家探し
結晶された生活の一部に僕は居て、呼吸を繰り返している。
つまらない言い方をすれば金と飯が僕を縛霊にしているので、結晶から這い出すことは能わないのです。
其れから女だ。僕は真っ黒な視覚のようにして、生活という結晶そのものについてはめしいているのだが、アイロニックにも触覚はまるで澄明に保存されているのです。だから掌は同じゅう呼吸する皮膚をもとめている。あたたかい亀裂を内在させた皮膚をです。
このとき不意に、ある光景を、僕の盲目の皮膚は想起する。
追懐の内容はセクシュアルなものでも何でもない。
家探しの日に、不動産仲介業者に急き立てられて転がり込んだコンビニエンス・ストアの駐車場。
春めいた光が降る片田舎で、羊歯や竹林のように粗雑なみどりが彩る周囲を背に、孵化したタマゴの中身のごとくモコリと聳立する埃っぽい店の、店先のコンクリート打ちはやはり乱雑な光を撒きしめられる一種の生命だったのです。
其処に数台の自転車が雑魚並びしていた。
制服をお仕着せた中学生の男児がいくたりか囀り囀り、何か、僕の網膜が瞬刻だけ視覚をとりかえし、其の囀りの放つ発色をみていた。
其れを覧じて、僕は今、うつろな涙滴をつるつると零しているでしょう。
触覚を伝い知ることが出来ます。
春はあたたかいが寂しいですね。