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ロストシナリオ  作者: RO
4/33

奇跡の否定者


イリスの心は歓喜に打ち震えていた。

ようやく自分は魔術を体得するに至ったのだと。

母の背に追いすがることができるのだと。


「〜〜〜!」


声にならぬ声が噛み締めるように閉じた唇から漏れ出す。

暫しの無言の末堪えきれぬとばかりに吠えた。


「やった、やったぁ!!ついに出来た!!」

幾度となく歓声を漏らす。

だが、そんな様をクツクツと笑いながら眺めていたマードッグがふと、釘を差した。


「喜ぶのは良いが、そろそろ朝礼の時間なんじゃねえのか?」


刺された釘に慌てて時間を思い出す。

朝の鍛錬と講義の時間を考えれば、今の時間は···


「···ち、遅刻だぁ~~~!!!」


大慌てで飛び出していくイリスについに堪えきれぬと、

カハハと大笑いを醸し出す。

あまりにもあんまりだと思わず怒りが込み上げてくるが、

ふと疑問に思ったことを思い出し振り返り問いかけた。

勿論、聞きたいことは山ほどあった。

なぜこんな場所にいるのか、とか。

何者なのか、とか。

何故学問所の時間を把握しているのか、とか。

だが、それを追求するにはあまりにも時間が足りない。

だからたった一つ、こう問いかけた。


「どうしてマードッグはあたしを助けてくれたの?」

マードッグは、「あー、ん~」と、ほんの少し言葉に詰まったが、

少しすると照れくさそうに頬を搔きながら答えた。



「まあ、好きでやってるだけだ。」


誤魔化された。

そう感じたが、何故だか不信感が湧かなかった。

照れくさそうなその顔が、どうしても悪意を持っているように見えなかったからか。

「じゃあね」というと、彼は「ああ、またな」と手を振り返した。





-----





遠ざかっていくイリスの姿が見えなくなった頃に、

唐突にその表情から笑みが消えた。

次に浮かび来るのは、哀憐。


「すまんな。」


イリスの跡を追うその視線は、

ただただ悲痛に満ちたものだった。





ーーーーー





やっとこさ学問所にたどり着いたイリスを待ち受けていたのは、

フレイ婆さまの有り難いお説教だった。

一応イリスは優等性の部類であった為、珍しい事もあるものだと比較的軽いもので済んだが、説教が終わった頃にはご機嫌などはどこかに失せ、憂鬱に満ち満ちていた。


共に学問所に通う学友達が、珍しいこともあるものだと、カラカラと嗤ってきた。

不服を示すように頬を膨らませると、「ごめんごめん」となおざりに笑って受け流す。

「にしても、ほんとに珍しいね、遅刻なんて。寝坊?」

「ううん、のめり込み過ぎちゃって。」

一言で察した様子であぁ、と溢すと、気を遣ってかわざとらしく嘲笑った。

「ほほぅ、のめり込み過ぎて、ねぇ。それはさぞ調子が良いのでしょうねぇ。」

ニヤつく顔にムッとして、胸を張って答えた。

「聞いて驚け、ようやくサンダーショットが使えるようになったのだ!」

学友達が思わず目を丸くした。

「え、嘘?」

あまりに突拍子の無い話につい疑ってかかってくる学友達が癪に障り、

イリスは張り合ってしまった。

「じゃあ実技授業でみせてあげるもんね!!」


迎えた実技授業。

「よし、みな揃ったな?それでは今日はフレイムアローの修了試験じゃ!」

フレイ婆さまの号令で、皆が皆、思い思いにフレイムアローを使っていく。

婆さまがうんうんと試験の様子に満悦の様子ななか、遂にイリスの手番が回ってきた。

「それではイリス・フラネット!」

名前を呼ばれて、標的として置かれた丸い的の前に立つ。

的まで距離にして20メートル弱といったところだろうか。


学友達のどうせ何時ものだろう、とこそこそ話がしてくるのが聞こえてくる。

試験という都合上、サンダーショットではないが仕方ない。

今日こそ見返してやろう。

そんな反骨精神からいつも以上に気合を入れる。


そうして朝習ったことを反復しながらゆっくりと的に狙いを定める。



---蜘蛛の巣が、腕の先に集まってくる。

---蛇口から、魔力が流れ出す。


朝言われたイメージの話が事実なら、蛇口が広ければ使える魔力はそれだけ増える。

そう考えたイリスはビックリさせてやろう、と、わざと蛇口を広くした。


掌に焔が塊となって形作っていく。今日の試験の中でも最も大きな塊だった。

それを今度は矢の形に形作っていく。

そうして最後に、打ち出す。



今日一番の威力を持ったそれは、的を射抜くと大きな火柱を打ち上げた。



「やった!」

どうだ見たか、と、威張り散らしてやろうと振り返る。
























シンと静まり返った学友たちの、ジトリと、睨むような視線が目についた。

そこには成功させた学友を祝うという意思は一切なく、ただ、悍ましいものを見るような眼だった。

困惑した。何故そんな眼を向けられなければならないのかと。

答え合わせは、その場の主たるフレイ婆さまの言葉だった。


「・・・イリス、今、何をした。」

まるで怒りに震えるような声に身震いした。

「フ、フレイムアローだけど・・・」

「今、()()()()()()()()()。」

学友たちの間からざわめきが沸き起こる。

次いで、怒号が上がる。


「冒涜者!!」

「・・・え・・・?」

言葉に詰まった。何故罵られなければならないのか。

「祈りも捧げずに魔術(奇跡)を起こすなんて、神への冒涜よ!!」

「異端者だ!!」



イリスは間違いを犯した。

せめて、振りだけでもしておくべきだった。

奇跡を神威だと信じた者たちの目の前で、奇跡を『引き起こして(否定して)』しまった。

怒声が伝播し、場が完全に怒号に包まれた。







「ちが、あたし、そんなつもりじゃ・・・!!!」


喜ばれると思った。

漸く魔術を使えるようになったことを。

褒めてもらえると思った。


だが、実際はこうだ。

誰一人としてイリスを敬うものはいない。

イリスの起こした()()を否定して、己の()()を盲信する。


恐怖が込み上げる。

さっきまで笑いあっていた人達からの憎悪が一身に突き刺さる。

幼き少女にとって、それは耐え難いものだった。

責め立てる声に耐えきれなり、イリスはその場から逃げ出した。

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