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偽りのドラゴンナイト  作者: F
一章:空の彼方へ
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1-5:魔力を司る者

 この秘密を知っているのは祖母だけだった。


 俺には魔法が使えないことに加え、もう二つ異常があった。


 それは魔力量。


 俺は魔法が使えない代わりに、通常ではありえないほどの魔力を体内に宿していたのだ。


 その量は、祖母に引き取られた一歳の時点で成人の魔法使いと同等の量を秘めていたと聞いた。その量の上限は今でも成長し続けていて、どこまで膨れ上がるのか分からない。


 子どもの頃は魔力が増えすぎていつか体が爆発してしまうのではないかと不安だったが、今のところその気配はない。


 魔法が使えないことと、魔力量の異常。そのどちらも前例のないものだった。


 そして、さらにもう一つ異常があった。


 魔力は他人に渡すことはできない。自分の体内にある魔力が全てで、その中でやりくりをする。


 それが当たり前の常識で、誰も疑うことはない前提だった。


 しかし俺は、その前提をひっくり返してしまった。


 他者への魔力の譲渡。それが俺のもう一つの異常だった。


 魔力は生命力の源だ。体内を循環する魔力は自然治癒力を活性化する。人が病気をしたり怪我をしても数日で治るのはこの作用が大きいとされている。


 俺の場合、それが過剰に働いてしまうのだ。だから傷の治りも他人より圧倒的に早い。


 でも、ただ傷の治りが早いだけなら、この異常を秘密にする必要はなかっただろう。秘密にせざるを得なかったのは、もう一つの魔力譲渡の力のせいだった。


 祖母は俺が軍事的に利用されることを恐れていた。


 魔法使いたちの生命線である魔力は有限だ。魔法を使い続ければいつかは尽きる。


 そして、それはすぐには回復しない。攻撃を終えた魔法使いは戦線離脱を余儀なくされる。当然前線を支える戦力は時間と共に減っていき、さらに後方にはもう戦えない荷物が増えていく。攻めきれなかった場合、圧倒的な不利に陥ることになる。


 しかし、俺の力はそれを覆してしまう。


 消耗した魔法使いに魔力を渡せば、即時また戦線に復帰することができるわけだ。戦力差、兵力差をも覆してしまう可能性を秘めている力だった。


 だから、祖母は秘密にした。俺が戦争の道具として使われないように。俺にも秘密をばらしてはいけないと何度も何度も言った。


『その力は、使い方を間違えれば人を殺してしまう。――あなたが直接手を汚すわけじゃない。でも、間接的に誰かを殺すことになる』


 その言いつけを守り、今の今まで誰にも話したことはなかった。



---------------



 俺は一通り自分のことを話し終え、反応を待った。


「――ほ、ほんとに?そんなことができる人なんて、初めて聞いたよ?」


 口で説明しても彼女は半信半疑だった。なので、おもむろに彼女の手を取り、握った。


 そして、実際に腕を介して魔力を送り込む。


 魔力が流れると、彼女は「――うそ。ほんとに魔力だ」と呟いた。


「……私に言ってよかったの?」


 ふいに彼女が言った。


「いいと思った」


 俺は言った。


「うそはついてないみたいだし、それに……人助けのために使うなら、別にいいだろ」

「うそはついてないけど……ほんとのことも言ってないよ?だって、秘密にしたままだし……」

「逃げたいんじゃないのか?」

「そう……だけど……」


 彼女は喜びと困惑が入り混じった表情を浮かべていた。


「……ありがと」


 どちらからともなく手を差し出して、握手をした。小さく温かな手だった。


 名前を知ったのは協力関係を結んだ後だった。


 名前をミラといった。フルネームは秘密らしい。


 俺も縁を切られているとはいえ、アーティアの名を出すのはまずいと思い、トアとだけ名乗った。


「トア君、ね」

「君はいらない」

「じゃあ、私もミラで」


 脱走すると決めた以上、ここに長居する必要はなかった。


 本当なら、彼女がどういう人なのかを見極めるためにも数日空けた方がよかったのかもしれない。


 でも、彼女はかなり急いでいるようだった。


「……うん。逃げられるなら早い方がいい。すぐにでも」

「分かった。だったら行こう」


 俺たちは周りの奴隷たちが熟睡していることを確認してから、そっと立ち上がった。そして、足音を殺して宿舎を抜け出した。


 去り際、ミラが立ち止まり、宿舎を振り返った。小声でぽつりと何かを言って、俺の元まで走ってきた。


「なんでもないよ」


 ミラは言った。


 でも、本当は聞こえていた。「ごめんね」と、彼女は言っていた。


 俺たちだけが逃げ出すことに対する負い目だろうか。


 でも、全員を助けることは出来ないのだ。大人数で脱走すれば、さすがに監督たちも異変に気が付くだろう。逃げ遅れる人だって出てくる。もしかしたらそれが俺たちになるかもしれない。下手な手は打てないのだ。


 ――……ごめん。


 俺もまた、内心で彼らに謝った。

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