶぇっ!」
悲痛な叫びが続いて聞こえる。パイが辺りに散乱して陽炎の顔から落ちる。
『あははははは!』
「・・・うぅ・・・うわぁぁぁぁん!」
陽炎の目が潤んだかと思うと、大粒の涙を流して泣き出した。
『ごめんね!そんなつもりはなかったんだ!ごめんね!』
テム達も慌てて謝ったが、泣き止む様子は無い。
「なんか調子狂うなぁ・・・」
テムは小さく呟いた。
「陽炎様、問題が・・・」
「ひぃっ!」
「あ、申し訳ございません!」
ギルシアは入ってくるなり謝罪をした。でも、どちらかと言うと悪い訳では無い。かなり焦っている様子だ。ドアも壊れそうな威力で開けていた。息もかなりきらしている。
「何があったの?」
「それが・・・冒険者が・・・今日は魔王様とクエストに行きたいと言っておりまして・・・」
かなり焦った様子でいる。
「そんなの、断ってしまえばいいじゃない」
「それが、なかなか信用して貰えず城の中まで入ってきてしまったんです」
「嘘でしょ!?今すぐに行くわ!」
3人がギルシアに連れられ行ってしまった。陽炎はわけも分からずその場に取り残されてしまった。
城のエントランスでは暴動が起きていた。冒険者達が奥まで入ろうとしている。δが結界を作っているから入ることは出来ないが、それでも入ろうとしてくる。
「何が起こってるの!?」
ルーシャが聞いた。
「分かりません・・・1人の冒険者がまるでなにかに取り憑かれたかのように入ってきたのです。そしたら、波のように皆入ってきて・・・」
「どうにかしないと・・・」
3人は少し慌てたがすぐに落ち着き声をかけようとした。しかしやめた。近づけば何かをブツブツ呟いていた。聞いてみると、ずっと魔王様と言っている。それが、とてつもなく恐ろしく足がすくんで踏み出すことが出来なくなったのだ。
「み、皆・・・目を覚まして!」
テムは訴えた。しかし、全く聞こえていない。そして、遂に結界にヒビが入った。
「ダメッ!テムちゃん逃げて!」
「っ!?」
咄嗟に後ろに逃げた。壊れる寸前で逃げたから被害はなかった。でも、このままでは冒険者達が入ってきてしまう。
「どうしよう・・・」
「こ、これは・・・?」
後ろから聞きなれない声が聞こえた。振り向くとそこには陽炎がいた。
「かーくん!?ダメッ!出てきたらダメ!今すぐ部屋に戻って!戻らないとお仕置だよ!」
テムはそう言って怒る。だが、陽炎は戻らない。何故か、動きたくない気持ちだった。記憶はないのに、何故か自分の大切なものを汚されているようなそんな気がした。それに、この冒険者達にも見覚えがある。
「私の・・・国民・・・?っ!?」
その時、一瞬だけ記憶が戻った。何かが頭の中に入り込んでくるような、戻ってくるような気がした。
「おい、γ!言霊魔法で俺の声を大きくしろ!」
「は、はいっ!」
「”目を覚ませ!”」
その一言で冒険者達は目を覚ました。自分達が何をしていたかは覚えてないみたいだ。皆右往左往して慌てている。
「慌てるな!お前達は何者かに操られていたようだ。魔王の妹がお前らに命ずる!お前達に魔法をかけたものはこの国の脅威となりうる存在だ!見つけ次第拘束しろ!」
『了解!』
そして冒険者達は行ってしまった。陽炎達は部屋に戻ろうとした。しかし、それは出来なかった。突如陽炎がとんでもない頭痛に襲われたのだ。
「うぁ・・・がっ・・・あ・・・」
呻き声を上げ頭を押える。
「陽炎くん!?」
急いで近寄る。すると、徐々に痛みは小さくなっていき記憶もどんどん消えていく。そして、痛みが完全に無くなる頃には女の子の陽炎に戻っていた。
「・・・あれ?皆さんはここで何を・・・?」
「っ!?い、いや・・・なんでもないよ・・・」
陽炎は少し不思議そうな顔をしたがすぐに納得したような顔をして頷いた。そして、少し微笑んでテム達の頭を撫で始めた。
「・・・もう嫌だよ・・・こんなのかーくんじゃないよ・・・」
「そういえば陽炎さんは明日、私達と結婚するって言ってたよね」
フェルルが言った。
「そんなの、今のかーくんじゃ無理だよ・・・」
テムは泣きながらそう言った。そう言うしか無かった。
「これが、大きな力の代償・・・世界を改変した代償・・・」
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!私が・・・私があんなことしたから・・・私のせいで魔王様はこんなことに・・・全て私の責任です!私が・・・私が全て悪いんです!」
ギルシアはそう言う。そんなことはないよ。そう言っても、もうギルシアには聞こえない。自分を責めてしまって周りの声は何も聞こえない。それに言っても自分を責める。その場の全員が黙り込んだ。
「・・・でも、きっとかーくんは戻ってくるよ。だってかーくんは魔王なんだから。最恐の・・・私達の自慢の魔王なんだから・・・」
陽炎以外の皆は頷いた。その言葉は皆にとって希望だったから。陽炎は何が何だかわかってなかった。
「あ、あの・・・」
陽炎は何か言おうとしたがそれは最後まで言い切ることが出来なかった。なぜなら、どこからかとてつもなく大きな爆発音が聞こえたから。咄嗟に音がした方を見に行くと、爆煙が上がっている。それは遠くからでも分かるくらい大きな煙だった。
「一体何が・・・」
「緊急事態です!」
皆が慌てているとζがさらに慌てて姿を現した。
「はぁ、はぁ・・・緊急事態です!何者かが旧王都に向かって攻撃を仕掛けています!」
「詳しく話してちょうだい!」
テム達はすぐに落ち着くと陽炎の部屋・・・ではなく会議室へ向かった。
━━会議室に着くとすぐに席について話が始まった。しかし、陽炎は全く役に立たないのでμが部屋に閉じ込めておいた。
「それで、どんな人達が来たの?」
「分かりません・・・何か、杖のような槍のようなものを持っていました」
「杖のような槍のようなもの?」
全員不思議そうな顔をして首を傾げた。ただし、ギルシアを覗いて。
「ギルシア、どうしたの?」
「あ、い、いえ・・・なんでもありません」
「嘘でしょ。今すぐ言って」
「ですが、まだ確証がある訳では・・・」
「良いから言いなさい!」
テムは叫んだ。その声でその場の空気がピリついた。
「・・・はい。実は、その武器に少し心当たりがありまして・・・」
ギルシアは静かに話を始めた。
「ねぇζ、その武器ってどんな材質だったの?」
「材質ですか?えと・・・植物のようなものでしたが・・・それが何なのですか?」
「いや、今ので確証を得たわ。恐らくその武器を持った人はロキよ」
ギルシアの口から出た言葉は驚きの事だった。なんと、先日陽炎を追い込んだロキがまたやってきたのだ。しかも、陽炎が使えない状況で。
「まさか、このタイミングを狙ってきたの?」
テムは独り言を呟いた。それを聞いたディリーは1つ考えが浮かんだ。
「それなら、私達の中にスパイがいるってことじゃない?」
その場の全員がハッとした。確かにそうなのである。大魔界帝国はサモナール王国を吸収したと言っても神聖十字王国とはかなり離れている。それでも、陽炎の今の状態を知っていたというのならスパイがいる可能性は大きい。
「そんな・・・どうしよう・・・」
「かーくん・・・お願い、早く戻ってきて」
テムは静かにそう呟いた。
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