不可視の夜
グランダム上空は夜を回ってもまだ明るい。
急な夜襲を警戒して常に番だけは欠かさない為だ。
グランダムの直上を一機の飛空艇が飛ぶ。
「この辺りですね。」
飛空艇の中で、真っ白な髪を靡かせた少女が呟いた。
幼いながらもどこか神秘を纏う様な雰囲気を醸し出す少女。
少女を中心に戦闘用の防弾アーマーを身に纏った男達が忙しなく
飛空艇を操縦する。
「困ったことになったね。」
そんな少女と瓜二つの少年が苦い顔を浮かべて呟いた。
少女達はある目的の為に世界各地を潜伏していた。
だがどんな術を使ったのか知らないが、
聖王国が少女を見つけ出し所持していた遺物を強奪しに襲撃してきたのだ。
聖王国。
神の威を借り遺物を奪い去るその様は最早神威の面影などなく、
さながら獲物に群がるハイエナの方が良く似合う。
「隠蔽の遺物は問題なく稼働しています。
恐らくは遺物を検知しうる遺物を手に入れた、と考えるのが妥当かと。」
男達の一人が提言する。
男の言う通り、この船には隠蔽の遺物が組み込まれており
透明化することが可能だ。
だが聖王国は透明化した船を捕捉し狙い撃ってきたのだ。
対抗策を持ってきたと考えるのは当然だった。
これからは奴らの眼が光ると考えるとより一層動きづらくなるだろう。
辛うじて砲撃の雨を搔い潜り振り切ってきたが、更に予定外の事態が起きた。
目的の最後の欠片を求めリスフィを訪れた。しかし最後の欠片は少女達の眼前で奪われた。桁違いの規模を誇る飛行戦艦、手を出すことも叶わなかった。
少女は眼前に置かれた球体に目をやる。
世界地図が描かれた球体。
その中に三つの点が浮かんで移動と停滞を繰り返していた。
そしてそのうち二つの点がここグランダムの座標に留まっている。
「刻限は1年。急がなくてはなりません。」
疑問は尽きない。
最後の欠片は私たちからすれば重要だが、
他からすればただの一人の人間だ、そんな相手を態々攫ってのけた理由。
そして何より、グランダムがそれを仕出かす理由。
疑問を片付ける余裕は無い。
戦火で打った鋼は恐ろしい程の強度へと成り果てた。
その鋼に、これっぽっちの戦力で潜り込まなくてはならない。
いっそ笑えてくるものだ。
「周囲の森に一度船を下ろします。着陸を・・・」
言いかけていい加減聞きなれた砲音が響く。
獣の咆哮と鳴り続く機銃の斉射。昼夜なく続く襲撃と迎撃。
これがこの国の日常なのだ。
あの鋼鉄の号哭が私たちに向かえば忽ち血肉の塊と成り果てるだろう。
しかしそれを恐ろしく感じる心は疾うの昔に擦り切れ果てた。
今降りれば獣達の獲物は私たちになるやもしれない。
着陸取り止めの指示を出そうとして、突然後部から大きな衝撃が飛空艇を襲った。
何事か。問う前に答えは返ってきた。
「機関部被弾!!機関部被弾!!エンジンが停止しました!!!」
しくじった。流れ弾に当たったか。
そう思ったが状況があまりにも不自然だ。
流れ弾だとしても、直上に砲弾を打ち上げるものか。
それに被弾位置は飛空艇の後部だった。
下から撃った被弾位置ではない。
ではどこから撃たれた。誰が撃った。
透明人間の正体を暴くには既に墜落を始める機内では時間が足りな過ぎた。
「衝撃用意!不時着します!!」
木々の海に飲み込まれていく。
衝突の衝撃と激しい揺れに、数秒もしないうちに私の意識は遠のいた。
ーーーーー
山岳地帯の岩山の一つ、身を隠すように雲一つ無い空を見上げる男が一人。
十字架を背負う男は異形の腕に持った硝煙を漂わせる銃を肩に担いだ。
それは銃と呼ぶには御幣があるかもしれない。
砲
そう呼んだ方が良いかもしれない。
大戦後期、兵器開発局はとある兵器の開発に着手した。
歩兵の火力の向上を図るべく兵装の改造を行った。
その過程で生まれたのが、砲身をそのまま銃身へ転用できないかというもの。
馬鹿げた構想であった。
当然そんな重量の兵器を使える人間など居るものではなく、
量産は為されなかった。
だが、試作品として構成されたそれを扱える人間が数人居た為、
物好きな馬鹿共によって密かに改修を繰り返されてきた。
そうして生まれたのが30cmライフル。
そんな馬鹿げた兵器を使ってのけた男は、
煙草を吹かしながら唐突に木々がへし折れていった森を眺める。
その瞳は煌煌と妖しく金色に輝いていた。




