表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りのドラゴンナイト  作者: F
一章:空の彼方へ
9/116

2-2:瓦礫の家

 しばらく休んで、また飛び立った。


 連なる山々を飛び越え、時に迂回し、飛んで行く。


 日が沈み始めたころになって、ようやくミラが「……見えた」と言った。


 俺は前方に目を凝らした。確かに、山の腹部に人工の建物らしきものがあるのが分かった。


 一瞬着いたことに安堵しかけ、すぐに息を詰まらせた。よく見ると、それらの建物は原型を留めていない。全体に建物の木材や石材が散乱しているようだ。


「………………」


 ミラは翼をはためかせ、無言で加速した。


 村は山を切り開いて作られた場所らしい。切り立った山の崖を左手に、平坦な土地が広がっている。その端に俺たちは降り立った。


 ミラは変身を解除した。顔は伏せられていて表情は見えない。


「……ミラ」

「………………」


 彼女は無言のまま、こちらを見ずに左手を俺に差し出した。


 俺は意図を察して、右手で握り返した。すると、手が痛いほどの力で握り返された。


 ミラは手を繋いだまま歩き出す。俺もそれに引っ張られる形で村に踏み入った。


 ひどい惨状だった。


 遠目で見て分かっていたが、建物は形を残していない。どれも徹底的に破壊されている。その瓦礫の上にうっすらと雪が積もっていた。


 ミラは手近な壁のそばで立ち止まり、雪を払った。そこには魔法攻撃のものと思われる跡が残っていた。恐らく、この村全体で魔法が飛び交う激戦が繰り広げられたのだ。それが建物に当たり、結果壊された……。


 俺は歩きながらも注意深く村を見渡したが、人の気配は全くなかった。生き物が住んでいる気配もない。俺たち以外に誰もいない。


 痛いほどの静けさが満ちていた。


 手が引っ張られた。


 またミラが歩き出す。


 元々は道だったであろう場所には瓦礫が散乱している。


 しかしミラには分かるのだろう。それらを踏み越えて迷いなく進んでいく。そして、ある瓦礫の山の前で立ち止まった。


「……ここ。ここがね、私の家があった場所なんだよ」


 ミラは震える声で言った。


「ここにあったんだよ……。お父さんも、お母さんも、ここにいた。ここにいたんだよ――」

「………………」


 俺には返す言葉もなかった。


 ミラは家のあった場所に踏み入った。焼けて脆くなった破片が踏まれ、ぱきぱきと音を立てて砕ける。歩くたび、どこかが割れて、どこかが崩れていく。


 今度は家の一角で立ち止まった。


「……ここが私の部屋」


 ミラは瓦礫を指差した。


「――夜、突然襲撃があったの。警笛で目が覚めて、窓の外を見たら、もうあちこちが燃えてるのが見えた」


 ミラは鋭く息を吸った。


「爆発音が飛び交ってた。悲鳴も、雄叫びも、笑い声も、家が崩れる音も――。びっくりして、あの時は何も考えられなかった。動けなかった。……そしたら、窓の外に居た魔法使いと目が合ったの――」


 その人は笑ってた。


 ミラは語る。俺に話しているというより、記憶がフラッシュバックしている感じだった。


「……死んだって思った。でも、その時、お父さんが部屋に入ってきて、私を引っ張って……目の前を炎の球が飛んで行った。ちょっとでも遅かったら死んでたと思う。……それで、」


 彼女の息が詰まった。声が濡れていた。


「……それで、お父さんとお母さんが魔法を使ったの。――『転移の魔法』。並の魔法使いじゃ使えないくらい、すごい魔法。それで……私をむりやり逃がした」

「……逃がして……それで、そのあと奴隷商人に捕まったのか」

「あんな魔法、使うべきじゃなかったのに……!」


 ミラは叫んだ。握られた手にぎゅうっと力が入る。


「あれのせいで魔力をほとんど使っちゃったはず。……もう戦う魔力なんて残ってなかった……私なんかを逃がすより、私を捨てて、戦って応戦したほうが絶対よかった!そうしたら――」


 ミラはひざから崩れ落ちた。俺は手を引っ張られ、釣られてしゃがみ込んだ。


「――お父さんも、お母さんも、死なずに済んだかもしれなかったのに……」

「……ミラ」


 もしかしたら、うまく逃げたかもしれない。


 そんな慰めの言葉なんて言えなかった。


 駄目だ、何もかけるべき言葉が見つからない。今は何を言っても刺激するだけだ。


 何もできない。


 何も言えない。


 それが、ひどくもどかしい。


 俺に出来るのは、放心してしまったミラのそばに居てやることだけだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