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偽りのドラゴンナイト  作者: F
一章:空の彼方へ
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2-4:魔力吸収 / 魔力解放

 俺は動けないミラを壁沿いまで引っ張り、じっとしておくよう指示した。そしてミラから離れ、足音を殺して移動を開始した。


 崩れた家に残る壁を伝いながら、体を隠すようにして進んでいく。


 敵は俺たちが飛んできた方向と同じ方向から来たようだ。


 俺は家の正面の壁に着くとしゃがみ込み、背を預け、隙間から様子をうかがった。


 ――敵は二人……いや、三人だ。


 目を凝らす。三つの光がゆらゆらと揺れている。ランタンだ。各々がそれを片手に、まとまって散策している。顔は分からない。フードを目深に被っているからだ。


 そのフード付きのローブには見覚えがあった。特に真ん中の一人が着ているそれには金の刺繍が施されている。奴がリーダー格か。


 上級魔法使いに与えられる特別なものだ。上級魔法使いは並の腕ではなることができない。高度の魔法を操り、かつ数々の実績を残した者にのみ与えられる称号だからだ。


 そして残る二人も、上級ではないものの、上級が引き連れていることから相当の手練れなのだろう。


 真正面から挑んでも勝てる相手ではない。


 しかし、幸いなことに彼らは俺たちがここにいるということに気が付いていない。


 取り巻きの一人は、まるでここに誰かがいるとすら思っていない足取りで、鼻歌さえ聞こえた。……ちょうどリーダーにそれを咎められ、脳天に手刀が落ちた。


「……一応任務中だ」

「……へい」


 そんなやり取りが聞こえた。


 警戒はされていない。なら、今が絶好のチャンス。


 奇襲をしかける。うまくいけば、一人は確実に持っていける自信があった。うまく混乱に乗じることができれば、二人目も。三人目は……厳しいかもしれない。


 ――でも、やるしかないんだ……!


 俺は自分の状態をチェックした。


 体は動く。残る魔力量は心許ない。目は暗闇になれているからはっきり見えるし、相手がランタンを持っているから問題ない。


 俺は足元に転がる手ごろな石の破片を握った。


 息を呑む。


 息を殺す。


 神経を集中させ、動きを探る。


 心臓の音がうるさい。


 息がうまく吸えない。


 うまく吐き出せない。


 耳を澄ませろ。


 急にざっと足音が止まった。


 見つかった――わけではない。


「――手分けしませんか。どうせなにもないんだから」

「……しかしだな」

「同意です。まとまってやるのはまだるっこしくて、効率が悪い」

「……いいだろう。許可する」


 リーダー格が言った。


 息を呑んだ。


 三人は別々に別れた。リーダー格は俺から見て左手に、一人は右手に、そして最後の一人が正面へと別れて歩き出す。正面の男はまっすぐに俺のいる家に近付いてきた。


 腰を浮かせる。


 いつでも動けるように。


 男は軽い足取りで歩いてきた。さっきリーダーに手刀を喰らっていた奴だ。奴は咎められていた鼻歌を歌い、ランタンをくるくると回しながら近づいてくる。


 あと少し。


 あと七歩。


 握っていた石をぐっと握った。


 あと四歩。


 三歩。


 二歩。


 一歩――。


 俺は手に握っていた石を思い切り放り投げた。


 それは放物線を描き、男の斜め後ろ辺りに落下した。


 ごつっという鈍い音。


「――な、なんだ!?」


 男は反射的に音のした方を振り向いた。


 さすがは魔法使いで、気楽な感じだったのが瞬時に臨戦態勢に移った。どこからともなく杖を取り出し、誰もいない背後へ注意を向けた。


 瞬間、俺は動いていた。


 ひざのバネを利用し、足音を殺し、しかし素早く駆ける。


 静かに踏み込み、奴の背後を取った。


 そしてその無防備な背中に俺の両手を押し当てた。


「――イオ!」


 遠くで声。


 リーダー格が異変に気付いた。


 でも、もう遅い。


 俺は押し当てた両手の手のひらで、目の前の男の魔力に接続。


 そしてその体内の魔力を、俺の中へと一気に引き込んだ。


 瞬間的に大量の魔力が流れ込む。


 激痛。


 魔力の通路となった両腕に鈍い痛みが走った。


 それでも――。


「――――――ぁ、が」


 効果あり。


 男は悲鳴すら上げずに気絶した。


魔力吸収(マナ・アブソーブ)』。俺はそう呼んでいる。


 俺が他人に魔力を分け与えることができるなら、その逆も可能なのではないかという発想から始まった。


 使用条件は対象との接触。


 他者の内なる魔力に接続し、それを俺の中へと引き込む技だ。


 俺は人並みではない魔力を保有している。人一人や二人程度の魔力なら楽々吸い取れるだけの容量があった。特に今は、ミラに魔力を分け続けていたこともあり、容量に底が見えていた状態。敵の魔力のほとんどを吸い取ることに成功した。


