白いケモノはお兄さまに会いました。
王子様は背がのびて、大人になりました。シロも少し手足が伸びました。シロはにこにこと笑いながら、王子様に言いました。
「王子様は立派になりましたね。この前は、お兄さまにも勝てましたし、すごいですね。すごいです」
「…………」
「わわっ。急におなかをなでないでください。びっくりしました」
「…………」
「くふふっ。つんつんは、くすぐったいですよ」
「…………」
「王子様が大人になったのに、お城の空気は、ギスギスしていますね。王子様とお兄さま、どっちが王様になるか、みんな気にして、ソワソワしているようです。仲良くなれないですかね」
「…………」
「うーん、難しいのですね。そうだ! 皆さんに、シロのおなかをなでてもらいましょう」
ブンブン揺れていた王子様の尻尾が、とまりました。
「おや? ダメなのですか? シロと王子様は、おなかをなでて仲良くなりました。きっと、シロのおなかをなでれば、みんな仲良くなります」
「…………」
「そんなに怖い顔をしないでください。おなかの毛が抜けるからですか?」
「…………」
「おなかの毛は前より短くなりましたが、つやつやでさわり心地がいいですよ?」
王子様の尻尾はうごきません。
シロは尻尾をへにゃりと、たらしました。
「ダメなのですね。……我慢します」
王子様の尻尾はブンブンゆれました。
ある日。シロの部屋に、王子様のお兄さまが訪ねてきました。
ふたりは兄弟ですが、似ていません。
お兄さまは、ケモノらしく全身がもふもふしていて、黒い毛におおわれています。王子様より体が大きいです。
王子様をこてんぱんに叩きのめしている光景を見ていたシロは、尻尾をピンと伸ばして、お兄さまを警戒しました。
「初めまして、白きお方」
お兄さまの声は穏やかでした。
シロは口を閉じて、尻尾をフリフリしました。
「はじめまして。お兄さまは、優しそうな方ですね」
「ははっ、そうですか?」
「はい。王子様とよくケンカしているので、怖い人かと思っていました」
「あぁ……そうですね。弟には厳しく接していますから」
「なぜですか?」
お兄さまは顔をひきしめました。
「弟が私たちと違う姿をしているからです」
シロは尻尾をぴんと、張りました。
「昔から、皆が弟の姿を見て、怖がりました。弟は黙って反抗しませんでしたが、皆と違う姿に傷ついていたと思います。だから、誰よりも強くして、彼のことを周りに認めさせたかったのです」
お兄さまの尻尾が穏やかにゆれます。
「私より強くしてやろうと思って、いつもケンカしているのですよ」
「そうだったのですね。お兄さまは、やっぱり優しい方です」
お兄さまの尻尾がゆらんと、穏やかに揺れます。シロも尻尾をフリフリしました。ところが、ふいに、お兄さまの尻尾が止まってしまいました。
「今、弟はあなたを森に帰さないことで、窮地に立たされています」
「なんですと!」
「弟を助けると思って、森へ帰ってくれませんか?」
シロは尻尾をだらんとさせました。
「シロは王子様と仲良くしてほしいと、お母さまに言われました」
「女神様が、そんなことを……」
「シロは王子様と仲良くしたいです。王子様は優しい方です。そばにいたいです……森に帰らないと、ダメですか?」
シロが涙目になると、お兄さまは静かに息をのみました。
「あなたのお気持ちはわかりました。なら、弟を王にして、しがらみを一つなくしましょうか」
お兄さまは、王子様とそっくりな笑顔になりました。
「弟をうとましく思う者は、まだまだ多いです。でも、あいつならなんとかするでしょう」
お兄さまは立ち上がって、シロに頭をさげました。
「どうか、弟を見守ってやってください」
お兄さまは、王子様と戦うことになりました。勝った方が、王様になれます。
王子様がお兄さまに勝って、新しい王様になりました。
ケガをして国をでるお兄さまの後ろ姿を見て、シロは悲しくなりました。
「同じ尻尾があるのに、どうして仲良くなれないの?」
尻尾をブンブンし合えばいいのに。
ぐすんと、鼻水をすすっていると、王子様がやってきました。
王子様の目はうるうるしています。
シロは王子様を抱きしめました。
「王子様、王子様。シロのおなかをハンカチにしてください。あったかいですよ?」
「…………」
「悲しいですね。お兄さまがいなくなったら悲しいです……」
その日、シロは尻尾をフリフリできませんでした。