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偽りのドラゴンナイト  作者: F
二章:”α”の煌めき
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1-5:謎の少女

 それからいくつかの質問があった。


 俺の体内の魔力量についてだったり、魔力操作の実践だったりと、新たな情報を引き出すというよりも既存の情報の確認が主だった。特にスパナは俺の魔力保有量に並々ならぬ関心を示した。俺の魔力量はおかしいと、彼はどこか嬉しそうに言った。


「不思議だ、君の体は。たしかに魔力保有量には個人差がある。でも、君のそれと比べてしまうと、大した差とは言えないね。どんぐりの背比べみたいだ。……同年代と比較して数倍……数十倍以上。そしてそれは今も成長段階。……本当なのか疑いたくなるよ、まったく」

「本当です」

「君があれだけの大怪我を負いながらも快方したのは、ディーグの血だけでなく、トア君の魔力量による影響が大きい。

 ――魔力は生命の源。満たされていれば自然治癒力は強化され、逆に枯れかけていれば些細な病気にすらかかりやすくなる。単純に考えれば、トア君は俺たちの数倍傷の治りが早いことになる。だからこそ、傷を塞ぐことができたわけだ……」


 そしてスパナはぶつぶつといいながら、今までの会話の内容などをノートにがりがりと書き記していた。スパナがノートを書き終えるまでの間、誰も何も言わず、それを待っていた。


 やがて彼は顔を上げて、首を捻りながら言った。


「……うん、あと聞いておくべきことは……なんだろうね」

「……って僕の方を見られても」


 シルトは困ったように眉をひそめた。


「聞くこと……は思い付かないかな。思い付いたらまた聞けばいいでしょ。今無理に聞かなくても、時間はあるわけだから」

「それもそうか」

「――ということで一旦話は終わりね。お疲れさま。出立まではまだ時間があるから、ゆっくり休んでね。特にミラちゃん。ほとんど寝てないでしょ」

「……うん」


 シルトは立ち上がり、質問をひねり出そうとしているスパナの襟首を掴んで立たせると、そのままずるずると引きずるようにしてたき火から離れた。


 そして二人きりになった。


「……寝てないのか?」

「……ちょっと寝付けなくて」


 暗がりで分からなかったが、よく見れば目の下に薄っすらと(くま)が見えた。


 ――ずっと待ってたのか……俺のことを……。


 俺が目覚めたとき、ミラはそれに真っ先に気が付いて、飛びついてきた。俺の意識が戻るまでずっとそばで看ていてくれたのだろう。自分も疲れているはずなのに……。


「ごめん。心配かけた」

「……うん。ほんとに心配したんだよ。このまま目覚めなかったらどうしようって……」

「ちゃんと生きてる」

「うん」

「ミラのおかげだよ」

「……後悔、してない?」

「後悔?」


 俺は聞き返した。


「いろいろと。……私と出会ったこととか、血を分けたこととか――」

「――後悔なんて欠片もない。むしろ感謝してる。あの場所で――奴隷農場でミラに出会えて本当によかったって、そう思ってる」


 俺は迷わず即答した。


「……そっか。なら、よかった――」


 ミラはぽすっと頭を預けてきた。そして少しもしないうちに、吐息が規則正しいものに変わった。起きているのも限界だったようだ。


 眠っていても、俺の手は固く握られていて、解くのに苦労した。特に今は指先がごつごつとしているので、彼女の白く細い手を傷つけないよう神経をすり減らした。


 細かい作業が大変だった代わりに、抱きかかえるのは驚くほどに楽だった。竜の血が混入した俺の体は、かつてよりも格段に力が増している。元々ミラの体が華奢で軽いことも合わさって、まるで綿でも抱えているかのような錯覚を抱いた。


 ミラをたき火から離れた位置に運ぶ途中で気が付いた。一人、見知らぬ誰かが寝ている。小動物のように体を丸めて、静かな吐息を立てていた。闇に溶け込みそうな漆黒の髪色だ。癖っ毛のようで、数束髪が外に跳ねていた。


 ――……誰だ?


 記憶を辿っても、その少女に見覚えはなかった。少なくとも奪還作戦のメンバーの中にはいなかった。なら、一体どこで――。


「――フィアルだ」

「――!?」


 唐突に後ろから声をかけられて、思わず飛び上がりそうになった。ミラが眠っていなかったら叫んでいたかもしれない。


 ぎこちなく振り返ると、そこにはいつの間にかスパナが立っていた。引き返してきたらしい。


「……あの、なんて言いました?」

「……ん?フィアル。彼女の名前だよ。トア君はまだ知らないだろう」

「はい……今初めて知りました」

「彼女はミラ君と一緒に檻に閉じ込められていたらしい。フェンドがついでに拾ってきたんだ。彼女はまあ、人質のようなものだと思ってくれればいい」

「人質、ですか」

「敵側が厳重に閉じ込め管理していたところからして、何かしらの価値はあるとの判断だ。君たちと一緒に連れて帰る手筈になってる」

「野放しに見えますけど……」

「まあ、今のところ彼女に敵意はないようだし……様子見だ。――ああそう、彼女、記憶がないらしいんだ。もし彼女が起きたら、なんでもいい、会話してみてくれないか」

「記憶喪失なんですよね?」

「彼女はそう言った。けれど、もしかしたら、何か一つでも未知の情報を知っているかもしれない。……見たところ、年はトア君やミラ君と変わらないくらいだから、君たちのほうが話しやすいと思う。

 ――言いたかったのはそれだけだ。それじゃあ、おやすみ」


 そうして言うだけ言うと、スパナは踵を返して立ち去った。


 ――フィアル。


 俺はその不思議な響きの名前を反芻した。何者なのだろう。


 人質と言っていたから、彼女は竜人ではないのだろう。魔法使い側の人間。ミラとともに王都クリティブへ連行されようとしていた少女。


 なら、そこに何かしらの意味や価値があって然るべきだ。フェンドたちはそう考えたのだろう。もし俺に聞かれたとしても同じように考える。


 ただ、当の本人はぐっすりと寝入っている。今情報を引き出すことはできない。


 彼女の隣にミラをそっと寝かせると、その横で俺も横たわった。


 俺もついさっきまで眠っていた――正確には意識を失っていた――が、横になるとすぐに眠気が襲ってきた。まだ疲労は抜けきっていないらしかった。


 まぶたが重い。


 眠たい。


 その誘惑に抗わず、委ねる。


 そしてそのまま眠りに落ちていった。

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