白いケモノはお城にいきました。
白いケモノは王子様に抱っこされたまま、黒いケモノの国にいきました。歩いて、歩いて、歩いていくと、お城が見えてきました。
お城には、黒いケモノがたくさんいます。王子様とは違って、全身が毛むくじゃらです。黒いケモノは王子様を見て、ひそひそ話をしています。いい気持ちがしない目をしていました。大人の黒いケモノが、怖い顔をして、近づいてきます。
「王子様……その白いお方は、どうしたのですか」
「森で拾った」
「女神様の森で、ですか? 真っ白な毛並みといい、大地の女神様の子供ですね。私たちが触ってはいけない尊いお方です。すぐに森に帰してきてください」
「でも、寒さで震えていたんだ。雨に濡れでもしたら、かわいそうだ……」
「ダメです! すぐに帰してきてください!」
王子様は苦しそうに顔をゆがめました。
尻尾もブンブンしていません。
シロは、キッと黒いケモノをにらみました。
「王子さまを困らせたら、めっ!でしゅ。シロは王子さまと、いっしょに居ましゅ」
がうっと、牙をみせて黒いケモノに怒りました。
黒いケモノはびっくりして、黙ってしまいました。
その隙に、王子様は走って、お城のすみっこにある高い高い塔に行きました。
石で作られた部屋に行くと、王子様は白いケモノを閉じ込めてしまいます。
「ごめん……」
王子様は泣きそうな顔をして、シロに首輪と足枷をはめました。
「こうしないと、誰かが、シロを森に帰してしまう。俺にもっと、力があれば、こんなことしなくてすむのに……ごめんね」
シロは短い尻尾をフリフリしました。
「王子さま、王子さま。かなしい顔をしないでくだしゃい。よしよし。だいじょうぶでしゅ。よしよし」
「シロ……」
「シロのおなかを、なでましゅか? 元気になれましゅよ」
シロは服をたくしあげました。
「どうじょ」
むんと、おなかをだしました。
「わわわっ」
勢いよくおなかを突きだしたので、後ろにつんのめりました。
ころん、と後ろに転がったシロを見て、王子さまは、顔をくしゃくしゃにして笑いました。
王子様の尻尾は楽しげにゆれています。
それを見て、シロも笑顔で尻尾をフリフリしました。
その日から、毎日、毎日、王子様はシロの元にやってきました。おいしいご飯を持ってきてくれます。シロの体もきれいに洗ってくれます。
でも、不思議なことに、拾われた次の日から、王子様はしゃべらなくなってしまいました。
「王子様。今日はたくさん食べたので、おなかがパンパンです」
「…………」
「ポンポン音がします。シロのおなかを鳴らしますか?」
「…………」
「ひゃっ。それは鳴らすではなく、くすぐるです」
「…………」
「ふっ、ふふっ。王子様。ふふっ。くすぐったいです。ふふふっ」
「…………」
「くすぐりたいのですか? それなら、シロも王子様をくすぐります。えいっ」
「…………」
「ん? おなかを手でガードしましたね。くすぐられたくないのですか?」
「…………」
「そうですか。なら、シロをくすぐってもいいですよ」
「…………」
「うひゃひゃっ。ははっ! 王子しゃまっ、く、くすぐったいです」
シロは王子様が無言でも、気にしませんでした。