 魔力は生命の源。それを奪えば、一時的に体の自由を奪うことができる。


 ――次!


 俺は気を失った男を思い切り蹴り飛ばした。


 男は受け身すら取れずに、地面に強かに打ち倒れた。


 その拍子に持っていたランタンが手を離れ、落下し、カシャンと高い音を立てて割れた。


「――おい、どうした!」

「敵だ!警戒態勢を取れ!」

「……!イオ……!?」


 俺は素早く状況を見る。


 左右に敵。左手にいるのがリーダー格。遠い。右手にもう一人。倒れた男を心配してか駆け寄ってくる。――次はこいつだ。


 俺はランタンが消え暗くなったことを利用し、また家の壁の陰に隠れた。


 右手側から魔法使いが走ってくる。


 俺は身を低くし、壁に隠れながら男が走ってくる方へと駆けた。


 壁を境にしてすれ違う。


 瞬間、俺は壁に手をかけ、一気に踏み越え、背後を取った。


 そしてすれ違った奴に向かって走る。


 奴は倒れたイオという男の元で屈み、容体を見ようとした。


「――ケイ、真後ろだ!」


 リーダー格の声。


 ケイと呼ばれた男はすぐさま反応した。


 慌てて振り返る。


 しかし、これも遅い。


 振り向き、迫る俺の存在を認識し、杖を構え、魔法を放つ。


 その工程の間に俺は距離を詰め終えていた。


 屈みこんでいるケイの頭を、駆けたその勢いで引っ掴む。


 両手を触れさせるだけの余裕はない。


 それでもやるしかない――!


「『魔力解放(マナ・リリース)』――!!」

「ぐ――あああああああああああああああああああああ!!」


 ケイは絶叫した。


 ケイは咄嗟に俺の腕を痛いほど掴んだが、すぐに力が抜け、だらりと落ちた。


 悲鳴は止まった。


 『魔力解放(マナ・リリース)』。


 俺がミラにやった魔力譲渡と同じものだ。俺の中の魔力を、他人へと移すもの。しかし今回のこれは、送り込んだ魔力量も、その勢いも違う。


 魔力保有量には上限がある。魔力を消耗し、どれだけ休憩しても、その上限以上の魔力は回復しない。


 『魔力解放(マナ・リリース)』は、その上限値を強制的にオーバーフローさせる。


 生命力の源である魔力も、過剰供給されれば毒になる。


 魔力を奪われたときと同様に、身体機能を一時的に麻痺させることができる。


 倒れたケイはその魔力を消費しない限りまともに動けない。


 ――二人目……!


 どちらの技も、ぶっつけ本番だった。試せる相手は祖母しかいなかったからだ。そしてこんな危険な技を試すわけにはいかない。だから、うまくいくことに賭けた。


 結果は成功。


 しかし、代償も大きかった。


「――う、ぐぅっ……!」


 『魔力解放(マナ・リリース)』によって瞬間的に大量の魔力が流れた右腕。『魔力吸収(マナ・アブソーブ)』のときは両腕で分散できた負担が、もろに片腕に集中した。


 右腕の内側から、突き刺すような鋭い痛みが止まらない。


 繰り返せば壊れてしまうだろう。


 ――……でも、やるしかないんだ……!


 たとえこの身を賭したとしても、ミラだけは、必ず――。


 俺は歯を食いしばり、残る一人――リーダー格の男を睨んだ。

魔力吸収マナ・アブソーブ

トアの持つ魔力操作の力。

触れた対象の魔力に接続し、そこから魔力を引き込み、奪う技。

発動条件は対象との接触。


魔力解放マナ・リリース

触れた対象の魔力に接続し、そこに自身の持つ大量の魔力を流し込む技。

許容量を超える魔力を送ることにより、対象を一時的に行動不能状態にすることができる。

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