白いケモノは王様とお話をしました。
三日後。
シロは王様が結婚することになったと、メイドさんから聞かされました。
塔の下では、結婚式の祝賀パーティの準備をしています。黒いケモノたちは、お花を持っていて、みんなとても楽しそうです。
「わー、みんなの尻尾がブンブンしている」
「シロさま、このドレスに着替えましょう」
メイドさんが真っ白なウェディングドレスをシロに着せました。
「白いドレス……王様はドレスが嫌いじゃないの?」
「このドレスは大丈夫です。ご安心ください」
シロがきょとんとしていると、正装した王様がやってきました。
メイドさんは、そっと部屋からでていきました。
王様の黒い尻尾はブンブンしています。
それを見て、シロは嬉しくなりました。
「王様、王様。王妃様はどんな方ですか?」
王様の尻尾がとまりました。
「王様はとても強くて立派なので、王妃様はさぞかしキレイなんでしょうね」
シロは短い尻尾をフリフリします。
王様は遠くを見つめる目になりました。
深い、深いため息をだして、肩を落としています。
「王様、どうしたのですか?」
王様はキリッとした顔になると、シロの首輪と足枷を外しました。
「王様?」
王様はシロの前で跪きます。
シロの手をとり、指輪をはめました。
「シロ……三日間かけて城の者を脅し……いや、説得した。やっと、おまえを后に迎えられる」
シロの尻尾がぴたりと止まりました。
「王様がしゃべったあああ!」
「今まで無言で、すまなかった」
「しゃべってるううう!」
「実は、おまえの前ではしゃべれない呪いを兄上にかけられていたんだ」
「へ? お兄さまが、呪いを?」
「あぁ、兄上は昔から俺を嫌っていたんだ。くそっ。いなくなって、せいせいする」
「そうなのですか? お兄さまは優しい方でしたよ?」
「優しいって……なぜ、シロが兄上のことを知っているんだ?」
「お兄さまは、シロに会いに来てくれました」
王様の顔が青くなります。
「シロ……! 兄上に、おなかを触らせたのか!」
「いいえ」
王様の尻尾がブンブンしました。
「そうか……よかった。もしシロのおなかを触っていたら、兄上の住んでる隣国に乗り込みに行くところだった」
「ん? お兄さまは隣の国にいるのですか?」
「いる。手紙が来たんだ。もう結婚して、子供がいる。兄上は昔から、女性の前ではキザな態度をするんだ。そのうえ腹黒で、ちゃっかりしている」
「お兄さまはパパになったのですね。それは、よかったです」
「よくはない」
「へ?」
「兄上のせいで、シロと話せなかったんだぞ。俺に呪いをかけたときの、あの黒い笑顔。……思い出すだけで、むかつく」
「お兄さまは困った人なのですね。でも、お兄さまがいなくなったとき、王様は泣いていたじゃないですか」
「……あれは、やっと呪いが解けると思ったら、嬉しくて」
「まさかの歓喜!」
王様は唇をとがらせました。
「しかたないだろ。シロと話をしたかったんだ」
シロは短い尻尾をフリフリしました。
「シロも王様とお話をしたかったです」
王様の尻尾が、ぐるんぐるん、回りました。
三回まわると、尻尾がへにょんと、たれてしまいました。
「どうしましたか?」
「その……俺がしゃべらなくて、シロは嫌なきもちにならなかったか?」
「いいえ」
シロは笑顔で尻尾をフリフリしました。
「シロは王様を嫌になったことは、一度もありません」
王様の尻尾が荒ぶりだしました。
「……シロっ」
「でも、呪いが解けても、王様はしゃべらなかったですよね? どうしてですか?」
王様の尻尾が、ぴたっと止まりました。
目がそらされてしまいます。
「……しかたないだろ。シロはどんどんキレイになるし……シロを見ると、可愛いしか言えなくなった……」
王様は耳までぺったんこにしました。
「可愛い、可愛いしか言わないオスなんて、……格好が悪いだろ?」
シロはふふっと、笑いました。
「シロは王様の言葉なら、どんなことでも嬉しいです」
王様は、尻尾を高速でブンブンさせました。
「じゃあ、俺が可愛いしか言わなくなってもいいのか?」
「はい」
「本当に俺は! 可愛いしか言わなくなるぞ!」
「いいですよ」
王様は顔を真っ赤にして、頭を抱えました。
「ダメだっ、可愛いすぎる……!」
「シロが可愛いとダメなのですか? ブサイクになりますか?」
「シロはブサイクになりようがない。可愛い、イコール、シロだ」
シロは短い尻尾をフリフリさせました。
「へへっ。可愛いと思われてうれしいです。シロは王様をきちんとノーサツできていたのですね」
「悩殺……だと?」
「はい」
「まさか、あのセクシーな服は俺を悩殺させるためか!」
「はい」
王様は深いため息をはきました。
「俺は出会った瞬間に、シロに悩殺されている。心配しなくていい。セクシーな格好は、俺の前だけにしてくれ」
シロは短い尻尾をフリフリさせました。
「ふふっ。シロは王様をいちころにしちゃったのですね。やったあ」
シロの笑顔を見て、王様は「可愛い……」と何度もつぶやきました。
怒涛の可愛い連呼が終わると、王様はとろんと蕩けるような笑みを浮かべました。
「シロがいてくれたから、俺は笑えるようになったんだ。シロ、愛している。俺の后になってくれないか?」
王様の尻尾はブンブンしています。
「はい。喜んで」
シロは短い尻尾をフリフリしました。
「今まで閉じ込めていた分、幸せにすると誓う。皆にお披露目しよう」
王様はシロをお姫様抱っこしました。
出会った頃の抱っこを思い出して、シロはドキドキしました。
部屋を出ると、尻尾をブンブンさせて、メイドさんが拍手をしてくれました。
「ようやくですね。おめでとうございます」
「ありがとう!」
シロは満面の笑顔になりました。
塔の外に出ると、黒いケモノたちは歓声をあげて、花びらをふたりに向かって投げました。
「おめでとうございます!」
「シロさまって……きれいだわ……」
「さすが森の女神さまの子供じゃ。ありがたい。ありがたいのお」
黒いケモノたちの様子を見て、シロは顔をくしゃくしゃにして笑いました。
「みんな尻尾がブンブンしています。仲良しですね」
「そうだな。脅したかいがあった」
「脅し」
「脅したくもなる。王として十年間の平和を治めろ。そうすればシロを后にできると聞かされたとき、俺はキレた」
「なんと、そんなことがあったのですね。よしよしです」
「……もっと、よしよし、してくれ」
「よしよし」
「……ありがとう。でも、シロを后に迎えるためなら、頑張れた」
「シロのために頑張ってくれたのですね。ありがとうございます」
「シロの為ならなんだって、やってやる。だから、シロ」
王様は艶やかな笑みを浮かべました。
「今夜は、たくさんおなかをなでてもいいか?」
シロは尻尾をブンブンさせました。
「はい。どうぞ、おなかをなでてください」
その夜、王様は遠慮なくケダモノになりました。
「わっ、わわっ! わー! その触りかたは、恥ずかしいです。優しくなでてください」
「可愛い、シロ。本当に可愛い……」
「王様、シロの話を聞いていますか?」
王様は愛しげにシロを見つめました。
「だから、言っただろ? 俺は可愛いしか言えなくなるって」
「なるほど、こういうことなのですね。……って、わっ、わっ、わー!」
その夜、シロが参りました、と言っても、王様の目はとろけきっていて、可愛いしか言いませんでした。
王様の尻尾は、この上なくブンブンしていました。