白いケモノは大人になりました。
王子様が王様になっても、シロは塔の中にいました。そして、十年の月日が流れました。
大人になったシロは、王様みたいにヒトの顔になりました。ふわふわの毛があったおなかは、ツルツルになり、ヒトの肌になっています。ちょこんと頭に生えた耳と、短い尻尾はそのままです。
「王様とおそろい」
シロは嬉しくなって、王様におなかを見せました。
「見てください。王様と一緒のおなかですよ。王様、王様。シロのおなかをなでてください」
ところが、王様は顔を真っ赤にして、シロの前から走り去ってしまったのです。
「王様が逃げた!」
ショックをうけたシロは、メイドさんに相談しました。
「なるほど。おなかを見せたら、照れて逃げたのですね。はあ……王様ってば、案外、純情なのですね……」
「王様の尻尾、ブンブンしなかった!」
「シロさま、大丈夫ですよ。王様はシロさまをとっても大切に思っていますからね」
「また、尻尾をブンブンしてくれるようになる?」
「なりますとも。キレイな服を着ておしゃれをしたら、いちころです」
「いちころ!」
「尻尾も大変、荒ぶると思います。それはそれは、すごくブンブン振り回すと思いますよ。シロさま、王様を悩殺しましょう」
「わかった。ノーサツする」
さっそく準備にとりかかりました。
シロはおなかに花の香りをつけて、白いドレスを着ました。ピンクの口紅を唇にぬって、お化粧もしました。気合いもじゅうぶんです。
「今日こそ、王様におなかをなでてもらうのです」
シロは短い尻尾をフリフリして、王様を待ちました。
王様が塔にやってきました。
部屋の扉を開いた王様は、シロの白いドレス姿をみて、ぴたっと止まってしまいました。
ドアノブから手を離さず、体をガチガチにしています。目はまばたきもしません。
「王様、シロのおなかをなでてください」
尻尾をフリフリして、シロはツルツルのおなかを王様に見せます。
しかし、王様はぴくりとも動きません。
「王様?」
シロは背伸びをして、王様のほっぺを指でつんつんしました。それでも、王様は動きません。
「おうさまー」
シロは王様のおなかを指でつんつんしました。
筋肉でムキムキの王様のおなかは、びくりとも動きません。
「おーうーさーまー!」
シロは王様の服をたくしあげて、バッキバキに割れているマッチョなおなかを触りました。
びくっと、王様の肩がふるえます。
王様と目が合いました。
シロは短い尻尾をフリフリします。
「王様。王様。シロのおなかをなでてください」
シロがまたドレスをたくしあげようとした時。
バタン!
なんと王様は、扉を閉めてしまったのです。
「王様が消えた!」
様子を見ていたメイドさんが、わなわなと肩をふるわせます。
「そこで逃げるとは……どんだけ奥手なんですか!」
「どうしよう、王様がいなくなっちゃった!」
「想定外でした。まさか、シロさまのこの姿を見て、ケダモノにならないなんて……」
シロはしょんぼりしました。
「王様は、もうシロのおなかもなでてくれないし、尻尾もブンブンさせてくれないのかな……」
「シロさま、そんなことはありません。王様は恥ずかしがっているだけです。お顔を真っ赤にして、扉を閉めましたから」
「恥ずかしいと、尻尾はブンブンしないの?」
「そうですね……可愛いすぎるものを見ると、頭が真っ白になってしまうケモノもいます。王様はシロさまの前だと、緊張しすぎてしまうのかもしれません」
「そっか。仲良くなりたいだけなのに」
「あそこまでピュアだと、難しいかもしれませんね……」
「そっかあ……」
シロは落ち込んで、尻尾をフリフリできませんでした。