白いケモノは王子様に出会いました。(イラストあり)
ある日。女神様が、森の中で、小さなケモノを産みました。
小さなケモノは真っ白で、ふわふわした毛並みをしていました。まんまるな体に、小さい耳が、ちょこんと生えています。
短い尻尾があって、女神様を見て、フリフリゆらしました。
女神様はほほえみながら、白いケモノに若草色の服を着せました。
「もうすぐ、黒いケモノの王子様がやってくるわ。とっても孤独な王子様だから、そばにいてあげてね」
「わかりましゅた」
「そうだ。おなかを触らせてあげると、とっても喜ぶと思うわ」
「おなか、でしゅか?」
「そうよ。ケモノにとって、おなかを見せるのは、あなたのことが好きってことなの」
「しゅき……」
「王子様のことが怖くなかったら、おなかを見せて、なでさせてあげてね」
白いケモノは、服をたくしあげて、腹芸をするみたいに、おなかを女神様に見せました。
「こうやって、でしゅか?」
女神様は、にっこり笑いました。
「もうひとこえ」
「こう、でしゅか?」
「そうそう。上手よ。おなかをつきだすと、なでやすいわ」
「わかりましゅた」
女神様は、どこからともなく、ペンと紙と木箱を出しました。
〝さわってください。なでると気持ちいいです〟と紙に書いて、箱につけました。女神様は、白いケモノを箱の中にいれてしまいます。
「王子様のこと、見守ってあげてね」
「わかりましゅた!」
女神様はにっこり笑って、消えてしまいました。
白いケモノは木箱の中で、じっと王子様を待ちました。
ぐぅ。
王子様がなかなか来なかったので、寝ました。
体をまんまるにして寝ていると、誰かがきたようです。
白いケモノは耳をぴくんと動かします。眠たい目をこすって見上げると、男のヒトの顔がありました。
でも、黒い耳があって、黒い尻尾もあります。顔や体はニンゲンで、ところどころケモノのようです。体は幼く、少年のようでした。
きっと王子さまだ!
白いケモノは、目をキラキラさせて立ち上がりました。
服をたくしあげて、おなかを王子さまに見せます。
「どうじょ。おなかをなでてくだしゃい」
王子様は、顔を赤くしました。
木箱にはりつけてあった紙と、白いケモノをかわりばんこに見て、尻尾をゆらゆら揺らします。
でも、王子様は、目をぱちくりさせるだけで、なかなか触ってくれません。
もうひとこえ、でしゅね!
「どうじょ。さわってくだしゃい。きもちいいです」
王子様は、黒い尻尾をブンブンさせました。
でも、なでてはくれません。指でおなかをつんつんするだけです。
「どうじょ。おもいっきり、なでてくだしゃい」
そう言うと、王子様はおそるおそる白いケモノのおなかをなでました。
とっても優しい手つきです。
王子様は微笑んでいて、尻尾はブンブンゆれています。
白いケモノも嬉しくて、短い尻尾をフリフリゆらしました。
「へっくち」
長くおなかをだしていたので、白いケモノの体は、すっかり冷えてしまいました。
白いケモノが鼻水をすすると、王子様が抱っこしてくれます。
王子さまの腕のなかは、優しくて、あったかいです。眠たくなってきます。こっくり、こっくり。寝そうになっていると。
「おまえの名前は?」
「ふわっ……なまえでしゅか? ないでしゅ」
「……そう。なら、シロでもいい?」
シロは尻尾をフリフリゆらしました。
「はい。しゅてきです」
王子様は尻尾をブンブンふりました。