孤独
あっけらかんとしたその態度に、笑い声に人間らしさを感じて安堵する。
直後、へたりとその場に崩れ落ちた。
「あ、あれ?」
疑問符が浮かぶ。
立ち上がろうとしても腰が上がってくれない。
そんなイリスを見てマードッグは屈んで顔の位置まで視線を合わせた。
「無理しなくていい。さっきまで散々だったろ。無理もない。」
親しかった人間からの罵倒、故郷からの逃避行、命の危機、
幼い少女に与えられるにはあまりにも過酷すぎる悲劇。
思わずイリスの瞳から涙がこぼれた。
マードッグは何も言わずにただ、イリスの頭を撫でた。
優しさに、嗚咽が、慟哭が漏れる。
「がんばったんだよ?」
「ああ。」
マードッグはただ、頷いた。
「褒めてくれるって、皆に凄くなったんだぞって、それで・・・!」
「そうか。」
支離滅裂で言葉が纏まらない。
「どうすればよかったの?
頑張っても怒られて、追い出されて、これからどうすればいいの!?」
行く当てもない。
生きる意志も尽き果てた。
「なら、俺と来い。」
真正面から瞳を覗き込みながらマードッグはそう言い放って、手を差し伸べた。
力強い言葉が、真剣な眼差しが、今は心地良く感じた。
差し伸べられた手を取ろうとして、一瞬、心に迷いが生じた。
この手を取ったとして、いつかまた追いやられるのではないか。
触れかけた手がほんの少し、離れた。
「あ・・・」
放してしまった。
差し伸べられた救いの手を。
咄嗟に否定の言葉を出そうとした。
違う、と。
助けて、と。
・・・声が出てこなかった。
口に出して突き放されたら、今度こそもう立ち上がれない。
それならいっそ、最初から掴まない方がマシなんじゃないか。
思わず顔が俯く。
そうだ、もういっそこのまま離れていってしまおう。
どこか遠く誰も居ない場所へ静かに消えていってしまおう。
そうすれば誰にも責められる事はなくて、
こんな苦しい思いも消えてくれる。
・・・違う。
ただ、褒めてほしかった。
他人に置いて行かれるのが怖かった。
皆が当たり前に出来ることが自分には出来なくて、
疎外感を感じた。
頑張ったねって、褒めてもらいたかった。
皆と一緒に歩んでいく事を夢に見ていた。
だから我武者羅に頑張った。
その感情は今でも消えてはくれない。
独りでいるのが嫌なんだ。
放しかけた手を、マードッグの眼をもう一度見つめる。
怒っていないか不安だったから。
彼の眼は非難する意志などまるでないと言わんかのばかりにじっとこちらを見つめていた。
彼の手を取って、答えた。
「助けて・・・」
声が震える。絞り出すように小さく零れていった声。
届かなかったんじゃないか、と不安になった。
だが、それでも。
「わかった。」
彼はそんなことを言って微笑んだ。
張りつめていた緊張が完全に途切れて、意識が落ちていくのを感じた。