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十六夜(いざよい)

 フラワーボーイとフラワーガールに先導されて花嫁が入ってくる。

 花嫁衣装の衣都が父親と共に現れた。

 祭壇の前で待つ花婿の元に向かう。

 衣都の人生設計が見事に完成した瞬間だった。

 結婚式は滞りなく終わった。

 蒼海とまひるは教会から出てくる花婿と花嫁を待っていた。

 まひるは少し大きくなったお腹を隠すようなゆるめのドレスを着ている。まひるの横には、さっきフラワーガールを務めていたあさひとフラワーボーイを務めた直貴と御門野の姿もあった。

 あの雪の日から四年。

 まひるは高校卒業した後、蒼海と結婚した。

 陽が学生だからと結婚になかなか首を縦に振ってくれなかったけれど、まひるの驫木の祖母が仲介に立って、ようやく二人の結婚が認められたのだった。

 ただ、祖母の仲介には蒼海がまひるの養子となるという条件が付いていた。蒼海は元の名字に戻るだけだから特に抵抗なく日比野になってくれた。

 驫木の祖母は、亡くなった星夜さんの面影を蒼海に重ねているようだ。そのせいか蒼海をとても気に入っている。いずれ驫木グループの経営を任せたいようだ。

 蒼海は無事医大を卒業して、この春から驫木グループの病院でレジデントをしている。

「御門野さん、直貴君のフラワーボーイとても可愛かったわ」

 直貴は御門野が戻った10ヶ月後に生まれた。子どもの父親は平安時代の夫の直親だった。

 御門野曰く直貴は直親にそっくりだという。

 直貴は男の子にしては綺麗な顔をしているので、御門野は面食いだったのだと皆の意見が一致していた。

「あさひちゃんのフラワーガールも可愛かったよ」と御門野が言う。

 まひるは結婚した翌年にあさひを出産した。

 あさひは直貴に「男のくせに女の子みたい」と文句を言っている。二歳なのにとても口が達者である。そして、直貴に文句を言っている姿は、紛れもなくあさひだった。まひるが長年言われていたことを、いまは直貴に言っている。まひるは思わず苦笑してしまう。

