愚者
街中をサイレンが賑やかす。
夕焼けは既に沈んで消え、月の明りが世界を照らし出す。
ほんの少し肌寒く感じる空の下、マードッグは停留している戦艦の上から
騒がしい世界を座り込んで見下ろしていた。
「随分派手にやったそうだな。」
背後に視線すら向けない。
カーンはマードッグの傍らに無造作に置かれた二丁の銃に目をやる。
リングベルト式の弾帯と共に置かれたそれは大戦後、
魔物との交戦を前提に作られた機関銃。
魔物との戦闘に置いて、魔物の圧倒的な物量、火力の不足が大きな問題となった。
そこで開発されたのが20mm機関砲。
それを無理矢理歩兵用に落とし込んだのがこの『OSー06』。
100㎏オーバーの怪物銃まで持ち出してこの男は魔物の討伐に当たっていた。
「お陰様で被害は死傷者12名程度で済んだらしい。よくやった。」
「そいつはどうも。」
鬱陶しい。そう感じる声音。
何を言われるかは知っているのだろう。
「散々走り回ったそうだな。貴様が交戦していた西地区と東地区は特に魔物が多かったそうだ。出張らなければ死者は三桁まで増えていただろう。」
「お褒めの言葉どうも。」
賛辞に対する返礼は憂鬱を隠しもしない形だけの感謝。
「貴様が拾ってきたあの小娘。南地区に居たそうだな。
あそこは北地区に比べると多少魔物が多かったらしいぞ?
貴様の部下の到着が遅れていれば二桁はあの地区だけで死んでいただろうな。」
「そいつは良かった。優秀な部下のおかげで命拾いしたな。」
感情の感じられない声で惚けるマードッグに、カーンは侮蔑の笑みを浮かべた。
「そういえば北地区で死者が出ていたな。あの小娘の友人だったそうだが。
これも予定通りか。」
答えの判り切った質疑を投げかければマードッグは無意味な沈黙を続けた。
「まあそれも当然か。貴様の『瞳』が間違える筈も無い。
さしずめあの少年は必要経費だったわけか。」
漸くマードッグはカーンに目を向けた。
見るものが恐怖するような底冷えするほど冷徹な視線。
そんな視線もカーンには滑稽なものに思えて仕方なかった。
「貴様が何を企てているかは知らん。
だがグランダムを脅かすというならその時は・・・」
---必ず殺してやる。
用は済んだと言わんばかりに踵を返す。
最後に一瞥すると、一言教示する様に告げた。
「余計な事を考えるな。貴様が動くとロクな事にならんからな、『愚者』。」
カーンが消えていった方を一瞥すらすることなく、興味なさげに街を眺める。
漸く落ち着きを見せたサイレンの音。
段々薄れていく警報の音に紛らわせる様に溢した。
「うるせぇな・・・分かってる・・・問題ない。」
誰も居ないはずの空間。
まるで誰かに話しかける様に溢した声の宛先を知るものは当人を置いて他に無し。




