表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りのドラゴンナイト  作者: F
一章:空の彼方へ
6/116

1-6:脱走

 外は薄暗い。明かりは月明りだけ。ぼんやりと照らされた地面を、記憶を頼りに走る。


 この奴隷農場は、四隅に黒い柱が四本立てられている。それが結界だ。


 俺たちの右足に付けられた枷がそれに反応し、その柱に囲まれたエリア外に出ることを禁止している。枷を壊せない限りここから脱走することは出来ないのだ。


 そして、そんな力を残している人間はいない。だから見張りも見当たらない。そんなものは必要ないのだ。


「――待て」


 ふいに何かが聞こえた気がして、俺はミラを引き留めた。


 ミラも同様に聞こえたらしく、さっと立ち止まり、姿勢を低くした。暗い周囲を見渡しながら辺りを耳を澄ませた。


「……あっちだね」

「あぁ」


 音のする方向は、俺たちが来た方角からさらに左手側にいった先からだ。


 記憶が正しければ、あそこには峡谷がそびえ立っているだけだ。そのはずなのに、今はそこに微かな光が灯っている。


 誰かがいる――誰が?監督たちの宿舎は別の方角にある。あんな場所に、一体誰が――。


「………………行こう」


 俺は迷った末に言った。


 聞こえたのはどうやら歓声のようだった。きっと、酒か何かでも飲んでいるのだろう。


 誰が、何のために、どれくらいの規模でそこにいるのかは分からないが、幸い距離が離れている。俺たちが見つかることはないと判断した。


「…………うん」


 ミラは不安そうに言った。



---------------



 それから俺たちは誰にも見つかることなく、四つ柱のうちの一本の根本へ辿り着いた。


 まずは走って乱れた呼吸を整えた。


 夜の冷たい空気が気持ちよかった。深く吸い込むたび、喉が、肺が透き通るような気がする。


 そして人心地ついてから、作業に取り掛かった。


 まずは俺の魔力をミラに渡す必要がある。俺の中の魔力は、この過酷な労働環境の中でだいぶ消耗していたが、それでも十分な量を残していた。


「両手を出してくれ」

「ん」


 差し出された手をしっかりと握る。本音を言えば、少し緊張していた。大規模な魔力譲渡は祖母にしか経験がないし、ここ数年はやってすらいなかった。


 俺は集中するために目を閉じた。


 自分の体に巡る魔力。そこに意識を集中する。そして、そこから両腕に、さらにそこに触れているミラの手に意識を向ける。


 俺の体は魔力。腕は導線。俺はそこに向かって流れを作るだけ。内なる魔力を少しづつ触れた手に流し込んでいく。


「……あ」


 ミラの驚く声が聞こえた。


「……すごい……ほんとに魔力が入ってくる――」


 ブランクがあったとはいえ、問題なく譲渡できている。


 そのまましばらく魔力を流し込み続けた。


「――ん。そろそろいいかも」


 目を開けた。手を離すと、ミラは調子を確かめるように自分の手を何度か握った。


「いけそうか?」

「たぶん」


 ミラは屈みこむと、俺の足の枷に触れた。


「一瞬熱いと思うけど、我慢してね」

「あぁ」


 何となく痛い瞬間を見るのが嫌で、俺は夜空を見上げた。真っ暗な空に、銀色の月と無数の星々が瞬いている――。


 右足にジッと痛みが走った。同時にからん、と金属が落ちる音。


「――っ」

「ごめん、痛かった?」

「いや、平気だ」


 痛みは一瞬で、すぐ気にならなくなった。足元を見ると、ついさっきまで俺の足にあった枷が地面に転がっていた。屈みこんでそれを手に取る。切った、というより溶かしたという感じだった。


「炎の魔法か?」

「うん、そう。私の得意分野だから」


 続いてミラ自身も自分の枷を壊した。


 今度はちゃんと見ていた。


 両手を枷に触れ、小言で何やら呟く。指先に炎の種が生まれ、それを器用に操って、枷の表面をすっと撫でると、金属の枷が飴のように溶けた。生まれた隙間から足首を抜けば終わりだ。


「――これで、ここから出られるんだね」

「あぁ――」


 俺たちは顔を見合わせた。


 俺は農場と外との境界線にゆっくりと足を乗せた。反応なし。思い切ってそのまま歩く。俺は何の抵抗感もなく外に出た。


 遅れてミラも付いてきた。


「……なんというか……あっけないね」

「……そうだな」


 農場の脱走は、思っていた以上にあっけなく完了してしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