「あさひ、そんな事を言ってはダメよ」

 まひるがあさひに注意をする。

「おかーさんは黙ってて!」

 あさひは蒼海や小夜の言うことは良く聞くのに、まひるの言うことはあまり聞いてくれない。本当にあさひがそのまま生まれ変わったみたいだった。

 そこへ、朔が女の子を連れて現れた。

 女の子の髪は銀色で、目は青と翠のオッドアイだった。

「あら、朔さんお久しぶりです」

 まひるが挨拶をする。

「朔殿、その子は?」

 御門野は驚いた様に尋ねる。

「妹です」

(いち)の子ですか?」

 朔が頷いている。

 一とは朔の母親のことだ。

「13月様と仲良くやっているのですね」

 御門野の言葉に朔が嫌な顔をする。

「仲は良いですよ。おかげで僕は子守です」

 さも嫌そうに朔が言った。

 あさひが朔を見て「何しに来た」と睨んでいる。こんな所もあさひだ。

 朔は「あさひ、妹と遊んでくれる?」と朔は抱いていた女の子を下ろした。

 あさひは女の子に興味を持った様だ。女の子の手を引くと離れていった。

「あさひは相変わらずあさひですね」

 朔の言葉に苦笑いしか出来ない。

「朔さんも衣都の結婚式に呼ばれたのですか?」

「いいえ、私は御門野さんに用事があってきたのです」

「私に?」

 御門野が驚いた様に尋ねた。

「ええ、御門野さんは私が直親にあげた青い玉を覚えていますか?」

「一つだけ願いの叶う玉ですか」

「そうです。それを直親が使ったのです」

「そうなのですか、それで?」

「直親があなたに帰って来て欲しいと願いを掛けました」

「向こうで、何か有ったのですか?」

 御門野が不安な顔をする。

「詳しいことは赤様に聞いて下さい。用意が出来たら山に来て下さい。あの時代におくります」

「分かりました。戻って、赤様に聞いてみます。直貴、お母さん用事が出来たので帰りますよ」

 御門野は直貴を連れて急いで帰っていった。

「大丈夫ですかね、御門野さん」

「大丈夫ですよ。私も赤様から聞いてこの日の来る事は知っていました」

「そうなのですか?私たちは、またあの山で待たないといけないのですか?」

 まひるは少しだけ不安になって尋ねた。

「いえ、今度は大丈夫です。それに帰ってくるのはずっと後になるので心配しないで下さい」

 朔は妙に自信ありげに見えた。

 朔は御門野が帰ってきた後、御門野の家に行き赤様に会っていた。そして、宝が現代に戻った後の話を聞いた。

 赤様は、宝本人には話せないことも朔には教えていた。だから、朔は御門野の今後についてはそれほど心配していなかった。

「分かりました」

「それより、蒼海にまひる」

 朔は改まって蒼海とまひるを見た。

「お腹の子の名前を“(ゆう)”と名付けてくれますか?」

「“夕”ですか?」

 蒼海とまひるは突然の話しに驚いていると、

「そして、彼女が大きくなったら私のお嫁さんに貰いたいのです」

「朔さんのお嫁さんですか?」

 さりげなく話す朔に戸惑いを覚えた。

「彼女は巫女で私の初恋の相手でした。とても悲しい運命を持って生まれました。私が彼女と会ったのは、彼女が死ぬ一ヶ月前でした。彼女は生まれ変わることが出来たら私のお嫁さんになりたいと言っていました。彼女は御門野さんのように見えない物が見えますが驚かないで下さいね」

 まひるも見えない物が見える方なのでそれは驚かないが、朔のお嫁さんになる方がもっと驚いた。

「朔、またおかーさんに変なこと頼んでいるんでしょう。妹が生まれたって、絶対朔には渡さないからね」

 いつの間にか戻って来たあさひが朔を睨んでいる。

「朔さん、私たちよりあさひの機嫌を取っておいた方がいいかも・・・」

 あさひの性格を知っているまひるは困った顔をした。

「“夕”は私を裏切らないと思いますので、その辺は大丈夫と思うのですが・・・」

 朔は詰め寄るあさひから少し距離を取った。

「おにーさま。つまんないから早く帰りましょう」

 朔の妹も少し不機嫌な顔をしている。

「そうだな、御門野のこともあるから帰るか」

 朔は妹を抱くと、来たときと同じようにいつの間にかいなくなった。

 そこへ今日の主役の二人が姿を見せた。

「おめでとう、篤君に衣都」

「ありがとう、お兄様お義姉様」

 そう、今日の主役はこの二人。

 衣都は幼稚園のシンデレラの頃から王子様の篤一筋で、乙女ゲームも決してヒロインではなく、悪役令嬢に肩入れして、王子様ルートの攻略にいそしんでいたらしい。

 篤は幼稚園の頃からまひると仲が良かった。衣都は篤を攻略するためには、まひるが篤以外の誰かとくっつかないと無理だと思っていた。

 その相手を蒼海にしたのは、蒼海がまひるを好きかも知れないと思ったからだ。蒼海だったらまひるを攻略出来ると思ったらしい。

 蒼海とまひるが結婚すると聞いたときは、隠れてガッツポーズをしたくらいだ。それからは迷うことなく、篤攻略を続けたらしい。

 そのかいあって、今日めでたく結婚式を迎えることが出来た。

 まひるは人の縁は不思議なものだと思った。

「ねぇ、“夕”は朔さんのお嫁さんになれると良いね」

 お腹に手を当ててまひるは呟いた。

 するとトンとお腹の中で“夕”が返事を返した気がした。


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